~AI 時代のセキュリティガバナンス~
サマリーレポート
デジタル変革を大きく後押しするものとして、重要な役割を果たすと期待されている AI。最近では ChatGPT などの生成 AI も使いやすくなり、一気にユーザー数を増やしています。しかしセキュリティ上の懸念などによって、生成 AI を禁止すべきではないかという意見もあり、この新技術のリスクにどのように対処するかが喫緊の課題になっています。
このような状況の中、シスコは「AI 時代のセキュリティガバナンス」をテーマに、「Cisco CISO ランチョンForum 2023」を 2023 年 7 月 14 日に開催しました。シスコ米国本社からは CISO を務めるアンソニー・グレコが来日し、AI やセキュリティガバナンスに関する最新動向やシスコの取り組み等について共有。またご参加いただいた、日本の名だたる企業・組織のCISOおよびセキュリティ責任者の皆様によるラウンドテーブルディスカッションにおいて、AI 活用の状況や期待、リスク管理の方法、人材の確保や育成など、幅広い内容に関する活発な討議も行われました。
ここでその概要をご紹介いたします。
シスコシステムズ合同会社
代表執行役員社長 中川 いち朗
開会の挨拶ではまず、セキュリティがシスコにとって最重要戦略であること、全ての人にインクルーシブな未来を実現することがシスコのパーパスであることを述べた上で、脅威阻止のためにシスコのセキュリティインテリジェンスチームの「Cisco Talosチーム」が重要な役割を担っていることや、日本の公的機関や産業界との連携も積極的に行われていることなどを紹介。さらに AI 時代のガバナンスについても言及し、新たな課題が顕在化している一方で、セキュリティ向上の重要な武器になると語りました。
「AI 活用はシスコのパーパス実現を後押しするものだと期待しています」と中川。その一方でシスコには、AI の潜在的な危害を軽減する責任もあると認識しており、そのための取り組みとしてグローバルで「Responsible AI Committee」も設置しているとも述べています。
さらに「シスコジャパンは単なる製品ベンダーからもう一歩踏み込んで、お客様との戦略的なビジネスパートナーになりたい」という思いにも言及。CISO ラウンドテーブル開催もその一環であると述べた上で、次のセッションにバトンを渡しました。
SVP, Chief Information Security Officer, Cisco
アンソニー・グレコ
中川からバトンを引き継いだグレコは、シスコにおける AI 活用について紹介。すでにセキュリティ領域で 15 年にわたって予測型 AI (Predictive AI)を活用していると述べた上で、新たに登場した生成 AI (Generative AI)は「ゲームチェンジャー」であり、抜本的に AI のパラダイムを変えてしまう可能性があると指摘します。
「ここで重要なことは、セキュリティ専門家にとっても生成 AI は 15 年ぶりに訪れたチャンスだということです。セキュリティ強化のために新たなテクノロジーを導入する取り組みは、なかなかユーザーに受け入れてもらえません。しかし生成 AI はビジネス部門にも注目されているため、セキュリティ統合などの取り組みを短期間で進めることを容易にするのです」。
シスコではすでに生成 AI を複数の製品に取り入れていると言及。もちろん現状ではリスクも存在しますが、それを回避するために AI フレームワークを作り公表していると言います。
「生成 AI は多くの場所でチームを効率化できます。これほどまでにエキサイティングなものは、これまで見たことがありません」。
ランチタイムに行われたラウンドテーブルディスカッションでは、まず 4 つのテーマが提示され議論がスタートしました。しかし話の流れはそれらのテーマにとどまらず、様々な方向へと発展。ここではその議論の中から、主要なコメントをご紹介します。
シスコシステムズ合同会社
執行役員 セキュリティ事業担当 石原 洋平
フォーラムの最後の挨拶では、シスコのセキュリティ事業担当が登壇し、製品開発の最新状況を紹介。シスコでは AI がセキュリティ担当者を助ける世界を目指しており、そのためにはクロスドメインでのネイティブテレメトリと AI の進化が必要だと指摘した上で、これらに関する取り組みが示されました。
「シスコは他社製品も含めたテレメトリデータを収集・相関分析を行うことで可視性と検知を向上させ、さらにセキュリティ運用業務を自動化する仕組みとして Cisco XDR を 4 月に発表しました。これによって効率的、効果的に企業、組織を守ることができます」。
また、セキュリティ人材不足に対しては、包括的なインシデント分析情報を提供し、高度なスキルが要求されるSOCアナリストを支援する「Cisco SOC Assistant」にも言及。「シスコでは AI をフル活用しながら、セキュリティでもお客様との戦略的なビジネスパートナーになることを目指しています」と締めくくりました。
今回のCISOランチョン Forum では、多くの方が「生成 AI はゲームチェンジャー」「大きな可能性がある」と感じていることがわかりました。もちろんハルシネーションや情報漏えいといったリスクはありますが、活用しないと考えているところはほとんどないと言えそうです。
またセキュリティ分野における生成 AI 活用にも、大きな期待が寄せられているようです。もちろんそのためには、AI やセキュリティを理解し、使いこなせるスキルを持つ人材を育成しなければなりません。AI によって効率化が進む一方で、より高度化した仕事が新たに登場することで、そう簡単には人材不足は解消しない、という状況も見えてきました。
今後もお客様の戦略的ビジネスパートナーとしてこのような場を設け、情報共有と討議を行いたいと考えています。