― 大学卒業後、サラリーマンのご経験がある筒井さんですが、現代のサラリーマンをご覧になってどのような印象をお持ちですか?
ボクの中にはサラリーマンに対する憧れのようなものがあるんですよ。今は役者の仕事が多くて生活が不規則になることもありますが、それ以外では小説を書く時間も決めていますし、毎日の生活リズムはかなりきっちりしているほうです。
不況に弱いのはサラリーマンも作家も同じ。特に文芸が売れなくなった最近はその傾向が顕著で、賞を獲って会社を辞めてしまった若い作家たちの中には、苦労している人も多いだろうと思いますよ。そんな世の中ですから、今、目の前に自分がやるべき仕事があるということは、それだけでありがたいことだと捉えるべきじゃないでしょうか。
サラリーマンの人は、定年になったり職を失ったりしたら、好きなことをやりたいだけやれる、それからがオレの時間だ、と考えるようにすればいいんじゃないかな。そのためには、本当に好きなことを別に持っていたほうがいい。それと新たな職のためにも身辺に人脈を培っておくべきでしょうね。
― 筒井さんの才能に憧れるファンは大勢いると思うのですが、ツツイヤスタカはどうしてそんなに天才なんでしょうか?
うーん (笑) 。人間って、イヤなことがあると、それをどうしても忘れられなかったり、あるときふとそれを思い出してすごく落ち込んだりすることがあるでしょう? ボクは基本的にはやりたいことをやってきた人間だと思いますが、実は楽しかったことってほとんど覚えていないんですよ。だけど、イヤなことだけだけは全部、きっちり覚えている (笑) 。いや、これはマジメな話ですよ。その、思い出すだけでカーッとくるようなイヤな記憶、クッタクが、ボクの書くことに対する原動力になっているような気がするんですね。小説家に限らず、人間誰しも、そういう部分は絶対に持っていなければいけないように思います。