このドキュメントでは、Intermediate System-to-Intermediate System(IS-IS)のルート漏出の概要を説明します。
このドキュメントに特有の要件はありません。
このドキュメントの内容は、特定のソフトウェアやハードウェアのバージョンに限定されるものではありません。
ドキュメント表記の詳細は、「シスコ テクニカル ティップスの表記法」を参照してください。
IS-IS ルーティング プロトコルでは、ルーティング情報に 2 レベルの階層を設けることが可能です。1 つのレベル 2 バックボーンによって、隣接する複数のレベル 1 エリアを相互接続できます。ルータはレベル 1、レベル 2、またはその両方に所属できます。レベル 1 のリンクステート データベースには、そのエリアの情報のみが格納されます。レベル 2 のリンクステート データベースには、そのレベルの情報だけでなく、レベル 1 の各エリアの情報も格納されます。L1/L2 ルータは、レベル 1 とレベル 2 のデータベースを両方とも保持します。L2に属するL1エリアに関する情報をアドバタイズします。各L1エリアは基本的にスタブエリアです。L1 エリアの外部アドレス宛てのパケットは最も近い L1/L2 ルータにルーティングされ、そこから宛先エリアに転送されます。最も近い L1/L2 ルータにルーティングすると、宛先への最短パスが別の L1/L2 ルータを経由する場合に、最適なルーティングにならない可能性があります。ルート漏出は、L2 情報を L1 エリアに漏出(再配送)するためのメカニズムを提供するため、非最適ルーティングの低減に役立ちます。エリア間ルートに関する詳細な情報を持つことにより、L1 ルータはどの L1/L2 ルータにパケットを転送すればよいかについて適切な判断を下すことができます。
ルートリークは、RFC 2966で定義され 、TLVタイプ128および130の狭いメトリックタイプ、長さ、および値(TLV)タイプ128および130で使用されます。IS-IS拡張 。 TLVで定義されたルートがリークされたかどうかを示す/downビット。アップ/ダウン ビットが 0 に設定されたルートは、その L1 エリア内で発信されています。アップ/ダウンビットが設定されていない(0である)場合、ルートはL2からエリアに再配布されています。アップ/ダウンビットは、ルーティング情報と転送ループを防止するために使用されます。L1/L2 ルータは、アップ/ダウン ビットが設定されている L1 ルートを L2 に再アドバタイズしません。
L1 ルータは通常、ローカル エリアの外部アドレス宛てのパケットを最も近い L1/L2 ルータに転送しますが、これは最適でないルーティング決定につながる可能性があります。次のネットワークダイアグラムでは、ルータCはエリア2と3宛てのトラフィックをルータXとルータYを経由して転送します。すべてのリンクのコストが1であると仮定すると、ルータXに到達するコストは2で、ルータDはルータBを経由します。
ルート漏出を使用すると、エリア2と3に関する情報をルータAとルータBによってエリア1に再配布できます。これにより、ルータCとルータDはエリア2とエリア3に最適なパスを選択できます。ルータCはルータA経由でエリア3にトラフィックをルータAを経由してエリア2に転送しながら、コストを3に削減します。同様に、ルータDはルータCを経由してエリア2に転送し、ルータBを経由してエリア3にルーティングします。
Router A と Router B でルート漏出を有効にすることで、Router C と D は Area 2 と Area 3 に到達するための正確なコストを算出することができます。ルート漏出により、IS-IS は、他のエリアに向かうパケットを「最短パスで終了」できるようになりました。
MPLS-VPN 環境では、Provider Edge(PE; プロバイダー エッジ)ルータのループバック アドレスごとに到着可能性情報が必要です。PE ループバックのルートを漏出すると、このタイプの実装で複数エリア階層を使用できます。
ルート漏出は、簡素な形態のトラフィック エンジニアリングを実装する場合にも使用できます。個々のマシンまたはサーバのルートを特定の L1/L2 ルータから漏出することで、これらのアドレスに到達する際に使用される L1 エリアからの出力点を制御できます。
ルートリークは、Cisco IOS®ソフトウェアリリース12.0S、12.0T、および12.1で実装およびサポートされています。12.0Tおよび12.1リリースでは、同じ設定コマンドが使用されます。12.0S リリースではコマンドの構文が異なりますが、どちらのコマンドもルータ IS-IS 設定内に入力します。レベル 2 からレベル 1 に漏出するルートを定義するために、IP 拡張アクセス リストを作成する必要があります。IOS 12.0S はタイプ 135 TLV を使用したルート漏出のみをサポートします。ワイド形式のメトリックを設定せずにルート漏出を設定した場合は、ルート漏出が実行されません。IOS 12.0T および 12.1 はナロー形式とワイド形式のどちらかのメトリックを使用したルート漏出をサポートしますが、ワイド形式のメトリックを使用することを推奨します。
それぞれの IOS リリース用の設定コマンドを次の表に示します。
IOS ソフトウェア リリース | コマンド |
---|---|
12.0S | advertise ip l2-into-l1 <100-199> metric-style wide 注:2つ目の文は必須です。 |
12.0T および 12.1 | redistribute isis ip level-2 into level-1 distribute-list <100-199> metric-style wide 注:2番目の文はオプションですが、推奨されます。 |
漏出ルートは、ルーティング テーブルおよび IS-IS データベースではエリア間ルート(interarea route)と呼ばれます。ルーティング テーブルを表示したときに、漏出ルートには ia の識別子が付きます。
RtrB# show ip route Codes: C - connected, S - static, I - IGRP, R - RIP, M - mobile, B - BGP D - EIGRP, EX - EIGRP external, O - OSPF, IA - OSPF inter area N1 - OSPF NSSA external type 1, N2 - OSPF NSSA external type 2 E1 - OSPF external type 1, E2 - OSPF external type 2, E - EGP i - IS-IS, L1 - IS-IS level-1, L2 - IS-IS level-2, ia - IS-IS inter area * - candidate default, U - per-user static route, o - ODR P - periodic downloaded static route Gateway of last resort is 55.55.55.1 to network 0.0.0.0 i ia 1.0.0.0/8 [115/30] via 55.55.55.1, Serial1/0 i ia 2.0.0.0/8 [115/30] via 55.55.55.1, Serial1/0 i ia 3.0.0.0/8 [115/30] via 55.55.55.1, Serial1/0 i ia 4.0.0.0/8 [115/30] via 55.55.55.1, Serial1/0 55.0.0.0/24 is subnetted, 1 subnets C 55.55.55.0 is directly connected, Serial1/0 i ia 5.0.0.0/8 [115/30] via 55.55.55.1, Serial1/0 7.0.0.0/24 is subnetted, 1 subnets C 7.7.7.0 is directly connected, FastEthernet0/0 44.0.0.0/24 is subnetted, 1 subnets i L1 44.44.44.0 [115/20] via 55.55.55.1, Serial1/0 i*L1 0.0.0.0/0 [115/10] via 55.55.55.1, Serial1/0
IS-IS データベースでは、漏出ルートに IP-Interarea の識別子が付きます。
RtrB# show isis database detail IS-IS Level-1 Link State Database: LSPID LSP Seq Num LSP Checksum LSP Holdtime ATT/P/OL rpd-7206g.00-00 0x00000008 0x0855 898 1/0/0 Area Address: 49.0002 NLPID: 0xCC Hostname: rpd-7206g IP Address: 44.44.44.2 Metric: 10 IP 55.55.55.0/24 Metric: 10 IP 44.44.44.0/24 Metric: 10 IS-Extended rpd-7206a.00 Metric: 20 IP-Interarea 1.0.0.0/8 Metric: 20 IP-Interarea 2.0.0.0/8 Metric: 20 IP-Interarea 3.0.0.0/8 Metric: 20 IP-Interarea 4.0.0.0/8 Metric: 20 IP-Interarea 5.0.0.0/8
TLV タイプ 128 および 130 にルート漏出のアップ/ダウン ビットが導入される前は、デフォルト メトリックの第 8 ビットは次の用途のために予約されていました:「送信時に 0 に設定され、受信時には無視される」第 7 ビット(I/E ビット)は、TLV 130 において、再配送ルートの内部メトリック タイプと外部メトリック タイプを区別するために使用されていました。IOS リリース 12.0S 以前では、第 7 ビットではなく第 8 ビットが I/E ビットとして使用されていました。そのため、ナロー形式のメトリックを使用すると、12.0S と 12.0T/12.1 リリース間の相互運用性に矛盾が生じます。
IOS 12.0T または 12.1 を実行しているルータはアップ/ダウン ビットを認識し、そのルータでルート漏出が設定されているかどうかにかかわらず、アップ/ダウン ビットに従ってルートを取り扱います。IOS 12.0T または 12.1 コードを実行していない L1 または L1/L2 ルータが「外部」のメトリックタイプでルートを再配送する場合、デフォルト メトリックの第 8 ビットは 1 に設定されます。12.0T または 12.1 を実行している L1/L2 ルータは第 8 ビット(アップ/ダウン ビット)を見て、これをすでに漏出されているルートと解釈します。その結果、このルートはそのルータの L2 LSP で再アドバタイズされません。これは、ルーティング情報がネットワーク全体に伝搬されないという望ましくない結果を招くおそれがあります。
逆に、IOS 12.0T または 12.1 を実行しているルータによってルートがすでに漏出されている場合は、第 8 ビットが 1 に設定されます。L1 エリア内の、12.0S 以前の IOS リリースを実行しているルータは第 8 ビットが設定されているのを見て、このルートを「外部」のメトリックタイプを持つルートとして取り扱います。12.0S 以前の IOS リリースを実行している L1/L2 ルータは、第 8 ビットをアップ/ダウン ビットとして認識しないため、このルートを L2 LSP で再アドバタイズします。これはルーティング ループの形成につながるおそれがあります。
これらの不整合について、次の例で説明します。RtrA は IOS リリース 12.1 を実行していて、ナロー形式のメトリックを使用していくつかのルートを漏出しています。RtrB は IOS 12.0S を実行していて、「外部」のメトリックタイプでいくつかのルートを再配送しています。
RtrA では、RtrB から再配送されたルートはエリア間ルートとして誤って認識されます。
RtrA# show ip route Codes: C - connected, S - static, I - IGRP, R - RIP, M - mobile, B - BGP D - EIGRP, EX - EIGRP external, O - OSPF, IA - OSPF inter area N1 - OSPF NSSA external type 1, N2 - OSPF NSSA external type 2 E1 - OSPF external type 1, E2 - OSPF external type 2, E - EGP i - IS-IS, L1 - IS-IS level-1, L2 - IS-IS level-2, ia - IS-IS inter area * - candidate default, U - per-user static route, o - ODR P - periodic downloaded static route Gateway of last resort is not set i L2 1.0.0.0/8 [115/20] via 44.44.44.1, ATM3/0 i L2 2.0.0.0/8 [115/20] via 44.44.44.1, ATM3/0 i L2 3.0.0.0/8 [115/20] via 44.44.44.1, ATM3/0 i L2 4.0.0.0/8 [115/20] via 44.44.44.1, ATM3/0 55.0.0.0/24 is subnetted, 1 subnets C 55.55.55.0 is directly connected, Serial1/0 i L2 5.0.0.0/8 [115/20] via 44.44.44.1, ATM3/0 7.0.0.0/24 is subnetted, 1 subnets C 7.7.7.0 is directly connected, FastEthernet0/0 i ia 110.0.0.0/8 [115/138] via 55.55.55.2, Serial1/0 44.0.0.0/24 is subnetted, 1 subnets C 44.44.44.0 is directly connected, ATM3/0 i ia 120.0.0.0/8 [115/138] via 55.55.55.2, Serial1/0 i ia 140.0.0.0/8 [115/138] via 55.55.55.2, Serial1/0 i ia 130.0.0.0/8 [115/138] via 55.55.55.2, Serial1/0 i ia 150.0.0.0/8 [115/138] via 55.55.55.2, Serial1/0
RtrB では、RtrA によって漏出されたルートは外部として誤って認識されます。
RtrB# show ip route Codes: C - connected, S - static, I - IGRP, R - RIP, M - mobile, B - BGP D - EIGRP, EX - EIGRP external, O - OSPF, IA - OSPF inter area N1 - OSPF NSSA external type 1, N2 - OSPF NSSA external type 2 E1 - OSPF external type 1, E2 - OSPF external type 2, E - EGP i - IS-IS, L1 - IS-IS level-1, L2 - IS-IS level-2, ia - IS-IS inter area * - candidate default, U - per-user static route, o - ODR Gateway of last resort is 55.55.55.1 to network 0.0.0.0 i L1 1.0.0.0/8 [115/158] via 55.55.55.1, Serial1/0 i L1 2.0.0.0/8 [115/158] via 55.55.55.1, Serial1/0 i L1 3.0.0.0/8 [115/158] via 55.55.55.1, Serial1/0 i L1 4.0.0.0/8 [115/158] via 55.55.55.1, Serial1/0 55.0.0.0/24 is subnetted, 1 subnets C 55.55.55.0 is directly connected, Serial1/0 i L1 5.0.0.0/8 [115/158] via 55.55.55.1, Serial1/0 7.0.0.0/24 is subnetted, 1 subnets C 7.7.7.0 is directly connected, FastEthernet0/0 S 110.0.0.0/8 is directly connected, Null0 44.0.0.0/24 is subnetted, 1 subnets i L1 44.44.44.0 [115/20] via 55.55.55.1, Serial1/0 S 120.0.0.0/8 is directly connected, Null0 i*L1 0.0.0.0/0 [115/10] via 55.55.55.1, Serial1/0 S 140.0.0.0/8 is directly connected, Null0 S 130.0.0.0/8 is directly connected, Null0 S 150.0.0.0/8 is directly connected, Null0
「外部」メトリックタイプでの再配送を使用しなければ、第 8 ビットは設定されません。この回避策をとると、IOS 12.1 を実行している L1/L2 ルータが再配送ルートを L2 LSP で再アドバタイズしないという問題を防ぐことができます。ワイド形式のメトリックを使用している場合は、IOS 12.0S を実行しているルータでもアップ/ダウン ビットを認識できます。この回避策をとると、タイプ 128 および 130 TLV のアップ/ダウン ビットを認識しない 12.0S ルータによってルーティング ループが形成される事態を防ぐことができます。
また、ナロー形式のメトリックはわずか 6 ビットであるのに対し、ワイド形式のメトリックでは 32 ビットが使用されます。ナロー形式のメトリックを使用すると、正確なメトリックとは無関係に、エリア間ルートの多くが 63 の最大内部メトリックで漏出される可能性があります。これらの理由から、「外部」メトリックタイプでの再配送を避け、代わりにワイド形式のメトリックを使用することを推奨します。