Cisco IOS IP SLA 動作の設定
この章では、Catalyst 2960、2960-S、または 2960-C スイッチで Cisco IOS IP サービス レベル契約(SLA)を使用する方法について説明します。Cisco IP SLA は Cisco IOS ソフトウェアの一部であり、シスコのお客様は連続的で信頼性の高い確実な方法でトラフィックを生成するアクティブ トラフィック モニタリングを行って IP アプリケーションとサービスの IP サービス レベルを分析し、ネットワーク パフォーマンスを測定することができます。Cisco IOS SLA を使用すると、サービス プロバイダーのお客様はサービス レベル契約の検討と提供、企業のお客様はサービス レベルの検証、外部委託しているサービス レベル契約の検証、およびネットワーク パフォーマンスを把握することができます。Cisco IOS IP SLA は、ネットワーク アセスメントを実行することで Quality of Service(QoS)の検証、新しいサービス導入の簡易化、ネットワーク トラブルシューティングの補助を可能にします。特に明記しない限り、 スイッチ という用語は、スタンドアロン スイッチおよびスイッチ スタックを指します。
(注) Cisco IOS IP Service Level Agreement(SLA; サービス レベル契約)を使用するには、スイッチが LAN Base イメージを実行している必要があります。
スイッチは、IP SLA Responder の機能だけをサポートしているため、IP SLA 機能をすべてサポートしているデバイスにだけ設定する必要があります。
IP SLA の詳細については、次の URL にある『 Cisco IOS IP SLAs Configuration Guide, Release 12.4T 』を参照してください。
http://www.cisco.com/en/US/docs/ios/ipsla/configuration/guide/12_4t/sla_12_4t_book.html
コマンドの構文については、次の URL にあるコマンド リファレンスを参照してください。
http://www.cisco.com/en/US/docs/ios/ipsla/command/reference/sla_book.html
この章で説明する内容は、次のとおりです。
• 「Cisco IOS IP SLA の概要」
• 「IP SLA 動作の設定」
• 「IP SLA 動作のモニタリング」
Cisco IOS IP SLA の概要
CiscoIOS IP SLA はネットワークにデータを送信し、複数のネットワーク間あるいは複数のネットワーク パス内のパフォーマンスを測定します。ネットワーク データおよび IP サービスをシミュレーションし、ネットワーク パフォーマンス情報をリアル タイムで収集します。Cisco IOS IP SLA は、Cisco IOS デバイス間のトラフィックまたは Cisco IOS デバイスからネットワーク アプリケーション サーバのようなリモート IP デバイスへのトラフィックを生成し、分析します。さまざまな Cisco IOS IP SLA 動作で評価を実行し、トラブルシューティング、問題分析、ネットワーク トポロジの設計に使用します。
Cisco IOS IP SLA 動作に応じてシスコ デバイスのネットワーク パフォーマンス統計情報がモニタリングされ、コマンドライン インターフェイス(CLI)MIB および Simple Network Management Protocol(SNMP; 簡易ネットワーク管理プロトコル)MIB に格納されます。IP SLA パケットには設定可能な IP レイヤおよびアプリケーション層のオプションがあります。たとえば、発信元および宛先 IP アドレス、ユーザ データグラム プロトコル(UDP)/TCP ポート番号、タイプ オブ サービス(ToS)バイト(Differentiated Services Code Point(DSCP; DiffServ コード ポイント)および IP プレフィックス ビットを含む)、VPN Routing/Forwarding Instance(VRF; VPN ルーティング/転送インスタンス)、URL Web アドレスなどが設定できます。
Cisco IP SLA はレイヤ 2 転送に依存していないので、異なるネットワーク間にエンドツーエンド動作を設定してエンド ユーザが経験しそうなメトリックを最大限に反映させることができます。IP SLA は、次のような一意のパフォーマンス メトリックのサブセットを収集します。
• 遅延(往復および一方向)
• ジッタ(方向性あり)
• パケット損失(方向性あり)
• パケット シーケンス(パケット順序)
• パス(ホップ単位)
• 接続(方向性あり)
• サーバまたは Web サイトのダウンロード時間
Cisco IP SLA は SNMP によるアクセスが可能なので、Cisco Works Internetwork Performance Monitor(IPM)やサードパーティ製パフォーマンス管理製品などの Performance Monitoring(PM; パフォーマンス モニタリング)アプリケーションでも使用できます。Cisco IOS IP SLA を使用するネットワーク管理製品については、次の URL を参照してください。
http://www.cisco.com/go/ipsla
IP SLA を使用すると次のような利点があります。
• SLA モニタリング、評価、検証。
• ネットワーク パフォーマンス モニタリング。
– ネットワーク内のジッタ、遅延、パケット損失が測定できる。
– 連続的で信頼性のある確実な評価ができる。
• IP サービス ネットワーク ヘルス アセスメントにより、既存の QoS が新しい IP サービスに適していることを確認できる。
• 端末間のネットワーク アベイラビリティをモニタリングして、ネットワーク リソースをあらかじめ検証し接続をテストできる(たとえば、ビジネス上の重要なデータを保存する NFS サーバのネットワーク アベイラビリティをリモート サイトから確認できる)。
• 信頼性の高い評価を連続的に行ってネットワーク動作のトラブルシューティングを行うので、問題をすぐに特定しトラブルシューティングにかかる時間を短縮できる。
• マルチプロトコル ラベル スイッチング(MPLS)パフォーマンス モニタリングとネットワークの検証を行う(MPLS をサポートするスイッチの場合)。
ここでは、IP SLA 機能について説明します。
• 「Cisco IOS IP SLA によるネットワーク パフォーマンスの測定」
• 「IP SLA Responder と IP SLA コントロール プロトコル」
• 「IP SLA の応答時間の計算」
Cisco IOS IP SLA によるネットワーク パフォーマンスの測定
IP SLA を使用して、プローブを物理的に配置せずに、コア、分散、エッジといったネットワーク内の任意のエリア間のパフォーマンスをモニタリングすることができます。2 つのネットワーク デバイス間のネットワーク パフォーマンスは、生成トラフィックで測定します。図 33-1 に、送信元デバイスが宛先デバイスに生成パケットを送信するときに IP SLA が開始される手順を示します。宛先デバイスがパケットを受信すると、IP SLA 動作の種類によって、送信元のタイム スタンプ情報に応じてパフォーマンス メトリックを算出します。IP SLA 動作は、特定のプロトコル(UDP など)を使用してネットワークの送信元から宛先へのネットワーク測定を行います。
図 33-1 Cisco IOS IP SLA 動作
IP SLA ネットワーク パフォーマンス測定を実施する手順は次のとおりです。
1. 必要であれば、IP SLA Responder をイネーブルにします。
2. 必要な IP SLA 動作タイプを設定します。
3. 指定された動作タイプのオプションを設定します。
4. 必要であれば、しきい値条件を設定します。
5. 動作の実行スケジュールを指定し、しばらく動作を実行して統計情報を収集します。
6. Cisco IOS CLI を使用するか Network Management System(NMS; ネットワーク管理システム)と SNMP を併用して、動作の結果を表示し確認します。
IP SLA 動作の詳細については、次の URL にある『 Cisco IOS IP SLAs Configuration Guide 』の動作についての章を参照してください。
http://www.cisco.com/en/US/docs/ios/ipsla/configuration/guide/12_4t/sla_12_4t_book.html
(注) スイッチでは、ゲートキーパー登録遅延動作測定を使用する Voice over IP(VoIP)サービス レベルをサポートしません。IP SLA アプリケーションを設定する前に、show ip sla application 特権 EXEC コマンドを使用してソフトウェア イメージで動作タイプがサポートされていることを確認してください。
IP SLA Responder と IP SLA コントロール プロトコル
IP SLA Responder は宛先シスコ デバイスに組み込まれたコンポーネントで、システムが IP SLA 要求パケットを予想して応答します。Responder は専用プローブなしで正確な測定を行います。Responder は、受信および応答するポートが通知されるメカニズムを Cisco IOS IP SLA コントロール プロトコルを通じて実現します。Cisco IOS デバイスだけが宛先 IP SLA Responder の送信元になります。
(注) IP SLA 応答側には、LAN Base イメージを実行する Catalyst 2960 スイッチまたは IE3000 スイッチ、あるいは IP Base イメージを実行する Catalyst 3560 スイッチまたは 3750 スイッチのような Cisco IOS レイヤ 2 の応答側に設定可能なスイッチを使用できます。Responder は、IP SLA 機能を全面的にサポートする必要はありません。
図 33-1 に、IP ネットワーク内での Cisco IOS IP SLA Responder の配置場所を示します。Responder は、IP SLA 動作から送信されたコントロール プロトコル メッセージを指定されたポートで受信します。コントロール メッセージを受信したら、指定された UDP または TCP ポートを指定された時間だけイネーブルにします。この間に、Responder は要求を受け付け、応答します。Responder は、IP SLA パケットに応答した後または指定の時間が経過したらポートをディセーブルにします。セキュリティの向上のために、コントロール メッセージでは MD5 認証が利用できます。
すべての IP SLA 動作に対して宛先デバイスの Responder をイネーブルにする必要はありません。たとえば、宛先ルータが提供しているサービス(Telnet や HTTP など)は Responder では必要ありません。他社製のデバイスに IP SLA Responder を設定することはできません。また、Cisco IOS IP SLA はこれらのデバイス固有のサービスに対してだけ動作パケットを送信できます。
IP SLA の応答時間の計算
スイッチとルータは、他のハイ プライオリティ プロセスがあるために、着信パケットの処理に数十ミリ秒かかることがあります。この遅延により応答時間が影響を受けます。テストパケットの応答が処理待ちのキューに入っていることもあるからです。この場合、応答時間は正しいネットワーク遅延を反映しません。IP SLA はソース デバイスとターゲット デバイス(Responder が使用されている場合)の処理遅延を最小化し、正しい Round-Trip Time(RTT; ラウンドトリップ時間)を識別します。IP SLA テスト パケットは、タイム スタンプによって処理遅延を最小化します。
IP SLA Responder がイネーブルの場合、パケットが割り込みレベルでインターフェイスに着信したときおよびパケットが出て行くときにターゲット デバイスでタイム スタンプを付け、処理時間は含めません。タイム スタンプはサブミリ秒単位で構成されます。
図 33-2 に、Responder の動作を示します。RTT を算出するためのタイム スタンプが 4 つ付けられます。ターゲット ルータで Responder 機能がイネーブルの場合、タイム スタンプ 3(TS3)からタイム スタンプ 2(TS2)を引いてテスト パケットの処理にかかった時間を求め、デルタ(Δ)で表します。次に全体の RTT からこのデルタの値を引きます。IP SLA により、この方法はソース ルータにも適用されます。その場合、着信タイム スタンプ 4(TS4)が割り込みレベルで付けられ、より正確な結果を得ることができます。
図 33-2 Cisco IOS IP SLA Responder タイム スタンプ
この他にも、ターゲット デバイスに 2 つのタイム スタンプがあれば一方向遅延、ジッタ、方向性を持つパケット損失がトラッキングできるという利点があります。大半のネットワーク動作は非同期なので、このような統計情報があるのは問題です。ただし一方向遅延測定を取り込むには、ソース ルータとターゲット ルータの両方に Network Time Protocol(NTP; ネットワーク タイム プロトコル)を設定し、両方のルータを同じくロック ソースに同期させる必要があります。一方向ジッタ測定にはクロック同期は不要です。
IP SLA 動作の設定
ここでは、利用可能なすべての動作の設定情報について説明されているわけではありません。設定情報の詳細については『 Cisco IOS IP SLAs Configuration Guide 』を参照してください。スイッチには応答側のサポートだけが含まれているため、この内容に含まれるのは応答側の設定手順だけです。
他の動作の設定の詳細については、次の URL の『 Cisco IOS IP SLAs Configuration Guide 』を参照してください。
http://www.cisco.com/en/US/docs/ios/ipsla/configuration/guide/12_4t/sla_12_4t_book.html
ここでは、次の情報について説明します。
• 「デフォルト設定」
• 「設定時の注意事項」
• 「IP SLA Responder の設定」
デフォルト設定
IP SLA 動作は設定されていません。
IP SLA Responder の設定
IP SLA 応答側は、LAN Base イメージを実行している Catalyst 2960 スイッチ、Cisco ME 2400 スイッチ、または IE 3000 スイッチのような、レイヤ 2 スイッチを含む Cisco IOS ソフトウェアベース デバイスだけで利用可能です。レイヤ 2 スイッチは IP SLA 機能をすべてサポートしているわけではありません。特権 EXEC モードで、ターゲット デバイス(動作ターゲット)に IP SLA Responder を設定する手順は次のとおりです。
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ステップ 1 |
configure terminal |
グローバル コンフィギュレーション モードを開始します。 |
ステップ 2 |
ip sla responder { tcp-connect | udp-echo } ipaddress ip-address port port-number |
スイッチを IP SlA Responder に設定します。 オプションのキーワードの意味は次のとおりです。 • tcp-connect :Responder の TCP 接続動作をイネーブルにします。 • udp-echo :Responder のユーザ データグラム プロトコル(UDP)エコー動作またはジッタ動作をイネーブルにします。 • ipaddress ip-address :宛先 IP アドレスを入力します。 • port port-number :宛先ポート番号を入力します。 (注) IP アドレスとポート番号は、IP SLA 動作のソース デバイスに設定した IP アドレスおよびポート番号と一致している必要があります。 |
ステップ 3 |
end |
特権 EXEC モードに戻ります。 |
ステップ 4 |
show ip sla responder |
デバイスの IP SLA Responder 設定を確認します。 |
ステップ 5 |
copy running-config startup-config |
(任意)コンフィギュレーション ファイルに設定を保存します。 |
IP SLA Responder をディセーブルにするには、 no ip sla responder グローバル コンフィギュレーション コマンドを入力します。次に、デバイスを UDP ジッタ IP SLA 動作の Responder に設定する例を示します。UDP ジッタ IP SLA 動作については次の項で説明します。
Switch(config)# ip sla responder udp-echo 172.29.139.134 5000
(注) IP SLA Responder が機能するためには、Catalyst 3750 スイッチまたは Catalyst 3560 スイッチのような、IP サービス イメージを実行して IP SLA をすべてサポートしている送信元デバイスを設定する必要があります。送信元デバイスの設定情報については、マニュアルを参照してください。