コネクテッドカーからの収益の拡大

自動車業界の変化による急激なトラフィックの増加がもたらす、新たな収益の機会

新しい接続がもたらす新たな機会

道路を走行するコネクテッドカーの数が日ごとに増え、これまで以上に多くのデータが共有されています。実際、Cisco Visual Networking Index(VNI)によれば、フリート管理、車内エンターテインメント、インターネットアクセス、路側支援、車両診断、ナビゲーション、高度な運転支援サービスなどのアプリケーションを組み込んだコネクテッドカーは、マシンツーマシン接続の観点から見た場合に最も急成長する業界セグメントとなる見込みです1。SAS 社によると、2025 年までに、新車の機能とアフターマーケットデバイスを合わせると、道路を走行するコネクテッドカーは全世界で約 20 億台になる見込みです 2。数年ごとに交換される携帯電話とは異なり、ほとんどの車両の耐用年数は約 15 年です。これは、まもなく道路上のほぼすべての車両が何らかの方法で接続されることを意味します。2019 年に存在していたコネクテッドカーは 2034 年に製造されるコネクテッドカーとは異なるため、さまざまな機能に対応させる必要が出てきます。

最新の車両は、すでにセルラーテクノロジーを使用してサービス プロバイダー ネットワークに接続され、さまざまなアプリケーションを活用しています。コネクテッドカーの増加により、自家用車と商用車の全体で生成されるデータ量も増加するため、今後の 5G アーキテクチャに影響が及びます。サービスプロバイダーは、ネットワークへの負担が増大することを恐れずに、自動車業界と連携して相互に利益をもたらすことのできる方法を検討する必要があります。サービスプロバイダーが革新的なアプローチを考案し、サービスを自動車のバリューチェーンに組み込むことができれば、コネクテッドカーが生成するデータの単なるパイプ以上の役割を担える絶好のチャンスとなるでしょう。

 

車両、センサー、データの増加

コネクテッドカーはネットワークにアクセスできるため、タイヤ圧や機械システムから、ナビゲーション、地理位置情報、カメラまで、さまざまな情報を共有できます3。機械の状態、車両の性能、運転者の好みに関するデータを使用して、より安全で快適な運転を実現できます。

未来の車両の量産によりデータ量は増加しますが、車両内の一連のセンサーや電子制御ユニットから生成されるデータの多くは、ローカルで記録および処理されます。ほとんどの情報は破棄され、重要なデータのみが自動車メーカーに送信されます。

たとえデータの大部分が車両の外部に出ないとしても、車両から送信されるデータ量がスマートフォンのデータ量をすぐに上回ることは明らかです。1 台のコネクテッドカーだけで 5.2 台のスマートフォンと同じ量のデータが生成される可能性があるため、コネクテッドカー全体の累積データ量により、通信ネットワークインフラに相当な負荷がかかります4。

データとデューティサイクル

道路でさまざまな種類の車両が走行しているように、接続される車両も多様です。大型貨物輸送から公共交通サービス、オートバイまで多岐にわたります。自動車メーカーに送信される情報の量と送信タイミングは、車両によって大きく変わります。データ量は、メーカー、車両のタイプやモデル、車両の設計によって異なります。車両は 2 つのデータストリームを生成し、自動車メーカーと車両事業者の両方にデータを送信します。

自動車業界では、1 日またはデューティサイクルは、24 時間以内の車両の使用を意味します。米国では、小型自家用車の平均走行距離は、年間 18,000 キロメートル強です5。年間平均 261 営業日とすると、自家用車は 1 日あたり約 69 キロメートル走行し、平均移動時間は 53.8 分です 6。

ただし、通勤のために 1 日 2 回運転される自家用車には、1 日 18 時間走行するバスとは異なるデューティサイクルが適用されます。車両のタイプによってデューティサイクルは大きく異なります。たとえば、公共交通機関や貨物輸送の車両は、24 時間の大部分で稼働する必要があります。

比較として、米国では 2016 年に約 1,150 万台のトラックが登録され、その後毎年約 40 万台のトラックが新たに登録されています7。全車両の走行距離は 458,000 百万キロメートルを超えました。

貨物運送などの業界にとって、テレメトリは、車両の運用効率と運転者の安全性の向上に役立つため、ますます重要な資産になっています8。個々の運転パターンと行動、ルート上の交通量、気象条件に関するデータを分析することで、実用的な洞察が得られ、移動中の時間と回避可能なアイドル時間を短縮できます。より直接的には、2013 年のレポートで、米国の平均的なトラックの年間運用コストのうち燃料が 39% を占め、平均的な運用コストは 180,000 ドルであることが示されています9。車両全体の燃料使用量を 2 〜 3% 削減することで、財務面および環境面で大きなメリットが得られます。

今日の携帯電話ネットワークは、比較的小さなデューティサイクルのデータ量をサポートできます。しかし、コネクテッドカーがますます普及し、デューティサイクルのデータ量が増加するにつれ、携帯電話ネットワーク事業者と自動車メーカーは、世界規模でコスト効率の高い展開をサポートする方法を見つける必要があります。

サービスプロバイダーが直面する課題

サービスプロバイダーは、基本的なコンシューマ接続を提供するためだけに、収益率に関する厳しいプレッシャーに直面し続けています。従来の収益源では、5G 向けの新しいインフラストラクチャを構築するためのコストを補うことはできません。競争力を維持するために、サービスプロバイダーは新たな収益機会とパートナーシップを模索する必要があります。自動車業界は、サービスプロバイダーが独自の利点を提供できる分野です。サービスプロバイダーは、自動車業界の接続性、コンピューティング、データストレージ、ディストリビューション、セキュリティのニーズについて理解を深めることができれば、創造的な連携方法を考案できるはずです。

ネットワーク業界では、エッジコンピューティングについてよく耳にします。エッジコンピューティングとは、大量のデータを中央データセンターに転送するのではなく、アプリケーションのパフォーマンスを向上させ、転送コストを削減できる場所にサービスを移動するというアーキテクチャ原則です。

多くのサービスプロバイダーが、お客様の QoE を向上させ、運用コストを削減するために、すでにエッジ コンピューティング ソリューションを導入しています。一定のユーザアプリケーションはエッジコンピューティングの恩恵を受けるため、サービスプロバイダーはマルチアクセス エッジ コンピューティング(MEC)を使用して、データセンター機能をユーザの近くに配置しています。

サービスプロバイダーにとって、エッジインフラストラクチャの実装と運用はビジネスの一部です。この分散アーキテクチャは、データ転送コストと冗長性に関心を持つ自動車メーカーに大きなメリットをもたらします。多くの場合、自動車メーカーは世界中で車両を販売していますが、車両データをいくつかの中央データセンターに送信しています。このアプローチは、転送コストが高く、高可用性への影響があります。より分散されたアーキテクチャでは、サービスの中断が全車両の大部分に影響を及ぼすことはなく、エリア内の少数の車両に影響が限定されます。

サービスプロバイダーは 5G に対応するためにネットワークをアップグレードしていますが、自動車への導入をサポートするには帯域幅の増加が必要になります。車両からのデータは複数のアクセスメカニズム(Wi-Fi を含む)を通過するため、5G ネットワークスライスで管理する必要があります。サービスプロバイダーと自動車メーカーには、ネットワークスライスとそのスライス内のサービスの契約、運用、および監視方法に関して、コラボレーションの機会が開かれています。 

コネクテッドカーの市場は急速な成長と変化を続けていますが、サービスプロバイダーには現在でも、テレメトリとインフォテインメントという 2 つの重要な分野で成功するチャンスが残されています。

テレメトリの機会

コネクテッドカーには多数のセンサーが搭載されているかもしれませんが、データは分析しなければ役に立ちません。すべてのデータが重要というわけではなく、中には有用でないデータもあります。コンテキストと洞察を得るには、テレメトリデータストリームを分析する必要があります。情報を分析し、他のデータと組み合わせることで、自動車メーカーはインテリジェントな意思決定を行い、新しい機会を発見できます。

車両のテレメトリにより、自動車メーカーは車両の走行動作とパフォーマンスに関する洞察を得ることができます。また、顧客ベースを詳細に把握するのにも役立ちます。テレメトリは、路上および生産ラインの両方で車両の問題に対処するのに役立ち、リコールおよび保証コストの影響を受ける車両の数を減らすことができます。McKinsey 社のレポートによると、電子および電気システムに関連するリコール数は、2007 年から 2013 年では年間 5% 増加したのに対し、2013 年以降は 1 年あたり約 30% 増加しています。車両内のソフトウェアの量は増加し、一部の車両では 1 億行を超えるコードが使用されています10。ソフトウェアが増加したことで、車両に影響する問題を検出して軽減することは、自動車メーカーにとって非常に重要になっています。Over-the-Air(OTA)でソフトウェアおよびファームウェアの更新を実行することで、これらの問題に対処できる可能性があります。

車両事業者は多くの場合、自動車メーカーに依存せず、独自のセンサーや通信機器を車両に組み込むことでテレメトリを収集しています。車両事業者は、テレメトリを使用して事業運営に必要な情報を直接取得できるため、効率性と収益性を向上させることができます。貨物運送業者の場合、車両の時間のほとんどを貨物輸送のための移動に費やすため、次のような課題に重点的に取り組む必要があります。

  • アイドル時間。車両が移動していないとき(荷物を降ろしているときなど)も、常にコストがかかります。車両が配送センターでスロットを逃して待機しなければならない場合、時間と利益が失われます。ID の提示やマニフェスト情報の提供などのプロセスでさえ、最適化の対象になります。車両と配送センター間で送信されるデータにより、スロットを逃すことがなくなり、あらゆる面で効率が向上します。
  • 燃料費。燃料は運送業者にとって主要なコストの 1 つです。わずかな割合でも節約すれば、収益性が向上します。逆風やその他の気象事象などの問題を追跡することにより、燃料を節約できる可能性があります。車両から収集したテレメトリを使用して、悪天候を回避できるようなルートを決定することは可能ですが、それにはほぼリアルタイムの情報の入手と処理機能への利用が必要です。

インフォテインメントの機会

インフォテインメントは、コネクテッドカーから得られるもう 1 つの重要な機会です。車載インフォテインメントは進化を続け、多くの自動車メーカーは高解像度のタッチスクリーン機能とカーナビゲーションシステムを搭載しています11。一部のメーカーは、テレビ放送の受信機能や、スマートフォンのようなアプリケーションを実行する機能を乗員向けに提供しています。拡張現実のアプローチを使用して、車内のウィンドウや画面に各種情報(交通量、サービスの提供場所、天気、ターゲット広告など)を表示するといった、高度な概念も試みられています12。

自動車業界では、インフォテインメントにおける自動車メーカーの役割について議論されています。一方では、自動車メーカーが果たすべき役割はない、という意見があります。車両は高度なペアリング Bluetooth アクセサリとして機能するため、ユーザは個人の通信デバイスを接続してそこからメディアを再生できます。このアプローチの重要なポイントは、ユーザが個人の通信デバイスに関連付けられたデータプランを使用するため、メディアおよびナビゲーションサービスの使用に対して料金を支払うことです。

他方では、さまざまな統合およびコネクテッド エクスペリエンスを提供することで、自動車メーカーはインフォテインメントに参加している、とする立場もあります。一部の自動車メーカーは、車両の所有者が個人の通信デバイスとは別に購入できるモバイルデータプランの一部として、このようなサービスを提供しています。その他のメーカーでは、初回の購入の一部としてモバイルデータプランが含まれ、1 〜 3 年の初期契約期間後に更新オプションが提供されます。この場合も、ユーザは直接的または間接的にデータの料金を支払います。インフォテインメントのバリューチェーンに参加することで、自動車メーカーは次のようなさまざまな方法で収益を増やすことができます。

  • 運転者以外の乗員向けの、コンテンツプロバイダーのプレミアムサービス。
  • ロケーションベースの情報と広告(携帯電話のロケーションベースの広告と同様)。

 

成功のためのパートナーシップ

コネクテッドカーの増加に起因する自動車市場の大きな変化により、サービスプロバイダーが新たな収益共有または収益創出の関係を構築する機会が生まれています。サービスプロバイダーはそのような機会を探すとともに、次のことを確認する必要があります。

  • この分野の基盤となる既存のソリューションがあるか。
  • この分野に活用できる既存の資産があるか。たとえば、自動車 OEM が所有していないエッジコンピューティング機能や、データ伝送を容易にしてコストを削減できる、セルラーカバレッジや Wi-Fi ホットスポットなどのマルチアクセスポイントなどがあります。
  • 新しい機会とパートナーシップとして、どのような形が考えられるか。たとえば、立体駐車場の事業者と提携して、カバレッジの向上のためにマネージド Wi-Fi サービスを導入する、などです。
  • 自動車メーカーがコスト削減できる分野があるか。
  • 自動車メーカーと一緒に構築できる新しい収益源があるか。

コネクテッドカーの現在の世代を前提にした場合、次のような潜在的な機会があります。

  • 現在、コネクテッドカーから収集されたテレメトリの多くは、処理のために中央データセンターに転送されています。テレメトリの計算を車両の近くで実行すると、転送および処理されるデータ量が減少するため、自動車メーカーにとってメリットがあります。
  • ビデオなど、一部のタイプのインフォテインメントは、車両に近い配信ポイントを使用することでメリットを得られます。このタイプのトラフィックの QoE を確保するために、ネットワークによってビデオトラフィックにタグを付けることができます。
  • 自動車メーカーと、世界中に多数の車両を保有する企業は、グローバルなパートナーシップに対応した単一の通信サービスプロバイダーと連携することでメリットを得られます。複数の地域でさまざまなサービスプロバイダーと連携するよりも、地理的に分散したネットワークを持つ単一のサービスプロバイダーと提携する方が有利な場合があります。

サービスプロバイダーが収益を創出するための他のアイデアについては、現時点では明確ではありません。可能性を評価する上で、サービスプロバイダーとして、他のクラウドベースの企業にはない資産が自社にあるかを考えてみましょう。たとえば、次のような方法を検討してみてください。

  • データを収益化する。たとえば、複数のトラックを運用している場合は、気象関連のテレメトリデータを自社の車両から取得して再販できます。
  • 自動車メーカーのコストを削減する。サービスプロバイダーとして、地理的に車両に近い場所で提供しているコンピューティング キャパシティがあるか。自動車メーカーが現在契約しているよりも低価格で提供できるデータセンター機能があるか。
  • 自動車のバリューチェーンに参入する。たとえば、バリューチェーンの一部となりえるような、自動車メーカー向けの追加サービスを提供するアプリケーションがあるか。自動車メーカーは、単にデータを転送するだけでなく、物理的に車両に近いデータセンターで実行されるアプリケーションを使用することでメリットを得られるか。
  • 追加のサービスを提供する。データセンターの分散ネットワークがある場合、1 つのデータセンターがダウンした場合に影響を受ける車両の数が少なくなるように、高可用性または冗長性サービスを提供できるか。

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自動車業界は、急速に成長、変化、革新しています。サービスプロバイダーもまた、この変革に参加することができます。既存の資産を活用して自動車 OEM と提携することで、単なるデータのパイプ以上の役割を果たせる可能性があります。詳細については、以下のサイトをご覧ください。