イノベーションを活性化させるアウトタスキング 【前編】「コア」と「コンテキスト」の考え方を適用して、資源をうまく活用する |
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アウトソーシングの現状この記事では、アウトソーシングとアウトタスキングをわかりやすく説明するために、企業内の「IT」を例に取ります。ここで言う「IT」には、社内で使用しているハードウェア、ソフトウェア、ネットワークインフラ、そして保守などのサービス、さらにはそれらによって処理されている業務プロセスの一部を含みます。 日本では、80年代半ばからアウトソーシングが活発になり、現在では、ありとあらゆる業務分野のアウトソーシングビジネスが確立しています。アウトソーシング事業者を検索できるサイトにアクセスしてみると、「営業」や「経営」のアウトソーシングすら可能になっていることがわかります。そのなかで、IT関連のアウトソーシングを見ると、大きくは、次の3つに分かれます。 (1) サーバー、ストレージ、ネットワークなどハードウェアやインフラの所有・維持管理を外部化するもの (2) IT部門の一部ないしほとんどを、アウトソーシング受託事業者と新たに設立した合弁子会社に移行させるもの (3) コールセンター、ヘルプデスク、人事関連など、特定の業務プロセスを外部化するもの (1)~(2)は「IT部門自体のアウトソーシング」で、狭義のITアウトソーシングです。IDCジャパンの調査によると、狭義のITアウトソーシングを利用している企業の割合は全体の約3割(サンプル件数3,262社、2005年1月発表)。大企業ほど活発に活用しており、従業員5,000人以上では3年以上にわたって利用している企業が61.9%に上ります。 (3)はビジネスプロセスアウトソーシング(BPO)とも呼ばれ、ITアウトソーシングとは異なる市場を形作っています。BPOの典型は、米英企業がコールセンター業務を賃金の安い英語圏の国々にアウトソーシングする形態です。 最近刊行されたトーマス・フリードマン著「フラット化する世界」でも、インドの企業にBPOを行う様々な例が報告されていました。IDCジャパンが2004年9月に発表したところによれば国内でもBPO市場が成長しており、2008年までに年平均8.8%の成長により1兆円以上の市場になると予測されています。 (1)~(2)のITアウトソーシングと(3)のBPOは、いずれも「ITが密接に関わるアウトソーシング」であるので、本稿では一括りに「IT関連アウトソーシング」として話を進めます。 IT関連アウトソーシングが企業に浸透しているのは、言うまでもなく、それによってコスト削減メリットが得られるからです。多くの企業は、10~20%のコスト削減が見込めるのであればIT関連アウトソーシングに着手します。 わが国では、2000年前後から、大規模なアウトソーシングスキームが見られるようになりました。顧客企業と大手アウトソーシング受託企業との間で合弁子会社を設立し、IT部門の人員や資産のほとんどを移した上で、その合弁子会社に対してIT業務をアウトソーシングする形態が典型です。当時はまだ不況下であったため、今後も大きな成長が見込めないと判断した大手企業がこの手法を相次いで採用しました。この手法では、7~10年にわたってアウトソーシングを続けるなかで段階的にコスト削減を実現し、最終的には現状の20%程度の削減まで持っていくのが通例です。 既存のITアウトソーシングにはいくつかの問題がある歴史的な見方をすると、こうしたIT関連アウトソーシングもまだまだ発展途上の段階にあり、委託者と受託者の双方が試行錯誤しなければならない部分が数多く残っていると考えられます。その証拠に、関係者の間からは、「ITアウトソーシングの現状に満足していない」、「成功しているとは言えない」とする声が上がっています。 シスコシステムズが2004年2~3月に行った調査では、調査対象(日本企業のITエンジニア1,000名)の25.1%が現状のアウトソーシングサービスに不満を表明しています。不満の理由は、以下の表1に掲げる通りです。 表1 ITアウトソーシングに対する不満の理由
また、近年のIT専門誌で報告されているITアウトソーシング案件の失敗事例では、表1と同じ理由に加えて、以下のようなパターンがあることが指摘されています(日経コンピュータ、日経情報ストラテジーなどによる)。
安易にアウトソーシングを行ってしまうと、予期に反したこのような結果が出ることがあります。このことから学ぶべきは、次の点です。 第一に、アウトソーシングをコスト削減の観点からのみ考えると、アウトソーシング対象になっている経営資源が潜在させている「価値」を見失うことになりかねません。その経営資源が持っているコスト削減余地と、価値向上の潜在力の双方を冷静に比較検討しなければなりません。 第二に、単純なアウトソーシング(いわば丸投げのアウトソーシング)には、デメリットが出やすいということです。単純なアウトソーシングには、顧客企業が意思決定できるポイントは「契約を結ぶか否か」の部分しかありません。その後、様々な好機が巡ってきても、新たな意思決定を駆使して企業価値を向上させていくことは、一切できないのです。 第三に、アウトソーシングに何らかのコントロールをかけなければならないということです。アウトソーシング実施後のサービス内容に常時モニタリングをかけ、サービス品質が劣るようであれば改善を命じられる枠組みを残しておくことは当然です。また、アウトソーシングを行う以前に、「どうすれば効果的なコントロールが可能になるか」を考える、つまり、アウトソーシングの中身そのものにもコントロールをかけることも重要になります。 第四に、アウトソーシング受託企業の側にもインセンティブを与えなければならないということです。ほとんどのアウトソーシング案件では、受託企業側に「成約にこぎつける」インセンティブは働きますが、成約後に「サービス内容を改善する」インセンティブは働きません。すなわち、中長期の契約のなかで、自然と怠慢なサービス姿勢が生まれることになります。これは、アウトソーシング受託企業側だけの非と言うよりも、そのような姿勢を生む契約スキームにしてしまった委託企業側の落ち度もあると言えます。 第五に、アウトソーシングがただ一度きりのものであってはならないということです。Plan-Do-Check-Actionの改善サイクルを採り入れ、場合によってはアウトソーシングを追加発注する、あるいは一度外部化した業務を内部に戻すといった、機動的な意思決定を駆使するものでなければなりません。 |
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