統合サービス デジタル網(ISDN)基本速度インターフェイス(BRI)のトラブルシューティングを行う際には、ルータが通信事業者の ISDN スイッチと適切に通信できるかどうかを最初に判断する必要があります。これを確認したら、ダイヤラ設定、該当するトラフィック定義、PPP 障害などの問題の高度なトラブルシューティングに進むことができます。
この文書を読むには、次の知識が必要です。
BRI レイヤ 2 の問題のトラブルシューティングを行う前に、レイヤ 1 が機能していることを確認します。その判断を行う上で、またはレイヤ 1 のトラブルシューティングを行う上でサポートが必要な場合は、『show isdn status コマンドを使用した BRI のトラブルシューティング』を参照してください。
debug コマンドを発行する前に、『debug コマンドに関する重要な情報』を参照してください。
注:次のコマンドを使用して、デバッグのミリ秒のタイムスタンプをアクティブにします。
maui-soho-01(config)#service timestamps debug datetime msec maui-soho-01(config)#service timestamps log datetime msec
このドキュメントの情報は、次のソフトウェアとハードウェアのバージョンに基づくものです。
Cisco IOSR ソフトウェア リリース 12.0
このマニュアルの情報は、特定のラボ環境に置かれたデバイスに基づいて作成されました。このドキュメントで使用するすべてのデバイスは、初期(デフォルト)設定の状態から起動しています。実稼動中のネットワークで作業をしている場合、実際にコマンドを使用する前に、その潜在的な影響について理解しておく必要があります。
ドキュメント表記の詳細は、『シスコ テクニカル ティップスの表記法』を参照してください。
show isdn status コマンドを使用し、インターフェイスのスイッチ タイプが正しく設定されていることを確認します。スイッチ タイプが設定されていない例を次に示します。
maui-soho-01#show isdn status **** No Global ISDN Switchtype currently defined **** ISDN BRI0 interface dsl 0, interface ISDN Switchtype = none Layer 1 Status: ACTIVE Layer 2 Status: Layer 2 NOT Activated !-- An invalid switch type can be displayed as a Layer 1 or Layer 2 problem. Layer 3 Status: 0 Active Layer 3 Call(s) Activated dsl 0 CCBs = 0 The Free Channel Mask: 0x80000003 Total Allocated ISDN CCBs = 0
スイッチ タイプが設定されていない場合、または設定が正しくない場合は、インターフェイスでスイッチ タイプを設定します。
ヒント:設定を必要とするスイッチ タイプについては、電話会社から明示的な指定があります。特に北米では、電話会社がスイッチ タイプとして「custom」や「national」を指定する場合があります。 その場合は、次のガイドラインに従ってスイッチ タイプの設定を決めてください。
Custom:電話会社からスイッチタイプがCustomと表示された場合は、ルータのスイッチタイプをbasic-5ess(5essスイッチのBRIの場合)、primary-5ess(5essスイッチのPRIの場合)、basic-dms(DMSスイッチのBRIの場合)、またはprimary-dms(PRIのです。
National:BRI の場合は NI-1 規格、PRI の場合は NI-2 規格に準拠しているスイッチ タイプです。電話会社から通知されたスイッチ タイプが「National」の場合は、Cisco ルータの設定を basic-ni(BRI の場合)または primary-ni(PRI の場合)にしてください。
注:Cisco IOSソフトウェアリリース11.2までの場合、設定されたISDNスイッチタイプはグローバルコマンドです(つまり、IOS 11.2以前の同じCiscoシャーシでBRIおよび一次群速度インターフェイス(PRI)カードを使用できません)。 Cisco IOS 11.3T 以降では、1 つの Cisco IOS シャーシ内で複数のスイッチ タイプがサポートされています。
使用しているスイッチ タイプについて電話会社に問い合わせてから、次に示すように isdn switch-type コマンドを使用してルータでスイッチ タイプを設定します。
maui-soho-01#configure terminal Enter configuration commands, one per line. End with CNTL/Z. maui-soho-01(config)#isdn switch-type basic-5ess maui-soho-01(config)#exit
次に示す各ステップを実行した後、show isdn status コマンドを使用して BRI レイヤ 1 と 2 が動作しているかどうかを確認します。
debug isdn q921 をオンにして、ルータから電話会社の ISDN スイッチに送信されるメッセージを追跡します。
次に、clear interface bri number を使用して BRI インターフェイスをリセットします。これによって、ルータが電話会社の ISDN スイッチとレイヤ 2 情報を再度ネゴシエートします。
レイヤ 2 のネゴシエーションが成功した例を次に示します。
maui-soho-01#undebug all All possible debugging has been turned off maui-soho-01#debug isdn q921 ISDN Q921 packets debugging is on maui-soho-01#show debug ISDN: ISDN Q921 packets debugging is on ISDN Q921 packets debug DSLs. (On/Off/No DSL:1/0/-) DSL 0 --> 1 1 - ... ... maui-soho-01#clear interface bri 0 maui-soho-01# *Mar 1 00:03:46.976: ISDN BR0: TX -> IDREQ ri = 29609 ai = 127 ! -- IDREQ: Identity Request transmitted (Tx)to the ISDN switch requesting a ! -- Terminal Endpoint Identifier (TEI) ! -- Action Indicator, AI = 127 indicates that the ISDN switch can assign any ! -- TEI value available *Mar 1 00:03:47.000: ISDN BR0: RX <- IDASSN RI = 29609 AI = 96 ! -- IDASSN: Identity Assigned message Received(Rx) with the TEI value(96) ! -- assigned by the ISDN switch *Mar 1 00:03:47.016: ISDN BR0: TX -> SABMEp sapi = 0 tei = 96 ! -- Request the connection be put in Multiple Frame Established State *Mar 1 00:03:47.036: ISDN BR0: RX <- UAf sapi = 0 tei = 96 ! -- Unnumbered Acknowledgment(UA) of the SABME message ! -- Layer 2 is now Multiple Frame Established *Mar 1 00:03:47.040: %ISDN-6-LAYER2UP: Layer 2 for Interface BR0, TEI 96 changed to up *Mar 1 00:04:07.340: ISDN BR0: RX <- INFOc sapi = 0 tei = 96 ns = 0 nr = 0 i = 0x08007B3201C3 *Mar 1 00:04:07.352: ISDN BR0: TX -> RRr sapi = 0 tei = 96 NR = 1 ! -- RRr Service Access Point Identifier (sapi=0) indicates data link services ! -- are provided to a network Layer.
debug isdn q921の詳細と、レイヤ2ネゴシエーションシーケンスをデコードする方法については、『debug command reference』を参照してください。また、『debug isdn event』にも、debug 情報の詳細が掲載されています。
正常に機能している回線(レイヤ 2 は Multiple Frame Established である)に対して、リンクがアップ状態であることを示すためにルータと ISDN スイッチの間で RRp sapi = 0 and RRf sapi = 0 メッセージを定期的に交換する必要があります。Receiver Ready poll(RRp)と Receiver Ready final(RRf)の間の sapi メッセージの間隔は、通常は 10 ~ 30 秒です。30 秒間隔のメッセージの例を次に示します。
*Mar 1 01:33:48.559: ISDN BR0: TX -> RRp sapi = 0 tei = 96 NR = 0 *Mar 1 01:33:48.579: ISDN BR0: RX <- RRf sapi = 0 tei = 96 NR = 0 *Mar 1 01:34:18.347: ISDN BR0: TX -> RRp sapi = 0 tei = 96 NR = 0 *Mar 1 01:34:18.367: ISDN BR0: RX <- RRf sapi = 0 tei = 96 NR = 0
レイヤ 2 の問題は、通常はカスタマー サイトでは対処できません。ただし、レイヤ 2 のデバッグ(またはデバッグの解釈)を参考用として電話会社に提供することはできます。debug isdn q921 コマンド出力は、ISDN スイッチとルータの間に発生するレイヤ 2 トランザクションの詳細を提供します。
メッセージの方向に注意してください。このデバッグでは、メッセージがルータで発生したものか(TX -> で表示)、ルータで受信されたものか(RX <-- で表示)が示されています。 次の例では、最初のメッセージ(IDREQ)はルータから送信され、2 番目のメッセージ(IDASSN)は ISDN スイッチから送信されています。
*Mar 1 00:03:46.976: ISDN BR0: TX -> IDREQ RI = 29609 AI = 127 *Mar 1 00:03:47.000: ISDN BR0: RX <- IDASSN RI = 29609 AI = 96
特定のメッセージおよび応答の方向を追跡することで、問題の根源を突き止めることができます。たとえば、電話会社の ISDN スイッチが予期せずレイヤ 2 接続解除を送信する場合、ルータはレイヤ 2 のリセットも行います。これは、問題が電話会社の ISDN スイッチにあることを示します。
ルータと ISDN スイッチは、多数のレイヤ 2 メッセージを送受信します。ほとんどのメッセージは通常のものであり、通常の動作を検証するために使用されます。ただし、一部のメッセージはレイヤ 2 の問題を示す場合があります。時折発生するリセットがサービスに影響していなくとも、レイヤ 2 の不安定な時間が長引くようであれば、回線をさらに厳密に調査する必要があります。
次の表は、問題を表示する debug isdn q921 レイヤ 2 メッセージを示しています。
メッセージ | 説明 | 考えられる解決策 |
---|---|---|
ID-Denied | ISDN スイッチは、要求されたターミナル エンドポイント識別子(TEI)を割り当てることができません。 このメッセージに AI=127 がある場合、ISDN スイッチには利用可能な TEI はありません。通常、このメッセージの後ろにルータからの別の IDREQ が続きます。 | BRI インターフェイスに対して clear interface bri number または shut/no shut を使用することで BRI インターフェイスをリセットします。AI=127 である場合、電話会社/プロバイダーに連絡します。 |
IDREM | ISDN スイッチによって、その接続から TEI(ID)が削除されました。ルータは、その TEI を使用している既存のすべての通信を廃棄する必要があります。 | 新しい TEI が後で割り当てられたかどうかを確認します。割り当てられていない場合は、電話会社に連絡します。 |
DISC | DISConnect(接続解除)メッセージを送信した側が、リンク上でのレイヤ 3 の動作を終了しました。これは、もう一方の側で認識されていない(UAcknowledged)可能性があります。その後、ルータはリンクを再確立する SABME メッセージを送信する必要があります。 | 接続解除メッセージがルータから発信されている場合、インターフェイス上で clear interface bri number または shut/no shut を使用してインターフェイスをリセットします。DISC メッセージが ISDN スイッチから発信されている場合は、電話会社に連絡します。ルータが SABME を開始しない場合、まずインターフェイスをリセットしてください。 |
DM | 応答確認された接続解除モードです。このメッセージを送信したデバイスは、Multiple Frame Established 状態になることを望んでいません。ルータはレイヤ 2 状態の TEI_ASSIGNED のままになります。SABME は、もう一方の側が DM ではなく UA で応答するまで再送信されます。 | ルータによって DM が生成される場合、インターフェイスで clear interface bri number または shut/no shut を使用してインターフェイスをリセットします。DM メッセージが ISDN スイッチから発信されている場合は、電話会社に連絡します。 |
FRMR | (ISDN スイッチからの)フレーム拒否応答は、再送信では回復できないエラーを示します。ルータでは、Multiple Frame Established の状態に移行するために、レイヤ 2 のリセットを開始し、SABME を送信します。 | ルータが SABME を開始しない場合、インターフェイスに対して clear interface bri number または shut/no shut を使用してインターフェイスをリセットします。 |
表に示された受信 DISC メッセージの例は、次のように提供されます。
Jan 30 10:50:18.523: ISDN BR1/0: RX <- RRf sapi = 0 tei = 71 NR = 0 Jan 30 10:50:23.379: ISDN BR1/0: RX <- DISCp sapi = 0 tei = 71 Jan 30 10:50:23.379: %ISDN-6-Layer2DOWN: Layer 2 for Interface BR1/0,TEI 71 changed to down Jan 30 10:50:23.383: ISDN BR1/0: TX -> UAf sapi = 0 tei = 71
トラブルシューティングには、他にも次のようないくつかのステップがあります。
ルータが ISDN Q.921 IDREQ を送信しており、ISDN スイッチから何も応答を受信していないことがわかったとき、SPID が正しく設定されていることを確認し、電話会社に SPID を確認して、必要であれば電話会社に SPID の追跡を依頼してください。
次に例を示します。
19:27:31: TX -> IDREQ RI = 19354 AI = 127 dsl = 0 19:27:33: TX -> IDREQ RI = 1339 AI = 127 dsl = 0 19:27:35: TX -> IDREQ RI = 22764 AI = 127 dsl = 0 19:27:37: TX -> IDREQ RI = 59309 AI = 127 dsl = 0
それぞれの IDREQ には AI = 127 があるので、ISDN スイッチが利用可能な任意の TEI 値を割り当てるように要求しているのがわかります。
通常、ルータには、電源投入時に ISDN スイッチによって TEI が割り当てられます。しかし、特にヨーロッパでは、アクティブ コールがないときにスイッチがレイヤ 1 またはレイヤ 2 を非アクティブにする場合があります。場合によっては、ISDN コールが発信または着信された際に TEI ネゴシエーションが行われるように、BRI インターフェイスで isdn tei-negotiation first-call を設定する必要があります。通常、この設定は、ヨーロッパの ISDN サービスや、TEI ネゴシエーションを開始する設計になっている dms100 スイッチへの接続に使用されます。
maui-soho-01(config)#interface bri 0 maui-soho-01(config-if)#isdn tei-negotiation first-call
この場合、TEI ネゴシエーションが行われるには、ダイヤルアウトを開始するかコールを着信することが必要になる場合があります。ダイヤルアウトの場合は、DDR コンフィギュレーションが正しいことを確認します。
ルータをリロードします。
前述の手順をすべて実行し、レイヤ 1 と 2 が適切に確立されないことが続く場合、電話会社に連絡してトラブルシューティングを進めてください。
改定 | 発行日 | コメント |
---|---|---|
1.0 |
15-Nov-2005 |
初版 |