Multilink PPP(MP、MPPP、MLP、または Multilink とも呼ばれる)は、複数の物理 WAN リンクを通じてトラフィックを伝搬する手段を提供すると同時に、パケットのフラグメント化とリアセンブリ、適切なシーケンシング、マルチベンダー間の相互運用性、および着信トラフィックと発信トラフィックのロードバランシングを可能にします。
MPPP ではパケットのフラグメント化が可能です。これらのフラグメントは、複数のポイントツーポイント リンクを経由して同じリモート アドレスに同時に送信されます。複数の物理リンクが、ユーザ定義の load threshold に応じてアップします。この負荷の測定は、受信トラフィックのみ、送信トラフィックのみ、またはいずれかのトラフィックについて行うことができます。ただし、受信トラフィックと送信トラフィックの合計についての負荷は測定できません。
ダイヤル接続の場合、MPPP は ISDN Basic Rate Interface(BRI; 基本速度インターフェイス)および Primary Rate Interface(PRI; 一次群速度インターフェイス)と、非同期シリアル インターフェイスに対して設定できます。また、この文書では特に説明していませんが、非ダイヤル シリアル インターフェイスに対しても設定できます。この文書は、Dial-on-Demand Routing(DDR; ダイヤルオンデマンド ルーティング)のための基本的な MPPP の設定について説明しています。 マルチシャーシ マルチリンク PPP についてはこのドキュメントでは説明しません。詳細については、「Multichassis Multilink PPP(MMP)」文書を参照してください。
ドキュメント表記の詳細は、『シスコ テクニカル ティップスの表記法』を参照してください。
このドキュメントに関しては個別の前提条件はありません。
このドキュメントの情報は、次のソフトウェアとハードウェアのバージョンに基づくものです。
Multilink PPP は、Cisco IOS(R) ソフトウェア リリース 11.0(3) で初めて導入されました。
この例では、Cisco IOS ソフトウェア リリース 11.3 が使用されています。
このマニュアルの情報は、特定のラボ環境に置かれたデバイスに基づいて作成されました。このドキュメントで使用するすべてのデバイスは、初期(デフォルト)設定の状態から起動しています。実稼動中のネットワークで作業をしている場合、実際にコマンドを使用する前に、その潜在的な影響について理解しておく必要があります。
MPPP は、複数の論理データリンクにわたってデータグラムを分割、再結合、および順序付けする手段です。MPPPの詳細な説明は RFC 1990 RFC 1990を参照してください。MPPP は当初 ISDN で複数のベアラ チャネルを活用することを目的としていましたが、2 つのシステムを複数の PPP リンク(非同期リンクを含む)で接続する状況であれば、同様に適用できます。
制御インターフェイス(仮想アクセス インターフェイス)によって MPPP リンク経由でルーティングされたトラフィックは、フラグメント化され、複数の物理リンクに分散して送信されます。フラグメントはリンクのリモート エンドで再構成され、最終的な宛先へのネクストホップに転送されます。
このセクションは、コマンドおよびルータで MPPP を設定するさまざまな方法について説明しています。
必要なコマンド | 説明 |
---|---|
ppp multilink | 物理インターフェイスで、さらにダイヤラ プロファイルを使用している場合はダイヤラ インターフェイスでも ppp multilink コマンドを(両方のルータで)設定します。 注:このコマンドを追加する場合は、既存の接続を切断し、新しいマルチリンクパラメータを適用するために再接続する必要があります。マルチリンクはコールの確立時にネゴシエートされるので、link control protocol(LCP)ネゴシエーションが完了している接続にはマルチリンクに加えた変更は適用されません。 |
dialer load-threshold 5 outbound | インターフェイスの負荷(1 〜 255)。これを超えると、ダイヤラは宛先への別のコールを開始します。帯域幅は 255 に対する割合として定義されます。この場合、255 が使用可能な帯域幅の 100 % とされます。この例では、リンクの発信負荷が 5/255(2 %)になると、追加のチャネルが始動します。必要に応じてこの値を変更してください。outbound 引数では、負荷計算が発信トラフィックのみに設定されます。inbound 引数では、負荷計算が着信トラフィックのみに設定されます。either 引数を使用すると、発信トラフィックと着信トラフィックの負荷のうち、いずれか大きい方が負荷として計算されます。 ヒント:お客様は、dialer load-threshold 1コマンドを設定する場合もよくあります。これは、すべてのBチャネルをすべてのコールに対してただちに使用できるようにするためです。この理由は、すべての B チャネルが即座に使用され ISDN パイプ全体が各コールに対して使用されれば、ユーザ データの転送時間が短くなるのでコールが短くなるはずというものです。 この理論は妥当ですが、実際にはダイヤラ負荷しきい値を「3」未満には設定しないことが得策です。この値を「3」未満に設定すると、複数の ISDN チャネルが一度にアップする原因となります。これにより、両方のチャネル間で競合が発生し、それらとの接続障害が発生する場合があります。 |
オプションのコマンド | 説明 |
ppp timeout multilink link remove seconds | このコマンドを使用することにより、負荷が変化したときのマルチリンク接続のフラッピングを防ぐことができます。たとえば、負荷しきい値が 15(つまり、15/255 = 6 %)に設定されていて、トラフィックがこのしきい値を超えると、追加回線が起動されます。トラフィックがしきい値未満に低下すると、追加回線はドロップされます。データ レートの変動が大きい状況では、負荷しきい値が指定した値未満に低下しても、複数のチャネルは指定した期間アップ状態を保つようにしておくと有益です。このマルチリンク タイムアウトは、全リンクのタイムアウトを制御する dialer idle-timeout に指定された値未満になるように割り当てます。 |
ppp timeout multilink link add seconds | このコマンドは、高トラフィックが指定のインターバルで受信されるまで、複数のリンクが MP バンドルに追加されることを防ぐ場合に使用できます。これにより、トラフィックのバーストにより不必要に追加回線がアップ状態になることを防止できます。 |
ppp multilink max-link または ppp multilink links maximum(IOS 12.2 以降) | ppp multilink links maximum コマンドの値セットは、1 つのバンドルで許可されるリンクの最大数を指定します。ppp multilink links maximum コマンドで割り当てられる数より多くのリンクがバンドルに参加しようとする場合、MLP はリンクの数を減らすためにダイヤラ チャネルをハングアップさせます。これは、マルチリンク接続により過剰な接続が起動されるのを防ぐために使用できます。 |
ppp multilink min-link または ppp multilink links minimum(IOS 12.2 以降) | ppp multilink links minimum コマンドの値セットは、MLP により 1 つのバンドルに保存されるリンクの最小数を指定します。MLP は負荷が負荷しきい値を超過しなくても、リンク引数によって指定される番号を取得するために、追加リンクのダイヤルを試みます。これは、特定の数のチャネルを強制的にアップさせるのに使用できます。 |
multilink bundle-name | このコマンドは、マルチリンク バンドルが識別される基準を変更するために使用できます。 |
このセクションでは、レガシー DDR(ロータリーグループおよびダイヤラ マップ)を使用してマルチリンク PPP を設定する方法について説明しています。
ISDN インターフェイスは「ダイヤラ」インターフェイスと見なされるため、ISDN インターフェイスで MPPP 接続を可能にするために必要なコマンドはそれほど多くありません。たとえば、BRI または PRI を複数使用しない限り、ダイヤラ ロータリー グループを設定する必要はありません。
次に、BRI で単純なダイヤルオンデマンド PPP 接続を行う場合の設定例を示します。
! interface BRI0 ip address 192.168.12.3 255.255.255.240 encapsulation ppp dialer map IP 192.168.12.1 name ROUTER1 5554321 dialer-group 1 ppp authentication chap isdn spid1 40855512120000 5551212 isdn spid2 40855512340000 5551234 !
このインターフェイスの設定に 2 つのコマンドを追加するだけで、MPPP が可能になります。コールの相手側のルータも、同様に設定する必要があります。その 2 つのコマンドとは、次のとおりです。
ppp multilink
dialer load-threshold load [outbound | inbound | either]
2 つ以上の物理インターフェイスをバンドルする場合(非同期またはシリアル インターフェイスを使用する場合、または複数の ISDN インターフェイスを使用する場合)は、別の方法を使用する必要があります。この場合は、ダイヤラ ロータリー グループを設定し、MPPP 接続を制御するためにルータの設定にダイヤラ インターフェイスを追加する必要があります。簡潔に表現すれば、「論理」インターフェイスが「物理」インターフェイスを制御する必要があります。
そのためには、次のことを行う必要があります。
物理インターフェイスをロータリー グループに配置する。
ロータリー グループに導くものとして、論理(「ダイヤラ」)インターフェイスを作成する。
ダイヤラ インターフェイスが MPPP を実行するように設定する。
複数のインターフェイスで MPPP を設定するには、次のステップに従います。
dialer rotary-group number コマンドを使用して、物理インターフェイスをロータリー グループに配置します。この例では、非同期インターフェイスが rotary-group 1 に配置されます。
router#configure terminal Enter configuration commands, one per line. End with CNTL/Z. router(config)#interface async 1 router(config-if)#dialer rotary-group 1 router(config-if)#^Z router#
注:ルータが設定されていない場合、またはルータがデフォルト設定に戻されている場合は、必ずno shutdownインターフェイス設定コマンドを使用してください。
ダイヤラ インターフェイスを作成するために、interface dialer number グローバル設定コマンドを使用します。この例では、interface dialer 1 が作成されます。
router#configure terminal Enter configuration commands, one per line. End with CNTL/Z. router(config)#interface dialer 1 router(config-if)#end router#
注:インターフェイスダイヤラコマンドのnumber引数は、ステップ1で設定したロータリーグループの番号と同じである必要があります。
show running-config コマンドを使用して、ダイヤラ インターフェイスのデフォルトの設定を表示します。
! interface Dialer1 no ip address no cdp enable !
次に、ダイヤラ インターフェイスがコールを発信または着信するための設定を行います。MPPP の基本的なコマンドは ステップ 1と同じです。
! interface Dialer1 ip address 192.168.10.1 255.255.255.0 encapsulation ppp dialer in-band dialer idle-timeout 300 dialer map ip 192.168.10.11 name RemoteRouter broadcast 5551234 dialer load-threshold 100 dialer-group 1 no fair-queue ppp multilink ppp authentication chap !
MPPP が設定された DDR の完全な設定の例は、「Cisco アクセス ダイヤル コンフィギュレーション クックブック」を参照してください。
ダイヤラ プロファイルでマルチリンク PPP を設定することは、レガシー DDR の設定と類似しています。ppp multilink コマンドは、物理インターフェイスとダイヤラ インターフェイスの両方での設定が必要です。dialer load-threshold コマンドは、ダイヤラ インターフェイスで設定する必要があります。たとえば、
interface BRI0 no ip address encapsulation ppp dialer pool-member 1 isdn switch-type basic-5ess ppp authentication chap ppp multilink ! -- Configure multilink on both physical and dialer interfaces ! interface Dialer1 ip address 172.22.85.1 255.255.255.0 encapsulation ppp dialer pool 1 ! -- Defines the pool of physical resources from which the Dialer ! -- interface may draw B channels as needed. dialer remote-name R1 dialer string 6661000 dialer load-threshold 128 outbound dialer-group 5 ppp authentication chap ppp multilink ! -- Configure multilink on both physical and dialer interfaces
ダイヤラ プロファイルに関する詳細については、『ダイヤラ プロファイル設定とトラブルシューティング』のドキュメントを参照してください。
MPPP 接続が適切に動作するかどうかを確認するには、debug ppp negotiation コマンドを使用します。Link Control Protocol(LCP; リンク制御プロトコル)フェーズでネゴシエートされる必要がある重要な要素は、Maximum Receive Reconstructed Unit(MRRU)と Endpoint Discriminator(EndpointDisc)です。
As1 LCP: O CONFREQ [Listen] id 1 len 26 As1 LCP: AuthProto CHAP (0x0305C22305) As1 LCP: MagicNumber 0x10963BD1 (0x050610963BD1) As1 LCP: MRRU 1524 (0x110405F4) As1 LCP: EndpointDisc 1 Local (0x13070174657374) As1 LCP: I CONFREQ [REQsent] id 3 Len 27 As1 LCP: MRU 1500 (0x010405DC) As1 LCP: MagicNumber 0x2CBF9DAE (0x05062CBF9DAE) As1 LCP: MRRU 1500 (0x110405DC) As1 LCP: EndpointDisc 1 Local (0x1306011AC16D) As1 LCP: I CONFACK [REQsent] id 1 Len 26 As1 LCP: AuthProto CHAP (0x0305C22305) As1 LCP: MagicNumber 0x10963BD1 (0x050610963BD1) As1 LCP: MRRU 1524 (0x110405F4) As1 LCP: EndpointDisc 1 Local (0x13070174657374) As1 LCP: O CONFACK [ACKrcvd] id 3 Len 24 As1 LCP: MRU 1500 (0x010405DC) As1 LCP: MagicNumber 0x2CBF9DAE (0x05062CBF9DAE) As1 LCP: MRRU 1500 (0x110405DC) As1 LCP: EndpointDisc 1 Local (0x1306011AC16D) As1 LCP: State is Open
LCP ネゴシエーションの他の要素と同様、MRRU および EndpointDisc は、CONFREQ および CONFACK の交換時に接続の両端で一致する必要があります。プロトコルが確立されるためには、接続の両端が CONFACK を送信する必要があります。debug ppp negotiation 出力の読み方についての詳細は、『debug ppp negotiation の出力について』のドキュメントを参照してください。
PPP ネゴシエーションの LCP フェーズにおける MPPP のネゴシエートが成功し、Challenge Handshake Authentication Protocol(CHAP)または Password Authentication Protocol(PAP)が正常に完了すると、MPPP バンドルを表す仮想アクセス インターフェイスが Cisco IOS ソフトウェアによって作成されます。バーチャル アクセス インターフェイスの使用および背景理論の詳細については、『Cisco IOS のバーチャル アクセス PPP 機能』のドキュメントを参照してください。
仮想アクセス インターフェイスの作成は、debug ppp negotiation の出力に次のように示されます。
As1 PPP: Phase is VIRTUALIZED
これ以降、ネットワーク制御プロトコルの PPP ネゴシエーションは仮想アクセス インターフェイスによって扱われます。以下に、いくつかの例を示します。
Vi1 PPP: Treating connection as a dedicated line Vi1 PPP: Phase is ESTABLISHING, Active Open Vi1 LCP: O CONFREQ [Closed] id 1 Len 37 ... Vi1 PPP: Phase is UP Vi1 IPCP: O CONFREQ [Closed] id 1 len 10 Vi1 IPCP: Address 192.168.10.1 (0x0306C0A80A01) ...
MPPP 接続が確立されると、show ppp multilink コマンドの出力中に、MPPP 接続に関する情報が見られます。
router#show ppp multilink Virtual-Access1, bundle name is RemoteRouter 0 lost fragments, 0 reordered, 0 unassigned, sequence 0x29/0x17 rcvd/sent 0 discarded, 0 lost received, 1/255 load Member links: 1 (max not set, min not set) Async1
bundle name は、接続されたクライアント デバイスの認証されたユーザ名です。member links は、バンドルのアクティブなメンバである物理インターフェイスのリストです。上の例では、現在アクティブなリンクは 1 つだけです。しかし、ルータはいくつかのポイントでより多くのリンクをバンドルに追加できます。(バンドル全体ではなく)特定のリンクの接続を解除するには、clear interface interface コマンドを使用します。たとえば、clear interface Async1 のようになります。
命名規則が最初に試みられる順序(バンドル ネームに見られるように)は、multilink bundle-name コマンドを使用して変更できます。
また、show interface コマンドは、他のすべての物理インターフェイスまたは論理インターフェイスに対して有効であるのと同様に、仮想アクセス インターフェイスに対しても有効です。他の show interface の出力に表示されるのと同じタイプの情報が表示されます。
router#show interface virtual-access 1 Virtual-Access1 is up, line protocol is up Hardware is Virtual Access interface Description: Multilink PPP to RemoteRouter ! -- This VAccess interface is conencted to "RemoteRouter" Internet address is 192.168.10.1/24 MTU 1500 bytes, BW 7720 Kbit, DLY 100000 usec, reliability 255/255, txload 1/255, rxload 1/255 Encapsulation PPP, loopback not set Keepalive set (10 sec) DTR is pulsed for 5 seconds on reset LCP Open, multilink Open ! -- multilink state should be Open for a successful connection Open: IPCP Last input 00:00:01, output never, output hang never Last clearing of "show interface" counters 04:25:13 Queueing strategy: fifo Output queue 0/40, 0 drops; input queue 0/75, 0 drops 5 minute input rate 12000 bits/sec, 2 packets/sec 5 minute output rate 12000 bits/sec, 2 packets/sec 2959 packets input, 2075644 bytes, 0 no buffer Received 0 broadcasts, 0 runts, 0 giants, 0 throttles 0 input errors, 0 CRC, 0 frame, 0 overrun, 0 ignored, 0 abort 2980 packets output, 2068142 bytes, 0 underruns 0 output errors, 0 collisions, 0 interface resets 0 output buffer failures, 0 output buffers swapped out 0 carrier transitions
改定 | 発行日 | コメント |
---|---|---|
1.0 |
09-Sep-2005 |
初版 |