IP テレフォニーが直面する課題の 1 つが、従来の PBX ベースのデジタル電話が電話ケーブルを通じて PBX から電力供給を受けていることがあります。PBX がバッテリや発電機などのバックアップを備えていれば、この仕組みによって停電中も電話が使用できます。第一世代の IP 電話では電話機ごとに別々の電源装置が必要でした。停電中でも電話システムを使用するためには、外部の電源装置を無停電電源に接続する必要があります。シスコではこの問題を解決するため、データを搬送する同じイーサネット ケーブルを経由して電話機に電力を供給するソリューションを導入しています。この電力は、シャーシに設置された 10/100 イーサネット ブレードや WS-X6348 などのモジュールから、あるいは WS-PWR-PANEL などのまったく別の装置から供給できます。
現在、シスコ製品ではインライン電力供給型イーサネット ポートについて 2 つの異なる実装が存在します。1 つはイーサネット信号が搬送される同じ 2 組の配線ペア(ピン 1、2、3、6)を使用する実装で、もう 1 つは 2 つの未使用のイーサネット ペア(ピン 4、5、7、8)を使用する実装です。 IEEE 802.3af委員会は、2003年6月にイーサネット経由のインライン電力を標準化しました。802.3afについての詳細は、『MDIタスクフォース経由のIEEE 802.3af DTE電力 』を参照してください。
このドキュメントに関しては個別の前提条件はありません。
このドキュメントの内容は、特定のソフトウェアやハードウェアのバージョンに限定されるものではありません。
ドキュメント表記の詳細は、「シスコ テクニカル ティップスの表記法」を参照してください。
現在、インライン電源を供給できるシスコ製品は4つあります。
1 番目の製品は、Catalyst 6000 シリーズ スイッチ対応の WS-X6348 48 ポート 10/100 ライン モジュールです。このカード自体はインライン電力供給機能に対応しているだけです。インライン電力を供給するためには、WS-F6K-VPWR ドーター カードをこのカードに取り付けることも必要です。このカードの詳細は、『Catalyst 6500シリーズインラインパワーフィールドアップグレードドーターカードのインストレーションノート』を参照してください。48個のポートすべてに、電話機に電力を供給する機能があります。電話機が設置されているCisco Catalyst 6000スイッチで十分な電力が供給されている場合は、この機能を使用します。
WS-X6348 はインライン電力を「使用中の」イーサネット ペア(ピン 1、2、3、6)を経由して供給します。
WS-X6348モジュールの詳細については、『WS-X6348-RJ45V:Catalyst 6500/6000シリーズスイッチ用48ポートIP Phoneイーサネットインライン電源ブレード。
2 番目の製品は、Catalyst 4006 スイッチ対応の WS-X4148-RJ45V 48 ポート 10/100 ライン モジュールです。Catalyst 4006 スイッチを使用してインライン電力を供給するためには、他のコンポーネントをいくつか追加する必要があります。インライン電力は 4003 ではなく 4006 でだけ使用可能です。これは、4006 シャーシにだけ Power Entry Module(PEM; 電源入力モジュール)を取り付けることができるためです。また、4006 シャーシはバックプレーン上にトレースを備えており、DC 電力をインライン電力対応のラインカードに供給できます。4006 でインライン電力を有効にするには、Catalyst 4000 補助 DC パワー シェルフと、少なくとも 2 基の電源装置(WS-P4603-2PSU)が必要です。 パワー シェルフには N+1 冗長に対応した電源装置(WS-X4608)を最大 3 基まで取り付けることができます。インライン電力を稼動するには、少なくとも 2 基が必要です。特殊なケーブル(電源装置に付属)を使用して、個々の電源装置を PEM(WS-X4095-PEM)に取り付けます。 最後に、インライン電力対応のラインカードをシャーシに取り付ける必要があります。WS-X4148-RJ45V は、48 ポートのインライン電力対応 10/100 イーサネット スイッチング モジュールです。次の図は、Cisco Catalyst 4148に含まれているインライン電源ドーターカードを示していません。これは、Cisco Catalyst 6000モジュールのドーターカードに似ています。Catalyst 4006 スイッチは、インライン電力の検出と配電に関して Catalyst 6000 スイッチとまったく同じように動作します。
WS-X4148-RJ45V はインライン電力を「使用中の」イーサネット ペア(ピン 1、2、3、6)を経由して供給します。
WS-X4148-RJ45Vモジュールの詳細については、『Cisco Catalyst 4000シリーズインライン電源ソリューション』を参照してください。
3 番目の製品は、Catalyst 3524-PWR-XL(WS-C3524-PWR)スイッチです。
WS-C3524-PWR はインライン電力を「使用中の」イーサネット ペア(ピン 1、2、3、6)を経由して供給します。
Cisco Catalyst 3524-PWR-XLの詳細については、『3524-PWR XL:Catalyst 3524-PWR XL スタック可能10/100 イーサネットスイッチ.
注:Catalyst 3524-PWR-XLは販売終了です。代わりに、Catalyst 3550を使用します。Cisco Catalyst 3550シリーズスイッチを参照してください。
最後の製品は、スタンドアロンのインライン電力パッチパネル WS-PWR-PANEL です。この製品では、イーサネット接続を提供するための外部スイッチが必要です。インライン電源パッチパネルは、イーサネットスイッチと電話機の間に接続される電源「ミッドスパン」を供給します。インライン電力パッチパネルは完全にハードウェア ベースのソリューションであり、現場で変更やアップグレードが可能なソフトウェアやファームウェアはありません。
WS-PWR-PANEL は「未使用の」ペア(ピン 4、5、7、8)を使用して電力を供給します。
WS-PWR-PANELの詳細については、Catalyst Inline Power Patch Panelのデータシートを参照してください。
シスコは現在、IEEE 802.3af標準に準拠したPower over Ethernet(PoE)オプションをIntelligent Catalystスイッチングポートフォリオに提供しています。IEEE 802.3af準拠は、Cisco Catalyst 6500シリーズおよびCisco Catalyst 4500シリーズモジュラシャーシの新しいPoE 10/100/1000および10/100モジュールで提供されます。新しいPoE 10/100 Cisco Catalyst 3750シリーズおよびCatalyst 3560シリーズ固定構成スイッチ。詳細は、『Power Over Ethernetソリューション』を参照してください。
IEEE 802.3af標準準拠のPoEをサポートするCisco Catalystスイッチは、シスコの先行標準のPoE実装もサポートし、IP電話やワイヤレスアクセスポイントなどのシスコの既存のエンドデバイスとの下位互換性があります。ただし、先行標準のPoE実装のみをサポートするCisco Catalystスイッチでは、IEEE 802.3afエンドポイントの電源を投入できません。
上記のすべての製品は、電話機に電力が供給される前に、電話機検出アルゴリズムに依存します。このアルゴリズムにより、インライン電力を受け入れることができないデバイスにスイッチから電力が供給されなくなります。Catalyst スイッチで使用されている電話機検出アルゴリズムは、WS-PWR-PANEL で使用されているアルゴリズムとは異なります。この項ではこれらの両方のアルゴリズムについて説明します。
注:電話検出アルゴリズムの特定の側面が独自であるため、詳細な説明を提供することはできません。
次の表に、ポートへの電力供給を有効または無効にするために3つのプラットフォームで使用可能なパラメータを示します。
Catalyst スイッチのインライン電力モード | ||
---|---|---|
自動 | 電話機検出アルゴリズムが有効 | Catalyst 4006、6000、および 3500XL |
オフ | 電話機検出アルゴリズムが無効 | Catalyst 4006 および 6000 |
never | 電話機検出アルゴリズムが無効 | Cisco Catalyst 3500XL |
注意:これらのデバイスには「オン」モードはありません。これは、ユーザがネットワークからの受電を想定していない機器でイーサネット NIC カードを誤って壊さないための措置です。
IP Phone が 10/100 イーサネット ポートに接続されていることを検出するために、Catalyst 6000、Catalyst 4000、および Catalyst 3524-PWR-XL の各スイッチで次の方法が使用されます。
電話機検出アルゴリズムでは、最初にポートから、接続されている可能性のあるすべての装置に対して特殊な Fast Link Pulse(FLP; ファースト リンク パルス)信号が送信されます。
ポートは、特殊な FLP 信号が接続先装置から送り戻されたかどうかを確かめるために待機します。この動作を実行するように設計された装置は、インライン電力の受電を想定している装置だけです。
79xx IP Phone が 10/100 イーサネット ポートに接続されている場合、79xx IP Phone は特殊な FLP 信号を Catalyst スイッチの 10/100 イーサネット ポートに送り返します。79xx IP Phone は、それ自体のイーサネット受信ペアをイーサネット送信ペアに接続する特殊な中継機能を備えているため、この動作を実行できます。この中継機能は、電話機に電力が供給されなくなった時点でクローズされます。いったん電力が供給されると、この中継機能はオープン状態のままになります。
Catalyst スイッチはポートへの給電が必要であると判断し(接続された IP Phone から特殊な FLP 信号が送り返されたため)、Network Management Processor(NMP; ネットワーク管理プロセッサ)に問い合せ、IP Phone への給電に使用できる電源が存在するかどうかを調べます。NMP では IP Phone が必要とする電力量はわからないため、設定済みのデフォルトの電力割り当てを使用します。後で、接続された IP Phone からスイッチに実際の必要量が伝えられ、この量に基づいて NMP はこの割り当てを調整します。
この後、ポートは IP Phone に対して、ペア 1 および 2 を経由してコモンモード電流として電力を供給します。
ポートは電話機検出モードから抜け出し、通常の 10/100 イーサネット オートネゴシエーション モードに変わります。
スイッチがポートに電力を供給した瞬間、電話機内部のリレーがオープンし、IP Phone に電力が流れ始めます。
この時点で、スイッチ内の「リンク待ち」タイマーもスタートします。電話機は、それ自体のイーサネット ポートでのリンク完全性を確立するために 5 秒間待機します。スイッチが 5 秒以内にポートのリンク完全性を検出しない場合、スイッチはポートへの給電を遮断し、電話機検出の処理を最初からやり直します。スイッチは少なくとも 5 秒間待たなければならないため、すべての装置を検出するための十分な時間が確保されます。
スイッチが 5 秒以内にリンクを検出した場合は、リンク ダウン イベントを検出するまで IP Phone に電力を供給し続けます。
電話機の起動が完了すると、電話機は Type、Length、Value オブジェクト(TLV)を含む CDP メッセージを送信します。この TLV によって実際に必要な電力量がスイッチに通知されます。NMP はこれを確認し、それに応じてポートの電力割り当てを調整します。
注:Cisco Catalyst 6000スイッチだけが、各デバイスに割り当てられている電力の量を追跡します。Catalyst 4006 および 3500XL の各スイッチでは、すべてのポートに対しIP Phone に給電できるだけの十分な電力を供給します。
インライン電源パッチパネル(In-line Power Patch Panel, IPPP)は、未使用のイーサネット ペアを使用してインライン電力を供給します。IPPP には 4 列の RJ-45 コネクタ群があり、1 列ごとに 24 ポートを備えています。上部の 2 列は、端末装置(79xx IP Phone など)への接続に使用する給電ポートです。 下部の 2 列はスイッチへの接続に使用されます。このスイッチからイーサネットへの接続性が提供されます。
内部では、IPPPは上部の電話ポートに対応する下部スイッチポートからイーサネットペアを直接接続します。インライン電源パッチパネルは、ピン 1、2、3、6 に対してまったく干渉しません。完全な受動装置であるため、リンクを監視せず、速度や二重モードについても関知しません。
IPPP の電話機検出アルゴリズムは、前項で説明した Catalyst スイッチで使用されている方法に似ています。IPPP の電話機検出アルゴリズムは、IPPP からポートに送信された特殊な信号を電話機がループ バックする事実を利用しています。ただし、この場合は未使用のピン 4、5、7、8 が IP Phone の検出に使用されます。IP Phone が検出されると、これらのピン(配線ペア)も給電に使用されます。
Cisco IP Phoneが10/100イーサネットポートに接続されていることを検出する次の方法は、IPPP(WS-PWR-PANEL)で使用されます。
IPPP はポート 1 で電話機検出のシーケンスを開始します。
IPPPは347 kHzのループバックトーンをポート1から送信します。IPPPは50ミリ秒をリッスンして、ループバックトーンがポートに接続されているデバイスによって返送されているかどうかを確認します。これらのピンの電力を受け取ると予想されるデバイスだけが、ループバックトーンを送信側デバイス(この場合はIPPP)に転送します。 IPPPは、正しいループバックトーンを検出し、異常を検出しないことを確認するために、50ミリ秒以内に16の遷移を検出する必要があります。
受信したこの信号が正しい信号であることを IPPP が確認すると、ポートで電力が有効になります。信号が正しくない場合、IPPP は次のポートに移動して処理を最初からやり直します。
IPPP はポートごとに上の手順を繰り返し、すべてのポートについてこの処理を反復し続けます。
電源を供給する各ポートは、600ミリ秒ごとに50ミリ秒間ポーリングされ、デバイスが接続されていることを確認します。これにより、電力を必要としている装置が接続解除された場合にそのポートの電源が確実にオフになります。