このドキュメントでは、Cisco PIX/ASA セキュリティ アプライアンスでの基本的なネットワーク アドレス変換(NAT)とポート アドレス変換(PAT)の設定の例を紹介しています。また、簡略化したネットワーク ダイアグラムも掲載されています。詳細は、使用している PIX/ASA ソフトウェア バージョンの PIX/ASA のドキュメントを参照してください。
PIX 5.x 以降での nat、global、static、conduit、access-list の各コマンドおよびポート リダイレクション(フォワーディング)についての詳細は、『PIX での nat、global、static、conduit、および access-list の各コマンドとポート リダイレクション(フォワーディング)の使用方法』を参照してください。
Cisco Secure PIX Firewall での基本的な NAT と PAT の設定例についての詳細は、『Cisco Secure PIX Firewall での NAT と PAT の使用』を参照してください。
ASA バージョン 8.3 以降での NAT 設定の詳細については、『NAT について』を参照してください。
注:トランスペアレントモードのNATは、PIX/ASAバージョン8.xからサポートされています。詳細は、『透過モードでの NAT』を参照してください。
このドキュメントの読者には、Cisco PIX/ASA セキュリティ アプライアンスに関する知識が必要です。
このドキュメントの情報は Cisco PIX 500 シリーズ セキュリティ アプライアンス ソフトウェア バージョン 7.0 以降に基づくものです。
注:このドキュメントは、PIX/ASAバージョン8.xで再検証されています。
注:このドキュメントで使用するコマンドは、Firewall Service Module(FWSM;ファイアウォールサービスモジュール)に適用されます。
このドキュメントの情報は、特定のラボ環境にあるデバイスに基づいて作成されました。このドキュメントで使用するすべてのデバイスは、クリアな(デフォルト)設定で作業を開始しています。対象のネットワークが実稼働中である場合には、どのようなコマンドについても、その潜在的な影響について確実に理解しておく必要があります。
ドキュメント表記の詳細については、『シスコ テクニカル ティップスの表記法』を参照してください。
PIX/ASA での nat-control コマンドにより、ファイアウォールを通過するすべてのトラフィックには、特定の変換エントリ(マッチする global 設定がある nat 設定、または static 設定)が必要であることが指定されます。nat-control コマンドを使用すると、変換の動作がバージョン 7.0 より前の PIX ファイアウォールと同じになります。PIX/ASA バージョン 7.0 以降のデフォルト設定は、no nat-control コマンドの指定です。PIX/ASA バージョン 7.0 以降では、nat-control コマンドを発行することにより動作を変更できます。
nat-control がディセーブルになっていると、コンフィギュレーションに特定の変換エントリがなくても、PIX/ASA ではより高セキュリティのインターフェイスから、より低セキュリティのインターフェイスにパケットの転送が行われます。より低セキュリティのインターフェイスから、より高セキュリティのインターフェイスにトラフィックを渡すには、トラフィックの許可にアクセス リストを使用します。これで、PIX/ASA はトラフィックの転送を行います。このドキュメントでは、nat-control がイネーブルにされた状態での PIX/ASA セキュリティ アプライアンスの動作に焦点を当てています。
注:PIX/ASAでnat-control設定を削除または無効にするには、セキュリティアプライアンスからすべてのNAT設定を削除する必要があります。一般的には、NAT 制御をオフにする前に、NAT を削除する必要があります。期待どおりに動作させるには、PIX/ASA で NAT を再設定する必要があります。
ネットワーク図
注:この設定で使用されているIPアドレッシング方式は、インターネット上で正式にルーティング可能なものではありません。これらは RFC 1918 で使用されているアドレスであり、ラボ環境で使用されたものです。
この例では、172.16.199.1 ~ 172.16.199.63 のアドレス範囲が ISP からネットワーク管理者に提供されています。ネットワーク管理者は、インターネット ルータの Inside インターフェイスに 172.16.199.1 を割り当て、PIX/ASA の Outside インターフェイスに 172.16.199.2 を割り当てると判断します。
ネットワーク管理者にはネットワーク 192.168.200.0/24 に割り当てられた Class C アドレスがあり、インターネットにアクセスするためにこれらのアドレスを使用する複数のワークステーションがあります。これらのワークステーションはアドレス変換の対象ではありません。ところが、新しいワークステーションには 10.0.0.0/8 ネットワークのアドレスが割り当てられるため、これらには変換が必要です。
このネットワーク設計を実現するには、次の出力に示されているように、ネットワーク管理者は PIX/ASA のコンフィギュレーションに 2 つの NAT 設定と 1 つのグローバル プールを使用する必要があります。
global (outside) 1 172.16.199.3-172.16.199.62 netmask 255.255.255.192 nat (inside) 0 192.168.200.0 255.255.255.0 0 0 nat (inside) 1 10.0.0.0 255.0.0.0 0 0
このコンフィギュレーションでは、192.168.200.0/24 ネットワークからのアウトバウンド トラフィックで送信元アドレスが変換されるものはありません。この場合、10.0.0.0/8 ネットワークからの送信元アドレスが、172.16.199.3 ~ 172.16.199.62 の範囲からのアドレスに変換されます。
下記の手順は、Adaptive Security Device Manager(ASDM)を使用して同じ設定を適用する方法を示しています。
注:すべての設定変更は、CLIまたはASDMを使用して行います。CLI と ASDM の両方を設定の変更に使用すると、ASDM によって適用される設定に関して重大な誤動作が発生します。これは不具合ではなく、ASDM の動作によるものです。
注:ASDMを開くと、PIX/ASAから現在の設定がインポートされ、変更を行って適用する際には、この設定に基づいて動作します。ASDM セッションがオープンしている場合に PIX/ASA に変更が加えられると、ASDM は、PIX/ASA の現在のコンフィギュレーションと見なしているものでは動作しなくなります。CLI でコンフィギュレーションを変更する場合は、必ず ASDM セッションをすべてクローズするようにしてください。GUI で作業する場合には、ASDM を再オープンします。
ASDM を起動して、[Configuration] タブに移動し、[NAT] をクリックします。
[Add] をクリックして新しいルールを作成します。
新しいウィンドウが表示され、ここからこの NAT エントリの NAT オプションを変更できます。この例では、特定の 10.0.0.0/24 のネットワークから発信され、Inside インターフェイスに到達したパケットに対して NAT が実行されます。
PIX/ASA では、これらのパケットが、Outside インターフェイスのダイナミック IP プールに変換されます。NAT を適用するトラフィックについての情報を入力したら、変換済みトラフィック用の IP アドレスのプールを定義します。
新しい IP プールを追加するには [Manage Pools] をクリックします。
[outside] を選択し、[Add] をクリックしします。
プールの IP 範囲を指定し、プールに一意の ID 番号を割り当てます。
適切な値を選択して、[OK] をクリックします。
Outside インターフェイスに新しいプールが定義されます。
プールを定義したら、[OK] をクリックして、NAT ルール設定ウィンドウに戻ります。
必ず、Address Pool ドロップダウン リストで作成したばかりの正しいプールを選択するようにしてください。
これで、セキュリティ アプライアンスを経由する NAT 変換が作成されました。ところが、NAT を行わないトラフィックを指定する NAT エントリをさらに作成する必要があります。
新しいルールを作成するには、ウィンドウの上部にある [Translation Exemption Rules] をクリックして、[Add] をクリックする必要があります。
送信元として inside インターフェイスを選択し、192.168.200.0/24 サブネットを指定します。「When connecting」の値はデフォルト設定のままにしておきます。
これで、NAT ルールが定義されました。
セキュリティ アプライアンスの現在の実行コンフィギュレーションにこの変更を適用するには、[Apply] をクリックします。
次の出力には、PIX/ASA のコンフィギュレーションに適用される実際の追加部分が示されています。これらは手動で入力するコマンドとは多少異なりますが、効果は同じです。
access-list inside_nat0_outbound extended permit ip 192.168.200.0 255.255.255.0 any global (outside) 1 172.16.199.3-172.16.199.62 netmask 255.255.255.192 nat (inside) 0 access-list inside_nat0_outbound nat (inside) 1 10.0.0.0 255.255.255.0
注:この設定で使用されているIPアドレッシング方式は、インターネット上で正式にルーティング可能なものではありません。これらは RFC 1918 で使用されているアドレスであり、ラボ環境で使用されたものです。
この例では、インターネットに登録されている 2 つの IP アドレス範囲がネットワーク管理者に提供されています。ネットワーク管理者は、10.0.0.0/8 の範囲にあるすべての内部アドレスを登録アドレスに変換する必要があります。ネットワーク管理者が使用する必要のある IP アドレスの範囲は、172.16.199.1 ~ 172.16.199.62 と 192.168.150.1 ~ 192.168.150.254 です。ネットワーク管理者は、次の方法でこれを実現できます。
global (outside) 1 172.16.199.3-172.16.199.62 netmask 255.255.255.192 global (outside) 1 192.168.150.1-192.168.150.254 netmask 255.255.255.0 nat (inside) 1 0.0.0.0 0.0.0.0 0 0
ダイナミック NAT では、より限定的な設定が、同じインターフェイス上でグローバル設定を使用する場合に優先されます。
nat (inside) 1 10.0.0.0 255.0.0.0 nat (inside) 2 10.1.0.0 255.255.0.0 global (outside) 1 172.16.1.1 global (outside) 2 192.168.1.1
内部ネットワークが 10.1.0.0 の場合、NAT global 2 は 1 よりも変換に関して限定的なので、global 2 が 1 より優先されます。
注:NAT文では、ワイルドカードアドレッシング方式が使用されます。この設定では、内部送信元アドレスがインターネットに送出される際に、PIX/ASA で内部送信元アドレスをすべて変換するように指定されています。必要な場合は、このコマンドのアドレスをさらに絞り込むことができます。
注:この設定で使用されているIPアドレッシング方式は、インターネット上で正式にルーティング可能なものではありません。これらは RFC 1918 で使用されているアドレスであり、ラボ環境で使用されたものです。
この例では、会社で使用するように、172.16.199.1 ~ 172.16.199.63 のアドレス範囲が ISP からネットワーク管理者に提供されています。ネットワーク管理者は、インターネット ルータの Inside インターフェイスに 172.16.199.1 を使用し、PIX/ASA の Outside インターフェイスに 172.16.199.2 を使用すると判断します。NAT プールの用途には、172.16.199.3 ~ 172.16.199.62 が残されています。ところが、ネットワーク管理者には、一時点で 60 人を超えるユーザが PIX/ASA からの外部アクセスを試みる可能性があることがわかっています。そのため、ネットワーク管理者は 172.16.199.62 を使用して、これを PAT アドレスにすると判断します。これにより、複数のユーザが同時に 1 つのアドレスを共用できます。
global (outside) 1 172.16.199.3-172.16.199.61 netmask 255.255.255.192 global (outside) 1 172.16.199.62 netmask 255.255.255.192 nat (inside) 1 0.0.0.0 0.0.0.0 0 0
これらのコマンドでは、PIX/ASA に対して、最初の 59 人の内部ユーザが PIX/ASA を通過するために送信元アドレスを 172.16.199.3 ~ 172.16.199.61 に変換するように指示されています。これらのアドレスが使い果たされると、PIX では、NAT プール内のアドレスの 1 つが解放されるまで、後続の送信元アドレスすべてを 172.16.199.62 に変換することになります。
注:NAT文では、ワイルドカードアドレッシング方式が使用されます。この設定では、内部送信元アドレスがインターネットに送出される際に、PIX/ASA で内部送信元アドレスをすべて変換するように指定されています。必要な場合は、このコマンドのアドレスをさらに限定的にすることができます。
注:この設定で使用されているIPアドレッシング方式は、インターネット上で正式にルーティング可能なものではありません。これらは RFC 1918 で使用されているアドレスであり、ラボ環境で使用されたものです。
この例では、172.16.199.1 ~ 172.16.199.63 のアドレス範囲が ISP からネットワーク管理者に提供されています。ネットワーク管理者は、インターネット ルータの Inside インターフェイスに 172.16.199.1 を割り当て、PIX/ASA の Outside インターフェイスに 172.16.199.2 を割り当てると判断します。
ただし、このシナリオでは、インターネット ルータの外に別のプライベート LAN セグメントが存在しています。ネットワーク管理者は、これら 2 つのネットワーク内のホストどうしが通信するときに、グローバル プールのアドレスを無駄に使用しないようにする必要があります。ただし、内部ユーザ(10.0.0.0/8)がインターネットにアクセスする場合は、内部ユーザの発信元アドレスを変換する必要があります。
access-list 101 permit ip 10.0.0.0 255.0.0.0 192.168.1.0 255.255.255.0 global (outside) 1 172.16.199.3-172.16.199.62 netmask 255.255.255.192 nat (inside) 0 access-list 101 nat (inside) 1 10.0.0.0 255.0.0.0 0 0
このコンフィギュレーションでは、送信元アドレスが 10.0.0.0/8 の範囲で宛先アドレスが 192.168.1.0/24 の範囲のアドレスは変換されません。この場合、10.0.0.0/8 のネットワーク内から開始され、192.168.1.0/24 以外のいずれかを宛先とする送信元アドレスが、172.16.199.3 ~ 172.16.199.62 の範囲にあるアドレスに変換されます。
使用中のシスコ デバイスからの write terminal コマンドの出力がある場合は、アウトプット インタープリタ(登録ユーザ専用)を使用できます。
注:この設定で使用されているIPアドレッシング方式は、インターネット上で正式にルーティング可能なものではありません。これらは RFC 1918 で使用されているアドレスであり、ラボ環境で使用されたものです。
0 以外の NAT ID の nat コマンドでアクセス リストを使用すると、ポリシー NAT が有効になります。
注:ポリシーNATはバージョン6.3.2で導入されました。
ポリシー NAT を使用すると、アクセス リストで発信元と宛先のアドレス(またはポート)を指定する際に、アドレス変換対象のローカル トラフィックを識別できます。通常の NAT で使用されるのは発信元のアドレス/ポートのみですが、ポリシー NAT では発信元と宛先の両方のアドレス/ポートが使用されます。
注:ポリシーNATは、NAT免除(nat 0アクセスリスト)を除くすべてのタイプのNATでサポートされています。NAT 例外では、ローカル アドレスの識別にアクセス コントロール リストが使用されますが、ポートは考慮されないという点がポリシー NAT と異なります。
ポリシー NAT では、発信元/ポートと宛先/ポートの組み合わせが設定ごとに一意である限り、同じローカル アドレスを識別する複数の NAT 設定やスタティック設定を作成できます。これにより、それぞれの送信元ポートと宛先ポートのペアに対して異なるグローバル アドレスを対応させることができます。
この例では、ネットワーク管理者からはポート 80(Web)とポート 23(Telnet)に宛先 IP アドレス 192.168.201.11 へのアクセスが割り当てられていますが、送信元アドレスには 2 つの異なる IP アドレスを使用する必要があります。IP アドレス 172.16.199.3 が Web への送信元アドレスに使用されます。Telnet には IP アドレス 172.16.199.4 が使用され、10.0.0.0/8 の範囲にあるすべての内部アドレスは変換が必要です。ネットワーク管理者は、次の方法でこれを実現できます。
access-list WEB permit tcp 10.0.0.0 255.0.0.0 192.168.201.11 255.255.255.255 eq 80 access-list TELNET permit tcp 10.0.0.0 255.0.0.0 192.168.201.11 255.255.255.255 eq 23 nat (inside) 1 access-list WEB nat (inside) 2 access-list TELNET global (outside) 1 172.16.199.3 netmask 255.255.255.192 global (outside) 2 172.16.199.4 netmask 255.255.255.192
発生する可能性のある問題と修正を表示するには、 アウトプットインタープリタ ツール(登録ユーザ専用)を使用できます。
注:この設定で使用されているIPアドレッシング方式は、インターネット上で正式にルーティング可能なものではありません。これらは RFC 1918 で使用されているアドレスであり、ラボ環境で使用されたものです。
スタティック NAT 設定では、1 対 1 のマッピングが作成され、特定のアドレスが別のアドレスに変換されます。このタイプの設定では、設定が存在する限り、NAT テーブルに恒久的なエントリが作成され、内部ホストと外部ホストの両方から接続を開始できます。これは、主にメール、Web、FTP などのアプリケーション サービスを提供するホストで便利な設定です。この例では、内部と外部のユーザが DMZ 上の Web サーバにアクセスできるようにスタティック NAT 設定を設定します。
次の出力は、スタティック文の作成方法を示しています。マッピングされる IP アドレスと実際の IP アドレスの順序に注意してください。
static (real_interface,mapped_interface) mapped_ip real_ip netmask mask
これは、Inside インターフェイス上のユーザが DMZ 上のサーバにアクセスできるように作成されたスタティック変換です。これにより、内部のアドレスと DMZ 上のサーバのアドレスとのマッピングが作成されます。これで、Inside のユーザは、Inside のアドレスを使用して DMZ 上のサーバにアクセスできるようになります。
static (DMZ,inside) 10.0.0.10 192.168.100.10 netmask 255.255.255.255
これは、Outside インターフェイス上のユーザが DMZ 上のサーバにアクセスできるように作成されたスタティック変換です。これにより、外部のアドレスと DMZ 上のサーバのアドレスとのマッピングが作成されます。これで、外部のユーザは、外部アドレスを使用して DMZ 上のサーバにアクセスできるようになります。
static (DMZ,outside) 172.16.1.5 192.168.100.10 netmask 255.255.255.255
注:OutsideインターフェイスのセキュリティレベルはDMZよりも低いため、OutsideのユーザがDMZ上のサーバにアクセスできるようにするには、アクセスリストを作成する必要もあります。このアクセス リストでは、スタティック変換でマッピングされるアドレスへのアクセスをユーザに許可する必要があります。このアクセス リストはできるだけ詳細に作成することを推奨します。この場合、いずれのホストも、Web サーバのポート 80(www/http)およびポート 443(https)以外へのアクセスは許可されません。
access-list OUTSIDE extended permit tcp any host 172.16.1.5 eq www access-list OUTSIDE extended permit tcp any host 172.16.1.5 eq https
ここで、Outside インターフェイスにアクセス リストを適用する必要があります。
access-group OUTSIDE in interface outside
access-list コマンドと access-group コマンドについての詳細は、『拡張アクセスリスト』と『アクセスグループ』を参照してください。
ここでは、NAT のバイパス方法について説明します。NAT 制御をイネーブルにするときに、NAT をバイパスできます。NAT をバイパスするには、アイデンティティ NAT、スタティック アイデンティティ NAT、あるいは、NAT 免除を使用できます。
アイデンティティ NAT では、実 IP アドレスが同じ IP アドレスに変換されます。NAT 変換を作成できるのは「変換対象」ホストだけであり、応答トラフィックを返すことが可能です。
注:NAT設定を変更する場合に、新しいNAT情報が使用される前に既存の変換がタイムアウトするのを待つことをしたくない場合は、clear xlateコマンドを使用して変換テーブルをクリアできます。ところが、変換を使用している既存の接続は、変換テーブルをクリアする際に、すべて接続解除されます。
アイデンティティ NAT を設定するには、次のコマンドを入力します。
hostname(config)#nat (real_interface) 0 real_ip [mask [dns] [outside] [norandomseq] [[tcp] tcp_max_conns [emb_limit]] [udp udp_max_conns]
たとえば、Inside の 10.1.1.0/24 のネットワークにアイデンティティ NAT を使用するには、次のコマンドを入力します。
hostname(config)#nat (inside) 0 10.1.1.0 255.255.255.0
nat コマンドの詳細は、『Cisco セキュリティ アプライアンス コマンド リファレンス、バージョン 7.2』を参照してください。
スタティック アイデンティティ NAT では、実 IP アドレスが同じ IP アドレスに変換されます。変換は常にアクティブで、「変換対象」のホストとリモートのホストでは、どちらも接続の開始が可能です。スタティック アイデンティティ NAT では、標準 NAT またはポリシー NAT を使用できます。ポリシー NAT では、変換する実際のアドレスを決定するときに、実際のアドレスと宛先アドレスを指定できます(ポリシー NAT の詳細については、「ポリシー NAT の使用」の項を参照)。たとえば、Outside の宛先サーバ A にアクセスする場合は、Inside アドレスに対してポリシー スタティック アイデンティティ NAT を使用し、Outside のサーバ Bにアクセスする場合には、通常の変換を使用することも可能です。
注: staticコマンドを削除しても、変換を使用する現在の接続には影響しません。これらの接続を削除する場合は、clear local-host コマンドを入力します。clear xlate コマンドでは、変換テーブルからスタティック変換をクリアできません。その代わりに、static コマンドを削除する必要があります。clear xlate コマンドで削除できるのは、nat コマンドと global コマンドで作成されたダイナミック変換だけです。
ポリシー スタティック アイデンティティ NAT を設定するには、次のコマンドを入力します。
hostname(config)#static (real_interface,mapped_interface) real_ip access-list acl_id [dns] [norandomseq] [[tcp] tcp_max_conns [emb_limit]] [udp udp_max_conns]
拡張アクセス リストを作成するには、access-list extended コマンドを使用します。このアクセス リストに記載できるのは許可 ACE だけです。アクセス リスト内の送信元アドレスが、このコマンドの real_ip に一致していることを確認してください。ポリシー NAT では、inactive キーワードや time-range キーワードは考慮されません。ポリシー NAT の設定では、すべての ACE はアクティブであると見なされます。詳細は、「ポリシー NAT の使用」の項を参照してください。
通常のスタティック アイデンティティ NAT を設定するには、次のコマンドを入力します。
hostname(config)#static (real_interface,mapped_interface) real_ip real_ip [netmask mask] [dns] [norandomseq] [[tcp] tcp_max_conns [emb_limit]] [udp udp_max_conns]
両方の real_ip 引数に同じ IP アドレスを指定します。
ネットワーク図
注:この設定で使用されているIPアドレッシング方式は、インターネット上で正式にルーティング可能なものではありません。これらは RFC 1918 で使用されているアドレスであり、ラボ環境で使用されたものです。
たとえば、次のコマンドでは、Outside からアクセスされる際の Inside の IP アドレス(10.1.1.2)にはスタティック アイデンティティ NAT が使用されています。
hostname(config)#static (inside,outside) 10.1.1.2 10.1.1.2 netmask 255.255.255.255
static コマンドの詳細は、『Cisco セキュリティ アプライアンス コマンド リファレンス、バージョン 7.2』を参照してください。
次のコマンドでは、Inside からアクセスされる際の Outside の IP アドレス(172.16.199.1)にはスタティック アイデンティティ NAT が使用されています。
hostname(config)#static (outside,inside) 172.16.199.1 172.16.199.1 netmask 255.255.255.255
次のコマンドでは、サブネット全体がスタティックにマッピングされます。
hostname(config)#static (inside,dmz) 10.1.1.2 10.1.1.2 netmask 255.255.255.0
次のスタティック アイデンティティ ポリシー NAT の例には、1 つの宛先アドレスにアクセスする際のアイデンティティ NAT を使用する単一の実アドレス、および、それ以外にアクセスする際の変換が示されています。
hostname(config)#access-list NET1 permit ip host 10.1.1.3 172.16.199.0 255.255.255.224
hostname(config)#access-list NET2 permit ip host 10.1.1.3 172.16.199.224 255.255.255.224
hostname(config)#static (inside,outside) 10.1.1.3 access-list NET1
hostname(config)#static (inside,outside) 172.16.199.1 access-list NET2
注:staticコマンドについての詳細は、『Cisco ASA 5580適応型セキュリティアプライアンスコマンドリファレンス、バージョン8.1』を参照してください。
注:アクセスリストの詳細については、『Cisco ASA 5580適応型セキュリティアプライアンスコマンドラインコンフィギュレーションガイド、バージョン8.1』を参照してください。
NAT 免除により、アドレスの変換が免除され、実ホストとリモート ホストの両方で接続を開始できます。NAT 除外では、(ポリシー NAT と同様)除外する実トラフィックを決定するときに実アドレスと宛先アドレスを指定できるので、アイデンティティ NAT を使用するよりも NAT 除外を使用する方がきめ細かい制御が行えます。その反面、ポリシー NAT と異なり、NAT 免除ではアクセス リストのポートが考慮されません。アクセス リスト内のポートを検討するには、スタティック アイデンティティ NAT を使用します。
注: NAT免除の設定を削除しても、NAT免除を使用する既存の接続には影響しません。これらの接続を削除するには、clear local-host コマンドを入力します。
NAT 免除を設定するには、次のコマンドを入力します。
hostname(config)#nat (real_interface) 0 access-list acl_name [outside]
access-list extended コマンドを使用して、拡張アクセス リストを作成します。このアクセス リストには許可 ACE と拒否 ACE の両方を記載できます。アクセス リストには実ポートと宛先ポートは指定しないでください。NAT 免除ではポートは考慮されません。NAT 免除では、inactive キーワードや time-range キーワードは考慮されません。NAT 免除の設定では、すべての ACE はアクティブであると見なされます。
デフォルトでは、このコマンドで免除対象になるのは、Inside から Outside へのトラフィックです。outside から inside へのトラフィックが NAT をバイパスするようにするには、nat コマンドを追加して outside を入力し、NAT インスタンスを outside NAT として識別します。外部インターフェイスに対してダイナミック NAT を設定して、他のトラフィックを除外する場合は、外部 NAT 除外を使用できます。
たとえば、すべての宛先アドレスにアクセスする際に Inside のネットワークを免除するには、次のコマンドを入力します。
hostname(config)#access-list EXEMPT permit ip 10.1.1.0 255.255.255.0 any
hostname(config)# nat (inside) 0 access-list EXEMPT
ある DMZ ネットワークにダイナミック Outside NAT を使用して、他の DMZ ネットワークを免除するには、次のコマンドを入力します。
hostname(config)#nat (dmz) 1 10.1.1.0 255.255.255.0 outside dns
hostname(config)#global (inside) 1 10.1.1.2
hostname(config)#access-list EXEMPT permit ip 10.1.1.0 255.255.255.0 any
hostname(config)#nat (dmz) 0 access-list EXEMPT
たとえば、2 つの異なる宛先アドレスにアクセスする際に 1 つの Inside のアドレスを免除するには、次のコマンドを入力します。
hostname(config)#access-list NET1 permit ip 10.1.1.0 255.255.255.0 172.16.199.0 255.255.255.224
hostname(config)#access-list NET1 permit ip 10.1.1.0 255.255.255.0 172.16.199.224 255.255.255.224
hostname(config)#nat (inside) 0 access-list NET1
セキュリティ アプライアンスを通過するトラフィックは、ほとんどが NAT の対象になります。セキュリティアプライアンスで使用されている変換を確認するには、『PIX/ASA:パフォーマンスの問題の監視とトラブルシューティング』を参照してください。
show xlate count コマンドは、PIX を経由した変換の現在数と最大数を表示します。変換は外部アドレスへの内部アドレスのマッピングで、1 対 1 のマッピングになる場合(NAT など)と多対 1 のマッピングになる場合(PAT など)があります。このコマンドは show xlate コマンドのサブセットで、PIX による各変換を出力します。コマンド出力に表示される「in use」の変換は、コマンドの発行時点で PIX 内に存在するアクティブな変換の数を表します。「most used」は、PIX の電源オン以降に PIX で見られた変換の最大数を表します。
問題
ポート 443 のスタティック PAT の追加時に、次のエラー メッセージが表示されます。
[ERROR] static (INSIDE,OUTSIDE) tcp interface 443 192.168.1.87 443 netmask 255.255.255.255 tcp 0 0 udp 0
unable to reserve port 443 for static PAT
エラー:ポリシーをダウンロードできません
解決方法
このエラー メッセージは、ASDM または WEBVPN が 443 ポートで動作している場合に表示されます。この問題を解決するには、ファイアウォールにログインし、次のいずれかの手順を実行します。
ASDM ポートを 443 以外に変更するには、次のコマンドを実行します。
ASA(config)#no http server enable ASA(config)#http server enable 8080
WEBVPN ポートを 443 以外に変更するには、次のコマンドを実行します。
ASA(config)#webvpn ASA(config-webvpn)#enable outside ASA(config-webvpn)#port 65010
これらのコマンドの実行後には、別のサーバに対するポート 443 で NAT/PAT を追加できます。将来 ASA を管理する目的で ASDM を使用するときには、新しいポートとして 8080 を指定します。
問題
ASA のスタティック設定の追加時に次のエラーが表示されます。
エラー:マップされたアドレスが既存の静的アドレスと競合しています
解決方法
追加するスタティック ソースのエントリがまだ存在していないことを確認します。
改定 | 発行日 | コメント |
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1.0 |
03-May-2005 |
初版 |