シスコの目的はすべての人にインクルーシブな未来を提供することです。その取り組みの一環として、ビジネスとサプライチェーンのあらゆる場面で環境負荷を最小限に抑える機会を模索しています。
排出される温暖化ガス(GHG)の種類 スコープ 1 排出量とは、所有または管理している発生源からの直接的な排出量を示します。 スコープ 2 排出量とは、購入エネルギーの生産で生じる間接的な排出量を示します。 スコープ 3 排出量とは、バリューチェーンで発生するすべての間接排出(スコープ 2 は除外)をいい、上流と下流の両方における排出を含みます。 |
世界中のデータセンターが世界の電力需要の 1% 近くを占めています。サステナビリティに対するシスコの全体的な取り組みの一環として、IT チームやワークプレイスリソース(WPR)チームは調達やロジスティクスなどのチームと連携してグローバルデータセンターのサステナビリティを高めてきました。このホワイトペーパーでは、データセンター統合プログラムに本腰を入れて取り組んだ 2016 年から 2022 年初頭までのアクションと成果に焦点を当てています。次に重要な項目を示します。
● 再生可能エネルギーの 72% は全世界のシスコのデータセンターへの電力供給に利用。
● データセンターの数を 26(6 つのコロケーション施設を含む)箇所から 16(3 つのコロケーション施設を含む)箇所に減らし、38% 削減。
● データセンターの電力容量を 29.3 MW から 17.6 MW に減らし、40% 削減。
● サーバーキャビネットの 58%(5100 台)をサービスから撤去し、配置を見直し。
● 43 トンのケーブルインフラと機器を電子廃棄物から転用して再利用。
● データセンター拠点の運用コストを 23% 削減。
以上の取り組みと成果について、次の 5 部構成でご紹介します。
1. 持続可能な設計
2. 運用の最適化
3. エネルギー管理
4. 資産の回収と再利用
5. 責任ある調達
バックグラウンド
持続可能なデータセンターとは機器の選択や設備の設計を通じて電力やスペース、冷却能力を設計面から最適化したものです。シスコはお客様や従業員、パートナーに最適なパフォーマンスを提供するために必要以上の資源を消費しないことを目標に掲げています。
シスコは IT を扱う事業初期からデータセンターのエネルギー消費を最小限に抑えることに取り組み、長年にわたって持続可能性に対する知見を深めてきました。今ではより広い持続可能性の観点からエネルギー消費を捉え、データセンターの設計と構築、機器の入れ替えの際には持続可能性について検討しています。一例を挙げると、ケーブルなどの資材の配備方法を見直して、それらを電子廃棄物にせず転用することを決定したのは持続可能性を踏まえた結果です。
アクション
IT インフラストラクチャの設計:エネルギー効率に優れたハードウェア
IT デバイスの管理プログラムの一環として、シスコは耐用年数が終了した機器を定期的によりエネルギー効率に優れた機器に交換しています。「2016 年を比較対象とすると、最新のシスコ製サーバーではサイズが同じ VM ならブレード 1 台でサポート可能な VM の数が 312% 増加しています」こう話すのは IT チームの主任 UCS アーキテクトである Jason Stevens です。「このような技術の発展によってハードウェアの数を減らしてもワークロードの処理能力を高めることができます。VM 1 台あたりの消費電力は 27% 削減されました」
また、シスコのサーバーは従来のサーバーよりも使用するケーブルの量が少ないため、製造過程での GHG 排出量を削減できます。ソリッドステートドライブ(SSD)を搭載したストレージアレイは、ハードディスクドライブ搭載型と比較して大幅に消費電力を抑えられます。データセンターのストレージ密度は 2017 年から 2021 年にかけて 125% 増加しています。
ハイパーコンバージド インフラストラクチャでデータセンターの設置面積を削減 サンノゼにあるデータセンターを改修する際、前世代の Cisco UCS サーバーとサードパーティ製のストレージで構成されていたラック 37 台を、Cisco HyperFlex HX シリーズ サーバーとバックアップストレージからなるラック 6 台に集約したことで、データセンターの電力および冷却の負荷が 59% 減少しました。 |
設備設計
データセンターの改修期間に、使用予定のサーバー、ストレージ、ネットワーク技術を考慮しつつインフラストラクチャを設計するのが IT チームと WPR チームです。設計段階で包括的なエンドツーエンドのアプローチをとることで、使用する資材やエネルギー消費、GHG 排出量を最適化できます。実際にテキサス州アレンのデータセンターを構築する際に行った決定を事例としてご紹介します。
● 構造化配線の設計を合理化したハードウェア。これにより冷却システムの通気設計に合わせたフリーアクセスフロアが不要になりました。この通気設計は排気ダクト付きのキャビネットを使用するという決定に影響しました。
● 冷却効率の向上。エアサイドエコノマイザを使用してハードウェアを暖かい温度で動作させ、サーバー列上部を排熱用の空間にして排気ダクト付きのキャビネットを採用しています。
● ロータリー UPS システムにより従来の UPS バッテリーを交換する費用をなくし、環境への影響を排除。この決定は他のインフラストラクチャの決定にも影響を及ぼしました。たとえばロータリー UPS は大型のデータセンターで使用すると限られた時間しか稼働できませんが、2 系統の受電線や冗長化された待機系の発電機、他のデータセンターとのアクティブ/アクティブ接続を備え、Cisco Unified Computing System(UCS)による高度なサーバー仮想化が行われているアレンのデータセンターには好都合でした。
当社のデータセンターのうち 2 つがゴールド LEED 認証(建物設計と建設)を取得(テキサス州アレン、ノースカロライナ州 Research Triangle Park)しています。これらのデータセンターはティア 3 の冗長性に対応した設計になっています。また、シスコ最大のデータセンターは、業界最先端の設計により 1.35 を下回る Power Usage Effectiveness(電力使用効率)で稼働します。
成果
2016 年から 2021 年にかけて達成した成果は次のとおりです。
● データセンターの電力容量を 29.3 MW から 17.6 MW に減らし、40% 削減。この数値は自社データセンターとコロケーション施設からの GHG 排出量を合算したものです。11.7 MW の削減の一部はワークロードをパブリッククラウドに移行したことによる結果です。
● スペースと電力容量の使用率を 85% に。シスコの IT データセンター戦略マネージャである Jim Fukuda は「ラックマウント型のネットワーク機器やコンピューティング機器、ストレージ機器に最適な使用率は 85% です」と話します。「このレベルに抑えればワークロードによって電力負荷が変動しても対応できます。ワークロードが増加すれば機器を増強し、デバイスをアップグレードする場合は機器を一時的に追加できるだけの柔軟性を確保できます」
● ブレード 1 台あたりの VM 数が 312% 増加。
● VM 1 台あたりの消費電力(ワット)を 27% 削減。
● データセンターの運用コストを 1,300 万ドル削減。
「データセンターを改修してより高密度のワークロードに対応できるようになったことで、床面積は約 41% 削減され、1 平方フィートあたりのワット数で計算される電力密度は 3 倍以上に増加しました。同時に、想定外の需要にもスケーリングで対応し、99.99% の稼働時間目標を安定して達成できるようになりました」
Rajesh Bansal
インフラストラクチャ クラウドおよびセキュリティサービス担当シニアディレクタ
バックグラウンド
「最適化とは機器やスペース、電力、冷房の使用をなるべく抑えつつもより高い効果を得ることです」と Fukuda は話します。「そこで重要なのが、スペースを縮小しながらより多くのワークロードを詰め込むことです」2016 年の頃、一部のデータセンターではスペースと電力が十分に活用されていない状態でした。また他のデータセンターではキャパシティを上回る需要があり、可用性に対する目標の達成を難しくしていました。キャパシティを増強しながらデータセンターを統合するという、一見すると正反対の 2 つの目標を両立させる必要がありました。
アクション
統合。2016 年から 2021 年にかけてデータセンターを統合し、26 から 16 に削減しました。この中には、4 つのコロケーション施設が含まれます。統合によって、一部の施設は閉鎖され、他の施設は増強されたうえでワークロードを受け入れました。増強されたデータセンターは必要な電力と冷房のインフラストラクチャを備え、より小さなスペースでより多くのワークロードを担うことができます。これまでに、シンガポール、バンガロール、アムステルダム、サンノゼ、オタワのデータセンターを増強しました。
電源に関する考慮事項。データセンターの対応能力は利用できる電力によって変わります。「サーバーとネットワークデバイスが高性能になったことで、2007 年に 3.5 kW だったキャビネット 1 台あたりの平均キロワットは、2021 年には 9~12 kW に増加しました」こう話すのはシスコの IT データセンター設計アーキテクトの Randy Heaslett です。データセンターを改修する場合、使用できる総電力量をキャビネットの数で割って 1 台あたりの平均キロワットを算出します。平均値から大きく外れるようなキャビネット構成にはできません。たとえば、ラック 1 台あたり平均 9 kW の電力を供給するデータセンターを計画している中に、18 kW を消費するラックがあった場合、同じ列の他のキャビネットの電力を奪うことになります。Heaslett は次のように話します。「改修計画ではスペースと電力を均等に利用することを目指しています。たとえば、ラックスペースの使用率が 80% のデータセンターでは、電力容量の使用率も 80% にする方法を探ります」
冷却に関する考慮事項。今日の最新のチップセットは以前よりも電力消費量が多く、付随して発熱も高くなっています。改修後のデータセンターでは列と列の間のスペースを広げることで熱を拡散させるとともに、高密度化したキャビネットの重量が分散されるように設計しています。その他の冷却技術については、「エネルギー管理」の項目を参照してください。
アプリケーションの最適化。細かな最適化の積み重ねは IT インフラに大きな影響を与えました。例は次のとおりです。
● データセンターで実行するアプリケーションを合理化することで、500 以上のアプリケーションをデコミッションすることができました。
● インフラ管理チームが導入したショーバックポリシーとチャージバックポリシーを受けて、アプリケーションチームは使用するインフラの規模の適正化に尽力するようになりました。
● 旧式のアプリケーションのアーキテクチャから最新のクラウドネイティブ アーキテクチャへの転換を進めています。マイクロサービスはコンテナプラットフォームで実行され、API を利用して通信を行います。アプリケーションチームは最新のアーキテクチャを利用することでアプリケーションに対するニーズに応じてインフラを拡張、縮小できるようになり、過剰なプロビジョニングとそれに伴う GHG の排出をなくすことができます。
マウンテンビューのデータセンターの閉鎖 2021 年にシスコの IT チームとエンジニアリングチームは、マウンテンビューにあったデータセンターのワークロードをサンノゼの改修済みデータセンターに移行し、マウンテンビューのセンターを閉鎖しました。かつてマウンテンビューで 280 台のキャビネットを使用してホストされていたワークロードは、今では 48 台のキャビネット(エンジニアリング用 46 台、IT 用 2 台)で処理されており、当時から見ると電力と冷房の使用量はわずかになりました。 |
統合によって得られた成果
● データセンターの床面積を 41% 削減(10 万 5 千平方フィート)
● 685 キロワットの電力容量と 280 台のキャビネットを、IT チームとエンジニアリングチームによってマウンテンビューのデータセンターが閉鎖された後に廃止
● 2.2 メガワットの電力容量と 680 台のキャビネットを、テキサス州リチャードソンのデータセンターから IT チームが撤退した後に廃止
バックグラウンド
エネルギー管理に対するシスコのアプローチは 2 つの要素からなります。1 つは太陽光や風力などの再生可能エネルギー源の使用量を増やすことであり、もう 1 つはエネルギー効率を監視して改善の余地を探すことです。
アクション
再生可能エネルギー。WPR チームはデータセンターの照明などの電力ニーズに対応するために、太陽光発電や風力発電の設備をオンサイトに設置する機会を模索しています。シスコでは IT インフラ用として太陽光発電や風力発電を利用していませんが、テキサス州アレンとリチャードソン、ノースカロライナ州 RTP、そしてバンガロールのデータセンターに屋上設置型の太陽光発電設備を導入しています。アレンのデータセンターでは新しい風力発電設備によって 10 MW の電力がまかなわれています。この設備は日差しや風のない日には、電力網から供給される電力を使用します。シスコは世界中で生み出される再生可能エネルギーから十分な量のエネルギーを購入して、発電量が少ない日の不足分を埋め合わせています。
施設でのエネルギー効率化。環境エネルギーを節約できる機会を見つけるため、WPR チームはデータセンターインフラ管理(DCIM)プラットフォームなどのツールで収集されたデータを調査します。たとえば温度と相対湿度のデータは、エアサイドエコノマイザや高効率のタイル、冷気および熱気を囲い込むためのカーテン、ブランクパネル、Cool Boot(上げ床気密グロメット)などをどこに設置するかを判断するのに役立ちます。アレンのデータセンターでは、エアサイドエコノマイザーを約 50% の割合で使用しています。この設備は外気を取り込んでサーバーを冷却し、排気は冷やさずに直接外に放出します。
成果
● シスコの米国にあるデータセンターの電力の 100%、およびシスコの世界のデータセンターの電力の 72% を再生可能エネルギーから供給。
● 自社データセンターに 1.8 メガワットのオンサイト太陽光発電設備を設置。
● 2013 年から 2016 年にかけて 45 拠点のデータセンターでエネルギー削減プロジェクトを実施。2016 年から 2021 年にかけてさらに 39 件のプロジェクトを完了。2013 年以降に延べ 84 件のプロジェクトを完了し、17,000 トンの CO2 排出を削減するとともに年間 370 万ドルのコストを節約。
基準値
シスコの IT チームは何年もかけて循環経済を実践に移しつつ、あるデータセンターで不要になった資材があれば、それを収集して別のデータセンターで再利用してきました。
「循環経済では資材の使用を減らし、資材の設計を見直して使用資源を節約するほか、「廃棄物」を新しい資材や製品を製造するための資源として回収します」
アクション
ケーブル インフラストラクチャの標準化。標準化されたキャビネット、電源ストリップ、パッチパネル、パッチコードは再配置の場所を選びません。たとえば、改修したサンノゼのデータセンターから撤去したキャビネットは、現在はエンジニアリングラボで使用されています。2021 年にはデバイスの更新時に回収される光ファイバや銅線パッチコードを対象とした再認証プログラムを導入しました。
光ファイバのケーブルインフラ。銅線ケーブルは通常の場合デバイスから切断する必要があるため、今では再利用できないケーブルの束を使用しなくなっています。銅線ケーブルは、2007 年に設計された光ファイバによるバックボーンに置き換えられ、これは現在も使用されています。「各ケーブルには 12 芯からなるファイバの撚り線が使われています」と Heaslett は話します。「10Gbps から 40Gbps に増強されたネットワークの速度はその後 100Gbps になり、今は 400Gbps にまで増強されましたが、それに合わせて光ファイバケーブルのエンドポイントで光 SFP モジュールを変更しさえすればよかったのです」拡張性に優れたケーブル設計によって新しいケーブルの製造や輸送に伴う GHG の排出が抑えられ、埋め立てられる電子廃棄物の量も削減されました。
機器の再利用。データセンターの機器が不要になると、シスコ IT チームが他の場所に転用できるかを確認します。それができない場合はいずれかのラボで使用できるかを確かめます。それもかなわない場合はシスコの回収および
再利用プログラムに機器を送ります。それを担当のチームが Cisco Refresh プログラムを通じて再生した上で販売するか、部品を流用するか、認定業者にリサイクルに出すかを判断します。不要になったストレージハードウェアは、同様のプログラムを持つベンダーに返却します。
成果
● 2019 年から 2021 年にかけて閉鎖されたデータセンターから回収された資材の再利用によって 150 万ドルの節約と電子廃棄物の大幅な削減を達成
● 2022 年 2 月で終了を迎える 5 四半期にわたり、Cisco Refresh を通じてデータセンターから回収した 1813 台の Cisco UCS サーバーが再生を経て販売され、新たに世に送り出された
● 90% のパッチコードが再認定に合格
シスコはデータセンターのサプライヤ(機器ベンダー、コロケーション施設やパブリッククラウドのプロバイダー)も持続可能な慣行に従っていることを確認するための措置を講じています。Responsible Business Alliance(RBA)の設立メンバーとして、シスコは RBA Code of Conduct(行動規範)の策定に携わりました。この行動規範はシスコの Supplier Code of Conduct として採用しています。シスコのサプライチェーン部門では、長年この規範に従って各サプライヤの遵守状況をスコアカードに記録し追跡してきました。今では IT チームはサプライヤ(ストレージ、クラウドプロバイダーなど)と同じ取り組みを行い、非営利団体である CDP のグローバル開示システムを利用しています。サプライヤに提供しているレポートの概要はこちらでご覧いただけます。
シスコは GHG 排出量を削減するための新しい方法を模索し続けています。たとえば、冷却が必要な場所を直接冷やすために、液浸冷却や囲い込みなど代替となる冷却技術の評価を行っています。「供給側の冷気を囲い込む空間と、暖められた空気をダクトで排気側プレナムに引き込む構造に液浸冷却技術を併用することで、データセンターの冷却効率を高めています」こう話すのは Fukuda です。「冷却を効率化することで PUE が改善され、IT 以外のエネルギー消費と GHG 排出量が削減されます」
将来的には電力と冷却がさらに高密度化し、効率化されることでデータセンターの数は少なくなっていく見込みです。そうした動きの背後にあるのが、次世代のシスコ UCS コンピューティング ハードウェアという画期的な技術です。適切な選択と設定をした最新のサーバーは、2016 年のモデルと比較して処理パフォーマンスが 330% 向上し、ホストできる VM 数が 312% 増加していることに加え、VM 単位のエネルギー消費量(ワット)は 27% 減少しています。VM の数が数千という規模になれば、GHG への影響は計り知れないものになります。
IT ワークロードの多くはハイパースケール クラウドプロバイダーやコロケーション施設に移行しましたが、シスコの自社データセンターに対するニーズは根強く残っています。それらを可能な限り持続可能に保つことは地球の保全という観点から重要であり、シスコはこれまで上げてきた成果に大いに自信を持っています。私たちはデータセンターの月間の平均電力容量を 40% 削減し、総合的な設備コストを 23% 削減しました。当社のビジネスチームとエンジニアリングチームには、お客様にサービスを提供し、ビジネスを円滑に運営するために必要な能力とパフォーマンスがあります。社内の他のチームと連携してデータセンターの運用のあらゆる段階(設計、調達、運用、リサイクル)に検討を加えることで、コストを削減し、エンドユーザーにより良いサービスを提供し、ネットゼロ目標を達成できるように取り組んでいます。
詳細情報
Cisco Unified Computing System