このドキュメントでは、isdn incoming-voice data および dialer voice-call コマンドを使用して Data Over Voice(DOV)を設定するための設定例を紹介します。
ドキュメント表記の詳細は、『シスコ テクニカル ティップスの表記法』を参照してください。
このドキュメントに関しては個別の前提条件はありません。
このドキュメントの情報は、次のソフトウェアとハードウェアのバージョンに基づくものです。
Cisco IOS(R) Software Release 11.3 以上
ISDN インターフェイスを備えたルータを使用できます。ただし、電話会社が DOV をサポートすること、およびデータの破損がないことを確認する必要があります。
このマニュアルの情報は、特定のラボ環境に置かれたデバイスに基づいて作成されました。このドキュメントで使用するすべてのデバイスは、初期(デフォルト)設定の状態から起動しています。実稼動中のネットワークで作業をしている場合、実際にコマンドを使用する前に、その潜在的な影響について理解しておく必要があります。
Data over Voice(DOV)を使用すると、ISDN 回線の音声コール上でデータを送信できます。ISDN 回線では、データ コールと音声コールの両方がサポートされています。ISDN 回線で相互接続されている 2 台のルータでは、通常はデータ コール(64kbps または 56kbps)が使用されます。 音声コールは電話またはファックスの場合に生成されます。また、音声コールは、アナログ モデムに接続されたデバイス(たとえば、plain old telephone service(POTS; 一般電話サービス)回線による PC のダイヤルアップ接続など)からも生成されます。
特別な場合、特にデータ コールと音声コールの価格差を考慮する場合には、ISDN 回線を使用して 2 台のルータを音声コールで接続させたいることがあります。ISDN 回線は、一般的にはすべてのコールに対してコールごとに課金されます(ローカル、長距離、および国際)。
場合によっては、音声コールの料金の方がデータ コールの料金よりも安くなります。2 本の ISDN 回線間の音声コールによる通信をルータで行えるようにするには、慎重な設定が必要です。ルータでは、コールを音声コールとして発信すること、および着信音声コールをデータ コールとして扱うようにすることを設定します。送信(発信)側では、map-class オプションを使用して、コールを音声コールとして定義します。
map-class dialer name
dialer voice-call
この map-class により動作を定義します。そして、この動作が必要とされる ISDN インターフェイスへ適用する必要があります。dialer map または dialer string コマンドでの map-class の動作の例を次に示します。
dialer map protocol address class map class name host name [broadcast] phone number
dialer string phone number class map class
この 2 つのコマンドの完全な構文については、「Cisco IOS?Software」のマニュアルを参照してください。
受信(着信)側では、物理的なインターフェイスに対して isdn incoming-voice data コマンドを追加します。すべての着信音声コールがデータ コールとして扱われることを覚えていてください。BRI 上でモデム コールをサポートするプラットフォームを使用している場合は、特別のあるインターフェイスを設定して両方の機能をサポートすることはできません。特別のそのインターフェイスでは、音声コールをモデム コールとして処理すること、および音声コールを DOV コールとして処理することのいずれかを行うことができますが、両方は行えません。
注:特定のインターフェイスを設定して、音声コールをモデムコール、音声コールをDOVコールとして処理できます。ただし、この場合は Resource Pool Management(RPM; リソース プール管理)の設定が必要です。 RPM の詳細については、次の資料を参照してください。リソース プール管理
DOV の信頼性には限界があることを認識しておくことが大切です。2 本の ISDN 回線は、エンドツーエンドのデジタル パスを提供するものです。電話会社がデータ コールおよび音声コールを設定するために使用する機器、回線、およびその他のリソースは、通常は同じものですが、異なる場合もあります。デジタル音声の転送はデータの転送よりも融通性に富んでいます。ISDN のデータ コールの場合、電話網では、64kbps または 56kbps のデジタル パスでのビット転送が保証されています。音声コールの場合、電話網では音声の品質に影響を与えることなくビット ストリームをさまざまな方法で経路制御および処理できますが、この方法での送信ではすべてのデータが破壊されます。したがって、ISDN 回線では DOV が機能しない場合があります。この機能を設定する前に、使用している電話会社で DOV が処理できることを確認してください。電話会社が DOV を処理できない場合、設定が成功した場合でもデータが破壊されてしまいます。
このセクションでは、このドキュメントで説明する機能を設定するために必要な情報を提供しています。
注:この文書で使用されているコマンドの詳細を調べるには、「Command Lookup ツール」を使用してください(登録ユーザのみ)。
このドキュメントでは次の図に示すネットワーク構成を使用しています。
このドキュメントでは、次に示す設定を使用しています。
ルータ 1 |
---|
! version 12.0 service timestamps debug datetime msec service timestamps log datetime msec ! hostname Router1 ! aaa new-model aaa authentication login default local aaa authentication login CONSOLE none aaa authentication ppp default local enable password somethingSecret ! username Router2 password 0 open4me2 ip subnet-zero no ip domain-lookup ! isdn switch-type basic-5ess ! interface Ethernet0 ip address 10.10.186.133 255.255.255.240 no ip directed-broadcast ! interface Serial0 no ip address no ip directed-broadcast shutdown ! interface Serial1 no ip address no ip directed-broadcast shutdown ! interface BRI0 ip unnumbered Ethernet0 no ip directed-broadcast encapsulation ppp dialer string 5556700 class DOV ! --- The router will use the map-class DOV when dialing this number ! --- The map-class named DOV is defined below dialer load-threshold 5 outbound dialer-group 1 ppp authentication chap ! ip classless ip route 0.0.0.0 0.0.0.0 BRI0 no ip http server ! map-class dialer DOV ! --- map class named DOV is applied to the dialer string under ! --- the physical interface dialer voice-call ! --- Outgoing call is treated as a voice call ! dialer-list 1 protocol ip permit ! line con 0 login authentication CONSOLE transport input none line aux 0 line vty 0 4 ! end |
ルータ 2 |
---|
! version 12.0 service timestamps debug datetime msec service timestamps log datetime msec ! hostname Router2 ! aaa new-model aaa authentication login default local aaa authentication login CONSOLE none aaa authentication ppp default local enable password somethingSecret ! username Router1 password 0 open4me2 ip subnet-zero no ip domain-lookup ! isdn switch-type basic-5ess ! interface Ethernet0 ip address 10.8.186.134 255.255.255.240 no ip directed-broadcast ! interface Serial0 no ip address no ip directed-broadcast shutdown ! interface Serial1 no ip address no ip directed-broadcast shutdown ! interface BRI0 ip unnumbered Ethernet0 no ip directed-broadcast encapsulation ppp dialer-group 1 isdn switch-type basic-5ess isdn incoming-voice data ! --- Incoming voice calls will be treated as data calls ! --- An interface cannot accept modem calls and DOV calls without RPM ppp authentication chap ! ip classless ip route 0.0.0.0 0.0.0.0 10.8.186.129 ip route 10.10.186.128 255.255.255.240 BRI0 no ip http server dialer-list 1 protocol ip permit line con 0 login authentication CONSOLE transport input none line aux 0 line vty 0 4 ! end |
ここでは、設定が正しく機能していることを確認するために使用する情報を示します。
一部の show コマンドはアウトプット インタープリタ ツールによってサポートされています(登録ユーザ専用)。このツールを使用することによって、show コマンド出力の分析結果を表示できます。
show isdn status:ステータスは次のようになるはずです。
layer 1 = active layer 2 = MULTIPLE_FRAMES_ESTABLISHED
レイヤ 1 がアクティブでない場合は、配線アダプタまたはポートが不良であるか、あるいは接続されていない可能性があります。レイヤ 2 が TEI_Assign の状態にある場合、ルータはスイッチと通信できていません。ISDN 接続のトラブルシューティングの詳細については、『show isdn status コマンドを使用した BRI のトラブルシューティング』を参照してください。
ここでは、設定のトラブルシューティングに使用できる情報を示します。
注:debug コマンドを使用する前に、「debug コマンドに関する重要な情報」を参照してください。
debug dialer:コールの理由に関する情報を表示します。これは、主にルータがコールを開始したかどうかを判定するために使用されます。
debug isdn q931:ユーザがダイヤルインしたときの ISDN 接続をチェックして、ISDN コールで発生している問題(たとえば、接続がドロップされているかどうかなど)を調べます。 このデバッグ出力から、ベアラ キャップ(コールがデジタルと音声のどちらであるかを示すもの)を確認することもできます。
debug ppp nego:PPP ネゴシエーションの詳細を表示します。
debug ppp chap:認証をチェックします。
次の debug isdn q931 の出力は、DOV を使用したコール接続を示しています。maui-soho-01(クライアント)が maui-nas-08(サーバ)にダイヤルしています。 コールのベアラ キャップが期待どおりに音声コールを示していることに注目してください。maui-nas-08 は着信音声コールを(モデム コールではなく)データ コールとして取り扱うように設定され、そのコールが接続されています。
maui-soho-01#ping 10.8.186.134 Type escape sequence to abort. Sending 5, 100-byte ICMP Echos to 10.8.186.134, timeout is 2 seconds: Aug 17 15:48:12.523: ISDN BR0: TX -> SETUP pd = 8 callref = 0x03 ! --- Setup message for outgoing call Aug 17 15:48:12.531: Bearer Capability i = 0x8090A2 ! --- Bearer Cap indicates that the call is a Voice call(u-law) ! --- An ISDN digital call would be indicated with 0x8890 (for 64k) ! --- or 0x8890218F (for 56k) Aug 17 15:48:12.543: Channel ID i = 0x83 Aug 17 15:48:12.550: Keypad Facility i = '5556700' Aug 17 15:48:12.908: ISDN BR0: RX <- CALL_PROC pd = 8 callref = 0x83 Aug 17 15:48:12.916: Channel ID i = 0x89 Aug 17 15:48:12.927: Locking Shift to Codeset 5 Aug 17 15:48:12.931: Codeset 5 IE 0x2A i = 0x808001038308, '555-6700', 0x8001098001, '<' Aug 17 15:48:13.130: ISDN BR0: RX <- CONNECT pd = 8 callref = 0x83 ! --- maui-nas-08 has accepted the call and responded with the ! --- CONNECT message Aug 17 15:48:13.142: Locking Shift to Codeset 5 Aug 17 15:48:13.150: Codeset 5 IE 0x2A i = 0x808001038308, '555-6700', 0x8001098909, 'Connected', 0x80010B8001, '(' Aug 17 15:48:13.217: %LINK-3-UPDOWN: Interface BRI0:1, changed state to up. Aug 17 15:48:13.249: ISDN BR0: TX -> CONNECT_ACK pd = 8 callref = 0x03 Aug 17 15:48:14.372: %LINEPROTO-5-UPDOWN: Line protocol on Interface BRI0:1, changed state to up Aug 17 15:48:19.185: %ISDN-6-CONNECT: Interface BRI0:1 is now connected to 5556700
次のデバッグは、maui-nas-08(サーバ)から得られたものです。 ベアラ キャップにより、コールが音声コールであると示されていることに注意してください。NAS は、このインターフェイス上で着信音声コールをデータ コールとして取り扱うように設定されています。
maui-nas-08# Aug 17 15:48:12.765: ISDN BR2/0: RX <- SETUP pd = 8 callref = 0x13 ! --- Setup message for incoming call Aug 17 15:48:12.765: Bearer Capability i = 0x8090A2 ! --- Bearer Cap indicates that the call is a Voice call(u-law) ! --- An ISDN digital call would be indicated with 0x8890 (for 64k) ! --- or 0x8890218F (for 56k) Aug 17 15:48:12.765: Channel ID i = 0x89 Aug 17 15:48:12.765: Signal i = 0x40 - Alerting on - pattern 0 Aug 17 15:48:12.765: Called Party Number i = 0xC1, '5556700', Plan:ISDN, Type:Subscriber(local) Aug 17 15:48:12.765: Locking Shift to Codeset 5 Aug 17 15:48:12.765: Codeset 5 IE 0x2A i = 0x808001038001118001, '<' Aug 17 15:48:12.769: ISDN BR2/0: Event: Received a DATA call from on B1 at 64 Kb/s ! --- The incoming voice call (on int bri 2/0) is treated as a data call ! --- This is configured (in interface config mode) using ! --- isdn incoming-voice data Aug 17 15:48:12.769: ISDN BR2/0: TX -> CALL_PROC pd = 8 callref = 0x93 Aug 17 15:48:12.773: Channel ID i = 0x89 Aug 17 15:48:12.773: %LINK-3-UPDOWN: Interface BRI2/0:1, changed state to up Aug 17 15:48:12.773: BR2/0:1 PPP: Treating connection as a callin Aug 17 15:48:12.773: BR2/0:1 PPP: Phase is ESTABLISHING, Passive Open Aug 17 15:48:12.773: BR2/0:1 LCP: State is Listen Aug 17 15:48:13.073: ISDN BR2/0: TX -> CONNECT pd = 8 callref = 0x93 ! --- The call is accepted and nas-08 responds with the CONNECT message Aug 17 15:48:13.073: Channel ID i = 0x89 Aug 17 15:48:13.121: ISDN BR2/0: RX <- CONNECT_ACK pd = 8 callref = 0x13 ! ---Output omitted ...
改定 | 発行日 | コメント |
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1.0 |
19-Nov-2007 |
初版 |