ダイヤル ネットワークの設計は、インターネット サービス プロバイダー(ISP)にとって困難な課題となっています。 各 ISP はダイヤル ネットワークの設計に固有の方法を使用します。ただし、すべての ISP は、ダイヤル ネットワークの設計時には、次のような同じ懸念を共有します。
プール ルートを ISP のコアにどのように伝搬する必要があるか。
それらのルートをコアに伝送するために、どのルーティング プロトコルを使用する必要があるか。
それらのダイヤルアップ ルートをコアに送信する前に、集約する必要があるか。
プールが配布されるときには、何を考慮に入れる必要があるか。
プールがスタティックである場合には、どうすればよいか。
このドキュメントでは、前述のほとんどの質問について説明します。また、Interior Gateway Protocol(IGP; 内部ゲートウェイ プロトコル)の Open Shortest Path First(OSPF)を ISP のダイヤル環境で使用する場合の設計方法についても説明します。多くの場合、ISP のコア ネットワークには OSPF が使用されています。このドキュメントでは、ダイヤル プールのルートの伝送に別のプロトコルを導入することは避けて、OSPF を使用してコアに伝搬しています。
次の図は、一般的な ISP ダイヤル ネットワークのトポロジを示しています。ダイヤルアップサービスを提供するISPには、通常、AS5300またはAS5800である一連のネットワークアクセスサーバ(NAS)があります。これらのサーバは、ISPにダイヤルし、インターネットサービスを利用するすべてのユーザにIPアドレスを提供します。NAS サーバは、次に集約デバイスに接続されており、通常は Cisco 6500 ルータが使用されています。6500 ルータは、ダイヤルアップ ルートをコアに伝搬して、コア ルータからエンドユーザにインターネット サービスを提供できるようにします。図 1 は、一般的なポイント オブ プレゼンス(POP)のシナリオを示しています。
図1 –一般的なPOPのシナリオ
ISPは、プールのIPアドレスのタイプを正しく対応:
Static
Central
スタティック プールを使用する場合、ISP は、固有の IP アドレス セットを NAS サーバごとに専用に設定します。NASに到達するユーザは専用プールからIPアドレスを受け取ります。1たとえばNAS1スタティック プール アドレス範囲が192.168.0.0/22であれば、約1023 IPアドレスがあります。NAS1が発生するユーザは192.168.0.0から192.168.3.254の範囲のアドレスの1つが提供されます。
中央プールを使用する場合、ISP は、1 つの POP 内のすべての NAS 全体に配布される、より広範囲な IP アドレスを設定します。NAS に到達するユーザは、非常に広範囲に設定されている中央プールから 1 つの IP アドレスを取得します。たとえば、中央プールのアドレスの範囲が 192.168.0.0/18 に設定されており、14 台の NAS サーバにアドレスが分散されている場合、IP アドレスはおよそ 14000 あります。
ルーティングの観点からすれば、スタティック プールを管理する方が簡単です。NAS にスタティック プールが定義されている場合は、ルーティングのために、プールをコアに伝搬する必要があります。
NAS からダイヤルアップ ルートを伝搬するには、次の方法を使用します。
プールの IP アドレス範囲に対して、null 0 をポイントするようなスタティック ルートを作成して、プール アドレスが NAS で再配布されるようにする。
OSPF エリアにループバックが含まれた OSPF ポイントツーポイント ネットワーク タイプが設定された NAS 上で、プールの IP アドレスをループバックに割り当てる。
プール IP アドレス用のエリア境界ルータ(ABR)のスタティック ルートが、NAS 自律システム境界ルータ(ASBR)をポイントするように設定する。ABR で集約が行えるので、この方法をお勧めします。
この方法を使用する場合は、NAS ごとにスタティック ルートを作成する必要があります。このスタティック ルートは0を無効にし、ポイント正確なスタティック アドレス プールの範囲をカバーする必要があります。たとえば、スタティック アドレス プールが192.168.0.0/22であるとNASのスタティック ルートの設定は次のとおりです:
NAS1(config)# ip route 192.168.0.0 255.255.252.0 null0 NAS1(config)# router ospf 1 NAS1(config-router)# redistribute static subnets NAS1(config-router)# end
このプール アドレスが OSPF に再配布され、OSPF は、タイプ 5 の外部 Link-State Advertisement(LSA; リンクステート アドバタイズメント)の形式で、この情報をコアに伝搬します。
この方法を使用する場合には、スタティック ルートは必要ありません。プール アドレスは、ループバック インターフェイス上のサブネットとして割り当てられます。ループバックインターフェイスのデフォルトのネットワークタイプはLOOPBACKです。RFC 2328に従って 、OSPFでは/32としてアドバタイズする必要があります。そのため、ループバックのネットワークタイプをポイントツーポイントに変更する必要があります。ポイントツーポイントネットワークタイプでは、OSPFはループバックのサブネットアドレスをアドバタイズします。この場合は192.168.0.0/22です。次に設定を示します。
NAS1(config)# interface loopback 1 NAS1(config-if)# ip addreess 192.168.0.1 255.255.252.0 NAS1(config-if)# ip ospf network-type point-to-point NAS1(config-if)# router ospf 1 NAS1(config-router)# network 192.168.0.0 0.0.3.255 area 1 NAS1(config-router)# end
このように設定すると、ルータの LSA にルータ スタブ リンクが作成され、外部 OSPF ルートとしてではなく、内部 OSPF ルートとして伝搬されます。
この方法を使用する場合は、NAS には何も設定する必要がありません。設定はすべて ABR つまり集約デバイスで行われます。アドレス プールは静的でした。そのため、スタティック ルートを簡単に生成でき、ルータは各NASに自律システム境界ルータ(ASBR )ネクスト ホップを指定することができます。 これらのスタティック ルートは、OSPF 配下で再配布されるスタティック サブネットを使用して OSPF に再配布する必要があります。以下に、いくつかの例を示します。
ABR(config)# ip route 192.168.0.0 255.255.252.0ABR(config)# ip route 192.168.4.0 255.255.252.0 ! --- and so on for the remaining 12 NAS boxes. ABR(config)# router ospf 1 ABR(config-router)# redistribute static subnets ABR(config-router)# end
集約を ABR で実行できるので、この方法を使用することをお勧めします。最初の 2 つの方法でも集約できますが、NAS ごとに集約の設定が必要になります。次の方法を使用すれば、このルータに集約を設定するだけで済みます。
スタティック プールが連続したブロックに設定されている場合は、すべてのスタティック ルートが ABR 上にあるので、ABR で集約できます。以下に、いくつかの例を示します。
ABR(config)# router ospf 1 ABR(config-router)# summary-address 192.168.0.0 255.255.192.0 ABR(config-router)# end
この方法でダイヤルアップを設計する場合は、IP アドレスの中央プールが Remote Authentication Dial-In User Service(RADIUS)サーバに設定されていることが前提となります。POP ごとに Dialed Number Information Service(DNIS; 着信番号情報サービス)の番号が設定されており、RADIUS サーバには DNIS ごとに別々の IP アドレス プールが設定されています。さらに、DNIS のコールが終端するすべての NAS が同じエリアにあり、同じ集約ルータとやり取りしています。
IP アドレスの中央プールを使用すると、ルーティング プロトコルの設計が少し複雑になります。POPのDNIS番号をダイヤルすると、接続すると、IPアドレスの中央プールからユーザに割り当てられたIPアドレスDNIS NASに関する保証はありません。その結果、各NAS集約はDNISプールから割り当てられたアドレスに不可能です。ABR つまり集約デバイスにすべての情報を NAS が伝搬できるようにするためには、再配布済みで接続済みのサブネットが各 NAS に必要です。この設計には1つの問題があります。外部LSAを集約できるのはASBRだけであり、この設計ではASBRがNASサーバであるため、NASから来る外部ルートに対してABRはどのように集約を行うのですか。
この設計上の問題を解決するためには、NAS サーバが所属するエリアを Not So Stubby Area(NSSA)に設定することをお勧めします(図 2 を参照)。
図2 – Not-So-Stubby Areaの設定
OSPF の NSSA の詳細については、『OSPF Not So Stubby Area(NSSA)』を参照してください。
エリアをNSSAとして定義する利点を次に示します:
ABR では LSA タイプ 7 から LSA タイプ 5 への再生成または変換を行えるので、すべての NAS ルートを ABR で集約できる。
NSSA では外部 LSA が使用できないので、各 POP では別の POP に属するルートは転送されない。
すべての NAS にまたがる IP アドレス プールはスタティックではなく、IP アドレスの中央プールの範囲内の任意の IP アドレスを任意の NAS が使用できるので、再配布済みで接続済みのサブネットをすべての NAS に設定する必要があります。
NAS1(config)# router ospf 1 NAS1(config-router)# redistribute connected subnets NAS1(config-router)# end
ABR では、すべての LSA タイプ 7 が再生成されて LSA タイプ 5 に変換されるので、すべての NAS でこの設定を実行すると、集約の設定が ABR で実行されます。ABR はまったく新しい LSA タイプ 5 を生成して ABR ルータの ID をルータ ID としてアドバタイズするので、ABR が ASBR の機能を果たすことになり、(NAS を発信元とする)以前 LSA タイプ 7 であったルートの集約が可能になります。
ABR(config)# router ospf 1 ABR(config-router)# summary-address 192.168.0.0 255.255.192.0 ABR(config-router)# end
ABR と NAS の間のエリアが NSSA であることに注意してください。このエリアは、次のように設定できます。
ABR(config)# router ospf 1 ABR(config-router)# network 10.10.10.0 0.0.0.255 area 1 nssa ABR(config-router)# end
1つのエリアに多数のNASサーバがあり、各NASが1000以上のルートをエリアに再配布する場合、質問が発生します。各エリアに必要なNASサーバの数はいくつですか。すべての NAS サーバが同じエリアにあれば、すべての NAS サーバから 1000 以上のルートを転送する必要があるためにエリアが不安定になる可能性があります。この例では 14 台の NAS サーバがあるので、14000 という膨大な数のルートが再配布される可能性があります。エリアのスケーラビリティを向上させるためには、数個のエリアに分割して、1 つのエリアが不安定な状態になっても、他のエリアに影響が及ばないようにすることをお勧めします(図 3 を参照)。
図3 –エリアを割ります
NASサーバの番号は1つのエリアに保持する各NASが挿入されるルート数を確認します。各 NAS サーバから入ってくるルートの数が 3000 以上の場合には、1 つのエリアに 3 台の NAS サーバで十分と推測されます。エリアの数が多くなりすぎると、各エリアの集約を作成するために ABR が過負荷になる可能性があるので、各エリアに設定する NAS サーバの数が少なくなりすぎないようにしてください。ただし、すべてのエリアを、エリアに入ってくる集約ルートの再配布をいっさい許可しない全体としてスタブな NSSA にすれば、この問題を解決できます。このように設定すれば、各 NAS が自分の 1000 以上のルートに追加して転送する情報量が減少し、各エリアに集約 LSA を再配布するための ABR の転送負荷が減少します。次に示すように、設定を実行するABRのno-summaryキーワードを追加:
ABR#(config)# router ospf 1 ABR#(config-router)# network 10.10.10.0 0.0.0.255 area 1 nssa no-summary ABR#(config-router)# end
ABR と NAS サーバの間のリンクは、各エリアの外に知らせる必要はないので、これらの接続済みのルートに対しては、各エリア内の集約を ABR で作成する必要はありません。NSSA の主な利点は、NSSA は外部 LSA を転送しないので、1 つのエリア内の 3000 以上のすべてのルートが他のエリアにリークしないことです。ABR がすべての NSSA LSA タイプ 7 をエリア 0 に変換するときにも、NSSA の特性に従って、ABR は LSA タイプ 5 を他のエリアには送信しません。
ISP のダイヤル ネットワークの設計は、困難な課題となる場合がありますが、いくつかの点を考慮すれば、改良を加えてよりスケーラブルなソリューションを実現できます。NSSA を使用すれば、NAS ごとに転送が必要なルートの数を、NSSA を使用しない場合と比べて大幅に減らすことができるので、スケーラビリティを管理する上で効果的です。また、NAS サーバでは、redistribute connected 設定コマンドを実行する必要があるので、特に IP アドレスの中央プールを使用する場合には、集約を利用してルーティング テーブルのサイズを小さくするのも効果的です。各 NAS で連続した IP アドレス ブロックを割り当てれば、各 POP を 1 つの大きなブロックに集約し、過剰な数のルートをコアが転送する必要がないようにして、集約作業を効率化することもできます。