Cisco Sustainability Summit 2024
イベントレポート

~ Bridge to Possible サステナブルな未来の実現をともに ~

企業の経済活動の発展によって生活水準の向上など恩恵がもたらされる一方、地球温暖化に伴う気候変動や資源枯渇など、環境問題の深刻化が懸念されています。持続可能な経済活動のためにも、サステナビリティ推進に取り組んでいくことが、全ての国や組織、企業にとって喫緊の課題となっています。しかし、具体的にどのような取り組みを企業として行うべきか、悩みを抱えている経営者やサステナビリティ担当者も少なくないはずです。

このような状況の中、企業でサステナビリティ推進やサステナブルな IT 選定などに従事される方々を対象に、ICTを活用したサステナビリティの推進について検討することを目的に開催したのが、「Cisco Sustainability Summit」です。

このイベントでは外部講演者として、経済産業省 産業技術環境局 資源循環経済課 課長の田中氏と、日本電気株式会社 環境経営統括部 シニアプロフェッショナルの岡野氏がご登壇。また米国シスコシステムズで初代 Chief Sustainability Officer に就任している Mary de Wysocki や、Engineering Sustainability Office の Vice President (以下、VP)を務める Denise Lee から、国や各社の取り組みが紹介されました。

ここではこれらのセッション内容を、ダイジェストレポートの形でご紹介します。

開会のご挨拶

シスコシステムズ合同会社
代表執行役員社長
濱田 義之

「シスコのサステナビリティ目標」を紹介するショート動画の後、濱田が登壇し、開会のご挨拶を行いました。まず「すべての人にインクルーシブな未来を実現する」というシスコのパーパスを示した上で、「これはシスコ 1 社でできるものではなく、皆様とともにバリューチェーン全体で推進していきたい」と発言。これによって、世界のよりよい未来につなげていくことを目指していると語りました。

「シスコジャパンとしては、テクノロジーイノベーションで日本の未来価値を創造していくことを目指しています。注力分野としては、セキュリティ、サステナビリティ、AI がありますが、AI とサステナビリティが相反することがあってはならず、これらを両輪として回していきたいと考えています」。

さらにシスコのサステナビリティへの公約である「2040 年までに温室効果ガス排出を実質ゼロ(ネットゼロ)にする」ことにも言及。そのための 5 つの取り組みと、お客様の目標達成に向けたシスコの支援について紹介しました。

<The Plan for Possible>

シスコのサステナビリティにおける取り組み

Cisco Systems
SVP and Chief Sustainability Officer
Mary de Wysocki

続いて、シスコで初代 Chief Sustainability Officer を務める Mary de Wysocki が、ニューヨークからシスコのオンライン会議システム Webex で登壇しました。「私たちは今後 10 年で、サステナビリティに向けた何らかの行動を起こしていかなければなりません」と述べ、ここで重要なことは、単に持続可能にすることではなく、再生可能な未来を作ることだと指摘。そのためには「クリーンエネルギーへの移行」「循環型モデルへの進化」「回復力のあるエコシステム」という 3 つのステップを進めていく必要があると語りました。

さらに、その基盤になるのが「強力なガバナンス」であり、誠実かつ信頼を勝ち得た上で取り組みを進めていかなければならないと言及。「シスコは皆様の信頼を得るため、これらの取り組みがどれだけ進捗しているのかについて計測と報告を行っています」と述べた上で、シスコが掲げる主要な目標を紹介しました。

<基調講演>

サステナブルな未来と企業戦略

Cisco Systems
VP、 Engineering Sustainability Office
Denise Lee

基調講演は、シスコで VP、 Engineering Sustainability Office を務める Denise Lee が登壇。サステナビリティはビジネスの必須要件になっていると指摘した上で、シスコのアプローチについて説明しました。

「シスコは『持続可能なデザイン』『責任ある調達』『運用の最適化』『資産ライフサイクルの管理』『エネルギー管理』で構成されるフレームワークに基づき、サステナビリティ目標の実現に取り組んでいます」と Lee。その中で Engineering Sustainability Office は、シスコのポートフォリオ全体で持続可能なソリューションを開発し、顧客とパートナーのネットゼロとサステナビリティへのコミットメントを加速することをミッションにしており、そのために『エネルギー管理』『ソフトウェア』『ハードウェア』『ビジネス変革』という、4 つの重点分野に取り組んでいると語ります。また、サステナブルなテクノロジーは新製品だけではなく、既存製品にも適用していると説明。

その後、シスコのサステナブルソリューションの適用領域として、効率性や可視性を実現しパフォーマンスとコストを最適化した「サステナブルデータセンター」、エネルギー効率の高いネットワークを実現した「スマートビルディング&ワークプレイス」、ネットワークの設計・計画・管理を簡素化した「未来のインターネット」についても説明。産業別ソリューションにも触れた上で、電力とデータを同じケーブルで接続する「エネルギー・ネットワーキングの進化」についても解説し、「シスコは、個別の電気インフラを必要としないフォルトマネージドパワー(FMP)という新技術を開発しており、これが持続可能なデータセンターを設計する上での根本的な転換をもたらすはずです」と述べました。

さらに、システム設計成功のための青写真である「Cisco Validated Design」や、シスコライフサイクル管理プログラムについても紹介。「ぜひ現在の取り組みを加速し、明日への準備を進めていただきたいと考えています」。

<ゲスト講演 1>

日本の資源循環経済政策について

経済産業省
産業技術環境局 資源循環経済課 課長
田中 将吾 氏

ゲスト講演 1 では経済産業省の田中氏にご登壇いただき、「成長志向型の資源自律経済戦略と今後のアクション」と題して、大きく 3 つのトピックに分けて資源循環経済政策の最新動向についてお話しいただきました。

第 1 のトピックは「これまでの資源循環経済政策」です。日本は 2000 年前後から、廃棄物の適正処理や 3R(リデュース、リユース、リサイクル)に取り組んできましたが、近年は、廃棄物問題や気候変動問題に加え、世界的な資源需要と地政学的なリスクの高まりといった資源制約の観点から、資源の効率的・循環的な利用と付加価値の最大化を図る、「サーキュラーエコノミー(循環経済)」への移行が喫緊の課題となってきているといいます。経済産業省では、サーキュラーエコノミーへの移行に向けた総合的な政策パッケージとして「成長志向型の資源自律経済戦略」を 2023 年 3 月に策定し、同戦略の実現に向け、「規制・ルールの整備」「政策支援の拡充」「産官学連携の取り組み強化」という 3 つのギアで、サーキュラーエコノミーへの移行に向けた取り組みを加速させていると語りました。

第 2 は「サーキュラーエコノミーに関する産官学のパートナーシップ『サーキュラーパートナーズ(略称:CPs)』」について。CPs はサーキュラーエコノミーに野心的・先進的に取り組む関係主体のライフサイクル全体における有機的な連携を促すことを目的に、2023 年 9 月に経済産業省・環境省が立ち上げた組織です。CPs の組織構成や、関係主体の参画状況、CPs の各ワーキンググループで検討を進めている課題などが紹介されました。

そして第 3 は「資源循環経済小委員会」です。同委員会は2023 年 9 月に産業構造審議会産業技術環境分科会の下に設置され、動静脈連携の加速に向けた規制・ルールの整備に向けた議論が行われているといいます。同委員会における議論の論点やこれまでの開催状況について紹介がありました。

この他にも、EU における政策動向として、改正エコデザイン規則や、その中の「デジタル製品パスポート(DPP)」についてや、グローバルなブランドオーナーによる再生材利用に関するコミットメントといった国際的な動向等も紹介されました。

 

<ゲスト講演 2>

NEC の環境経営とソリューション

日本電気株式会社
環境経営統括部 シニアプロフェッショナル
岡野 豊 氏

ゲスト講演 2 では、シスコの強力なパートナーであるNEC で、環境対策とビジネスの取りまとめを行っている岡野氏が登壇。同社の環境経営とソリューションをご紹介いただきました。

まず、NEC は 2022 年に「NEC 2030VISION」を発表しており、その土台になるのが「環境対策」なのだと岡野氏は説明。これについて 2 つの柱で取り組んでいると語ります。1 つは「NEC・サプライチェーンのカーボンニュートラル」、もう 1 つは「お客様・社会のカーボンニュートラル」です。

NEC 自身の目標としては、カーボンニュートラル達成目標年を、2050 年から 2040 年に前倒し。Scope 1/2 については再エネ設備の導入を拡大しており、Scope 3 については説明会を開催するなど、サプライヤと伴走しながら目標達成を目指していると言及。もちろん製品自体の省エネ性能向上にも取り組んでおり、その一例としてスパコン「SX-Aurora TSUBASA」が前機種と比較し、約 8 割の消費電力を削減したことを紹介。さらに、最近では気候変動だけではなく自然資本や生物多様性への取り組みについて投資家から聞かれることが増えており、これに関しては 2023 年に国内 IT 業界初となる「TNFD レポート」で情報開示していると語ります。

その後、NEC が提供しているソリューションや、コンサルティングサービスについても言及。環境情報を可視化する「GreenGlobeX」や、低 CO2 データセンター、工場向けトータルエネルギーマネジメント、AI・量子コンピューティング技術による最適化、電力をまとめて提供・管理するサービス、防災減災ソリューションなどが紹介されました。

「デジタル・プロダクト・パスポートの仕組みも内閣府のプロジェクトで NEC が検討しています」と岡野氏。TNFD (自然関連財務情報開示タスクフォース)レポート作成の伴走支援も行っていると語ります。「これからもお客様とともに環境対策を進めていきたいと考えています」。

<シスコ講演 1>

お客様のサステナブルな取り組みを支えるシスコのソリューションおよびプログラム概要

シスコシステムズ合同会社
執行役員 ネットワーキングエクスペリエンス事業
高橋 敦

後半のシスコセッションでは、トップバッターとして執行役員の高橋が登壇し、シスコのソリューションとプログラムの概要を紹介。まず「サステナビリティ対応ソリューション」では、「サステナブルデータセンター」「スマートビルディング」「未来のインターネット」を提供していると述べた上で、「未来のインターネットでは Cisco Silicon One や Cisco Routed Optical Networking を採用することで、圧倒的な帯域の向上とコスト削減を実現しながら、消費電力の劇的な削減を可能にしています」と説明しました。

その一方で、「サーキュラーエコノミー促進プログラム」に関しては、お客様向けのファイナンスプログラム「Cisco Green Pay」や、パートナー様向けの「Environmental Sustainability スペシャライゼーション」、認定再生品「Cisco Refresh」を紹介。お客様のサステナビリティ目標の達成をビジネスパートナーとして支援するための総合窓口として機能する「サステナビリティ推進支援センター」にも言及しました。

<シスコ講演 2>

シスコのプラットフォームで実現するサステナブルなワークプレイス

シスコシステムズ合同会社
ハイブリッドワーク・ソリューションスペシャリスト
荒井 聖一

次にハイブリッドワーク ソリューション スペシャリストである荒井が「スマートビルディング」ソリューションについて解説。具体的にどのような取り組みを行っているのかを紹介しました。

「サステナブルなオフィスを実現するには、エネルギー効率と資源効率の向上が必要です。そのためにシスコはデータネットワークと電力ネットワークの統合とセンサーデータによるオフィスの利用状況の見える化を推進。シスコPoE(Power over Ethernet)スイッチによるデータネットワークと電力ネットワークの統合では、配線を簡素化するとともに、きめ細かい可視化と制御を実現可能にしました」。

一方、オフィスの利用状況がセンサーデータで可視化されれば、スペースの利用状況を把握した上で、温度や湿度などの環境制御の自動化も可能になると荒井。シスコのネットワーク製品はそのためのセンサーになり、そのデータを可視化する「Cisco Spaces」を提供していると言及。

またシスコ社内での最新事例にも触れ、古い建物をリノベーションしながら未来のオフィスを実現したパリオフィスや、エネルギー消費を 40 %近く削減したニューヨークオフィスなどが紹介されました。

<シスコ講演 3>

シスコがご提案するサステナブルなデータセンターソリューション

シスコシステムズ合同会社
クラウド・サービスプロバイダーアーキテクチャ事業
クラウドアーキテクチャ事業部 事業部長
鈴木 康太

引き続き、クラウドアーキテクチャ製品・ソリューションを担当する鈴木が、「サステナブルデータセンター」について解説。サステナビリティでは効率的なデータセンターの実現が重要であることを指摘した上で、シスコの取り組みを紹介しました。

「まずハードウェアに関しては、より電力効率の高い電源の採用、物理設計の改善、高効率な ASIC(Application Specific Integrated Circuit)の開発を進めており、これらをサーバーとスイッチに導入しています」と鈴木。例えば 2021 年から発売開始している最新のモジュラーサーバーである UCS-X シリーズとラックマウントサーバを比較すると、UCS-X ではファブリックアーキテクチャによるハードウェア削減に加え、ミッドプレーンレスによる空冷効率の向上やゾーンベースクーリング、液冷対応なども実施し、他社製品に比べてエネルギー消費量を約 11 %削減していると言及。

一方ソフトウェアに関しては「測定できないものは制御できない」という考え方のもと、可視化や洞察提供を行うソフトウェアに力を入れていると説明。これらを組み合わせることで、サステナブルな AI 共存社会を支える、シンプルなインフラを提供していると強調しました。

<シスコ講演 4>

循環型経済を加速するシスコのお客様向けプログラム

シスコシステムズ合同会社
執行役員 シスコキャピタル事業担当
竹内 太郎

「サーキュラーエコノミー促進プログラム」に関しては、シスコキャピタル事業を担当する執行役員の竹内が登壇。シスコが 2018 年からグリーン投資に取り組んでいることに言及した上で、その 1 つである「Cisco Green Pay」について説明しました。「従来のエコノミーは大量廃棄を前提とした一方通行の経済構造でしたが、これではサーキュラーエコノミーを促進できません。この問題を解決するのが Cisco Green Pay です」。

このプログラムではお客様がシスコ製品を保有せず、利用終了後は再利用・リサイクルします。その回収はシスコが行い、集荷と運搬コストも全てシスコが負担する一方で、お客様は導入時のハードウェアに対して最大 5 %の特典を享受可能。これによって廃棄率 0.1 %未満を達成していると言及。

さらに、販売パートナープログラム「Environmental Sustainabilityスペシャライゼーション(ESS)」や、グリーンなシスコ認定再生品「Cisco Refresh」も紹介。今後もソリューションとプログラムを拡充していくと述べました。

<シスコ講演 5>

CX サステナブルサービス ~IT を活用してサステナブルを実現~

シスコシステムズ合同会社
業務執行役員 カスタマーエクスペリエンス
プリンシパルアーキテクト
大塚 繁樹

シスコセッションの最後は、カスタマーエクスペリエンス(CX)業務執行役員でプリンシパルアーキテクトでもある大塚が登壇。サステナビリティ推進には様々な阻害要因があると述べ、それらを整理すると「目標が定義されていない」「財務上・予算上の制約」「技術スキルの欠如」「トップダウンのサポートが不十分」にまとめられると指摘した上で、これらを解決するための支援サービスとして、「CX サステナブルサービス」を紹介しました。

「これはシスコ CX チームが、パートナーと連携してサステナビリティ実現に向けた変革へのロードマップで生じる様々な課題を解消するとともに、エネルギー消費に関するデータドリブンのオブザバービリティを確保、ビジネス目標に沿った改善計画の推奨、アーキテクチャソリューションを進化させて刷新する為のアセスメントを行うものです。これによって、サステナビリティに関するイニシアチブを明確にして優先順位を付けることや、目標に併せたエネルギー利用の最適化、ネットワーク全体のエネルギー消費管理が可能になります」。

具体的には、サステナビリティ推進の取り組みに対する優先度付けを支援するサービス、電力最適化のアセスメントを行うサービス、キャンパス向けのライフサイクルサービス、データセンター向けのライフサイクルサービスを提供していると説明し、シスコの各種ソリューションを活用しながら、これらを行っていると言及。

さらに、各サービスの内容を掘り下げた上で、複数のお客様事例やお客様の声も紹介。シスコ CX で価値実現までの時間を短縮していることや、クリーンエネルギーの未来に向けた変革が推進されていることなどが示されました。

閉会のご挨拶

シスコシステムズ合同会社
副社長 カスタマーエクスペリエンス
望月 敬介

最後に、シスコ副社長の望月が登壇し、閉会のご挨拶を行いました。ここで「シスコはこのようなイベントでの情報共有を通じて、サステナビリティを実現しながら日本の経済や国力を強化するお手伝いをしていきたい」と発言。しかしシスコ 1 社でできる範囲は限られており、パートナーシップによってともに推進していくことが大切なのだと締めくくりました。

イベントを振り返って

今回のイベントは、地球の気候変動を連想させる警報級の大雨の中で開催されました。それでも数多くの方々がご来場くださったのは、サステナビリティに対する意識や危機感が、日本でもさらに高くなっているからでしょう。もちろん、濱田や望月の言葉にもあるように、サステナビリティを一部の国や企業だけで実現することは不可能であり、より広範なエコシステムを構築していくことが不可欠になるはずです。

シスコは今後もこのようなイベントなどを通じて、日本におけるサステナビリティ実現に向けたパートナーシップの拡大や、エコシステム構築に貢献し続けたいと考えています。