このドキュメントでは、ATM ポート アダプタがトラフィック統計情報を報告する仕組みと、show interface atm または show atm vc コマンドの出力結果に表示される、不正なパケットまたはバイト カウンタの問題を解決する方法について説明します。
このドキュメントでは、よく知られる 5 バイト セル ヘッダーを含む、ATM インターフェイスの変数および固定オーバーヘッド フィールドについて理解していることを前提としています。オーバーヘッドの詳細については、次のテクニカル ティップスを参照してください。
このドキュメントの内容は、特定のソフトウェアやハードウェアのバージョンに限定されるものではありません。
ドキュメント表記の詳細は、『シスコ テクニカル ティップスの表記法』を参照してください。
Virtual Circuit(VC; 仮想回線)および ATM インターフェイスまたはサブインターフェイスの統計情報の更新方法は、プラットフォームによって異なります。一般的に、Cisco 7x00 シリーズ ルータのポート アダプタでは、次のような共通のメカニズムを使用して統計情報が報告されます。
フレーマーによって、レイヤ 1 のフレーミング ビットがはずされます。
Segmentation And Reassembly(SAR)メカニズムは、パケットを再構成し、必要に応じて適切なエラー ビットを適用し、パケットをホスト ドライバに渡します。
パケットがホストへの Direct Memory Access(DMA; ダイレクト メモリ アクセス)によってメモリに入れられると、受信割り込みが発生します。
ドライバはパケットを処理し、課金を行います。
ドライバは、正常、不良に関係なくすべてのパケットのカウンタを更新します。プラットフォーム固有のソフトウェア ブロックは、入力および出力ビット レートや受信負荷などを計算します。
Cisco 7500 シリーズは、PA-A3 インターフェイス ドライバと Versatile Interface Processor (VIP) CPU との間、および VIP CPU と RSP CPU との間の通信を必要とする分散アーキテクチャを使用します。PA-A3 のペリフェラル コンポーネント インターコネクト(PCI)ホスト ドライバは、各パケットの VC ごとの統計情報を収集し、それを VIP ドライバに送信します。ルート/スイッチ プロセッサ(RSP)は、定期的な Cisco IOS® プロセスを通じて統計情報を取得するように VIP にコマンドを送信します。システムが初期化されると、システムの割り込みを最小限に抑えるために、割り込みレベルではなく、スケジュールされたプロセス処理として VIP からの自律的な統計情報を処理する特別なバックグラウンド プロセスをシステムが作成します。
debug atm events コマンドが有効化されると、VIP CPU が RSP にメッセージを送信して VC 統計情報を報告する場合に、次のような出力が表示されます。
received CCB_CMD_ATM_GET_VC_STATS command vcd #
VIP は更新された統計情報を 12 秒間隔で RSP に 送信します。このため、show コマンドの出力結果に表示される値は、瞬間的な値でない場合があります。
問題を切り分けるために VIP コンソールで debug atm event コマンドを使用してください。VIP が RSP に誤った VC 統計情報を送信しているのか、それとも正しい情報が VIP CPU と RSP CPU の通信中に破壊されたのかは、デバッグ出力に表示することが可能です。詳細については、「ATM ルータ インターフェイスの debug atm event の出力について」を参照してください。
注意:debugコマンドを発行する前に、『debugコマンドの重要な情報』を参照してください。debug atm events コマンドを使用すると、実稼働ルータで大量のデバッグが出力される場合があります。出力の量は、統計情報を報告する VC の数や、VC 関連のイベントの量によって異なります。
注:Cisco 12000シリーズでは、エンジン0およびエンジン1のラインカードは10秒ごとにアップデートを送信し、エンジン2などの他のエンジンモデルは高速でアップデートを送信します。4xOC3 ATM ラインカードは、エンジン 0 アーキテクチャを使用しています。
メイン インターフェイスの show interface コマンドの出力結果にある「input packets」フィールドには、受信後出力インターフェイスに正常にスイッチされたパケットの数がカウントされます。
仮想回線(VC)の show atm vc {vcd#} コマンド出力では、「InPkts」フィールドには適切に受信し、IOS スイッチング エンジンに渡したパケットの数をカウントします。IOS スイッチング エンジンがパケットを処理できず、インターフェイス待機キューにドロップする場合、これらのパケットはドロップのみとしてカウントされ、入力パケット カウンタは増加しません。したがって、VC の「InPkts」の値は、メイン インターフェイスの「Input packets」カウンタおよび入力キュー ドロップ カウンタの合計に等しくなります。show atm vc {vcd#} コマンド出力は、VC レベルでパケット ドロップ数をカウントするための「InPktDrops」フィールドも表示します。個別の入力ドロップ カウントにより、ドロップが VC レベルまたはインターフェイス レベルのいずれで発生したかを判断できます。
サブインターフェイスの show interface atm コマンドの出力結果には、サブインターフェイス上にある VC ごとのカウンタの合計が表示されます。次に、PA-A3 上のサブインターフェイスでの show interface atm コマンドの出力例を示します。この例では、ATM Adaptation Layer 5(AAL5)カウンタ、Operations, Administration and Maintenance(OAM)セル カウントなど、レイヤ 2 の情報だけが表示されます。
7206#show int atm 4/0.1 ATM4/0.1 is administratively down, line protocol is down Hardware is ENHANCED ATM PA MTU 4470 bytes, BW 149760 Kbit, DLY 80 usec, reliability 0/255, txload 1/255, rxload 1/255 Encapsulation ATM 0 packets input, 0 bytes 0 packets output,0 bytes 0 OAM cells input, 0 OAM cells output AAL5 CRC errors : 0 AAL5 SAR Timeouts : 0 AAL5 Oversized SDUs : 0
サブインターフェイスのカウンタにはレイヤ 2 の情報だけが反映されるため、メインインターフェイスのカウンタとサブインターフェイスのカウンタは異なります。この違いによって、パケットがどこでドロップされたかを判断する機能が拡張されることに注意してください。たとえば、到着したパケットが、AAL5 Cyclic Redundancy Check(CRC; 巡回冗長検査)などのレイヤ 2 のチェックを通過して、着信 IP ACL が送信元または宛先 IP アドレスにドロップ アクションを指定する メインインターフェイスに転送されるとします。このパケットによって、VC およびサブインターフェイスのドロップ カウンタは増加しますが、メイン インターフェイスのカウンタは増加しません。
このセクションでは、ATM ポート アダプタでインターフェイスおよび VC カウンタの統計情報を報告する際によく発生する問題の一部を紹介します。いくつかの症状について説明し、それぞれのソリューションを提供します。最も一般的な問題には、次のものがあります。
計算されたインターフェイス レートが物理回線レートより高くなる
入力キューのカウンタが負の数になる
重課金、またはカウンタの値が予測の倍になる
QoS サービス ポリシーが適用された PVC の「InBytes」の値が正しくない
ATM サブインターフェイスの統計情報が正しくない、または表示されない
これらの問題の大部分はソフトウェアの問題であり、これまでに Cisco IOS ソフトウェアのさまざまなバージョンで解決されてきました。
この症状は、次の Cisco Bug ID で報告および解決されています。
Cisco Bug ID | 説明 |
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CSCdt49209 | Cisco IOS ソフトウェア リリース 12.0(15)S で 64 ビット SNMP カウンタが導入されたときに、ATM インターフェイスで計算された出力インターフェイス レートが物理回線レートより高くレポートされました。この問題は、トラフィック フローには影響しません。 |
CSCdv13285 | PPP over ATM(PPPoA)セッションを終了するために aal5mux ppp カプセル化を使用すると、Cisco Express Forwarding(CEF)が有効化された Cisco 7200 シリーズ ルータでは、入力データ レートが極端に高くレポートされます。この問題の根本的原因は、誤った PPP echo-request または echo-reply のパケットを 65000 バイトでカウントすることです。 |
シスコ ルータのすべてのインターフェイスでは、ファースト スイッチングでルート キャッシュのエントリとのマッチングに失敗したパケットや CEF テーブルのエントリとのマッチングに失敗したパケットを保存するために、入力キューを使用します。このようなパケットは、着信インターフェイスの入力キューにキューイングされて処理されます。一部のパケットは常に処理されますが、適切な設定の場合、安定したネットワークでは、処理されたパケットの割合によって入力キューが輻輳することは絶対にありません。入力キューがいっぱいになると、パケットはドロップされます。
まれに、show interface atm の出力結果に表示される入力キュー カウンタが、次に示すように負の数になることがあります。
7206_B#show int atm 1/0 ATM1/0 is up, line protocol is up Hardware is ENHANCED ATM PA Description: DNEC.678475.ATI 1/40 MTU 4470 bytes, sub MTU 4470, BW 44209 Kbit, DLY 190 usec, reliability 255/255, txload 6/255, rxload 1/255 Encapsulation ATM, loopback not set Keepalive not supported Encapsulation(s): AAL5 4096 maximum active VCs, 170 current VCCs VC idle disconnect time: 300 seconds 0 carrier transitions Last input 00:00:00, output 00:00:00, output hang never Last clearing of "show interface" counters 01:31:25 Input queue: -6/75/0/0 (size/max/drops/flushes); Total output drops: 0
この問題は、次の Cisco Bug ID で報告および解決されています。
Cisco Bug ID | 症状と回避策 |
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CSCdj73443 | プロセス交換されたパケット(600 ~ 1524 バイトのサイズ)のスイッチ速度を高速化するために、(隣接する)大容量バッファのプールが SRAM に追加されました。この特別なプールからバッファが割り当てられると、入力キュー カウントは増加しません。入力キュー カウントは結局大きな正の数になり、600 ~ 1524 バイトの範囲外のパケットは、入力キューがいっぱいになるために拒否されます。この問題は、大容量の SRAM 隣接バッファ プールを削除することで解決します。 |
CSCdm44539 | 負の入力キュー カウントは、2 つの ATM およびシリアルなどのその他のインターフェイス タイプによって入力キュー カウンタが減少する結果生じます。 |
場合によっては、Cisco IOS 機能の有効化や IOS スイッチング パスの変更によって、パケット カウントまたは計算ビット率が倍になることがあります。このような「二重課金」の問題は、さまざまなインターフェイス タイプとさまざまな機能で報告および解決されています。
この問題は、次の Cisco Bug ID で報告および解決されています。
Cisco Bug ID | 症状と回避策 |
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CSCds23924 | QoS サービス ポリシーの一環である入力 police 機能が、2 回呼び出されます。この結果、入力パケットの 2 重課金が発生し、準拠パケットの値が極端に大きくなり、超過ドロップが発生します。ただし、この修正で最も重要な点は、QoS 機能の再配列です。再配列の結果、次のものが得られます。
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たとえば、Cisco Bug ID CSCds23924 では、パケットが CEF スイッチング パスに従うときに発生する入力 CAR の 2 重課金、またはこの機能を 2 回実行することによって起こるクラスベースのポリシングが解決されます。(CEF は、入力から出力のルータ インターフェイスへパケットを転送する IOS スイッチング メカニズムを定義します)。 この結果、入力パケットの二重課金が発生し、準拠パケットの値が極端に大きくなり、超過ドロップが発生します。
PA-A3 では、IP 課金を有効にすると、show interface atm コマンドで表示される計算済み出力ビットレートが倍増しました。この問題は、IP 課金がdistributed Cisco Express Forwarding(dCEF)ではサポートされていないために発生します。 したがって、IP 課金を有効にすると、ルータ内のパケットのパスが変更され、過剰な出力ビット レートの原因になります。この問題については、Cisco Bug ID CSCdv59172 に文書化されています。
Cisco 7500 シリーズでは、ATM VC に QoS サービス ポリシーを適用すると、show atm vc {vcd#} コマンドの出力結果で「InBytes」の値が正しく表示されないことがあります。この問題が発生するのは、dCEF が有効化されている同じ物理インターフェイス上にある PVC 間で、パケットが分散スイッチされたときだけです。
この問題は、Cisco Bug ID CSCdu17025 で解決されています。
PA-A3 インターフェイス ドライバは、VC カウンタを更新し、これらを共通またはプラットフォームから独立したブロックの ATM コードに送信します。show atm pvc x/y または show interface atm.subint コマンドで表示されるカウンタは、共通 ATM コードによって報告されたものとして表示されており、そのサブインターフェイスにあるすべての VC カウンタの合計です。
サブインターフェイス カウンタに、正しい VC カウンタと増分しない(すなわちゼロ)値が表示されている場合は、ATM 共通コードがすべての VC カウンタを合計していない可能性があります。この問題を解決するには、以下をキャプチャしてください。
show interface atm x/y/z.a -問題が発生しているサブインターフェイス
show atm pvc {vpi/vci} - このサブインターフェイス下に設定された VC
この問題は、次の Cisco Bug ID で報告および解決されています。
Cisco Bug ID | 説明 |
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CSCdu41673 | サブインターフェイスのカウンタは 64 ビット カウンタです。VC 統計情報の更新時には、VIP は 32 ビット カウンタのみを送信します。この問題は、VIP が RSP に統計情報を送信するときに 64 ビット カウンタも更新するようにすると解決できます。 |
CSCdt60738 | Network Services Engine(NSE-1)を搭載したルータのメイン インターフェイスでは、サブインターフェイスと異なる出力パケットの値が表示されます。 |
注:計算されたビットレートは、メインインターフェイスでのみ使用できます。
PA-A3 または他の ATM インターフェイスでカウンタが正しく表示されない場合、Cisco TAC に問い合わせる前に、次の手順でトラブルシューティングを行うことを推奨します。
カウンタからいくつかの出力をキャプチャします。カウンタがトラッキングしているのは、出力データと入力データのどちらですか。
物理または論理インターフェイスのいずれに問題が見られますか。問題が発生している可能性のあるインターフェースは以下のものを含んでいます。
入力キューまたは出力キュー
サブインターフェイス
VC
ATM ドライバは、入力および出力のバイト数を報告するだけです。問題が PA-A3 によって発生するのか、プラットフォーム固有なのかを判断します。まずは、「packets input」および「packets output」カウンタ、さらには入力および出力バイト カウンタが正しいかどうか判断することから始めてください。
正しい場合は、プラットフォーム固有の問題と考えられます。
正しくない場合は、PA 固有の問題を調査してください。
改定 | 発行日 | コメント |
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1.0 |
18-Dec-2007 |
初版 |