イノベーションを活性化させるアウトタスキング 【後編】「コア」と「コンテキスト」の考え方を適用して、資源をうまく活用する |
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アウトタスキングの実例多方面で使われる事例のなかでも、アウトタスキングの原理がよく表れている 2 つの日本を代表する企業、NTTドコモとセブン-イレブンの取組みを見てみます。 iモード事業における NTT ドコモの成功事例NTTドコモにとって、iモード事業は紛れもなくコアに位置づけられます。同社の企業価値の源泉であり、顧客が同社の携帯電話サービスを選択する際の決定的な差別化点になっています。しかし、iモード事業がコアであっても、iモード対応携帯電話機を設計・製造することは同社にとってコンテキストに当ります。他社が行った方がうまく行くのは、明らかです。 ただ、iモード対応携帯電話機の設計・製造を手放しで他社に委ねてしまったのでは、競合企業を凌駕する製品にならない可能性があります。単なる「インターネットにアクセスできる携帯電話」では、すぐに陳腐化してしまうでしょう。 NTTドコモの競争優位を携帯電話機というハードにおいても実現するためには、技術仕様の策定において同社がイニシアチブをとり、NTTドコモらしさを反映させた仕様にまとめあげ、メーカーを率いていく必要があります。そのようなアウトタスキングを過去数年にわたって行ってきたのがNTTドコモだと考えることができます。 同社は一連のハードウェア・バージョンアップにより、Java、赤外線インターフェース、外部メモリスロット、一次元バーコード表示が可能な高精細ディスプレイ、高解像度デジカメ、二次元バーコード読取り機能、そして非接触ICカードユニット、決済機能などを付加し、その都度、ユーザーの利用場面や利便性を拡大してきました。 しかし、その機能を具体的に支えてきたのは、同社に携帯電話機を供給し続けてきた複数の電子機器メーカーに他なりません。NTTドコモは、「コントロールの効いたアウトソーシング」、すなわちアウトタスキング戦略によって、それら複数メーカーの潜在力をうまく引き出し、活用してきたと考えることができます。 NTTドコモのアウトタスキング戦略が優れているのは、技術仕様の中にメーカーが遵守すべき標準の部分と、個々のメーカーの自由な工夫に委ねられる部分とが組み合わされていることです。それによって各社が競い合って開発を行う図式が生まれました。そうした競争がなければ、日本の携帯電話のハードがこれほどまでに発展することはなかったかも知れません。 アウトタスキング戦略では、アウトタスキング先とWin-Winの関係を作り上げるのが重要であり、しかも、複数のアウトタスキング先が互いに切磋琢磨する図式があることが望ましいと言えます。 セブン-イレブンの新製品開発に学ぶ成功事例もう1つの事例は、セブン-イレブンにおける新製品開発です。 セブン-イレブンは、自社のコアを戦略的に定義し、活性化させている数少ない企業の1つだと言えます。同社のコアは、個々のフランチャイジーの売上が最大化するように、本部として取り組める課題を詳細に検討し、1つひとつを確実に解決し、さらに連綿と改善を加えていくことです。その結果として、個店の売上が最大化し、粗利益率が向上し、競合企業を大きく上回る業績が実現しています。 CEOの鈴木敏文氏はあるインタビューで、チェーンの企画運営や商品開発に関して、「物まねは絶対にしない」と語っています。これはコアに取組むにあたって、前例のないもの、すなわち、イノベーションを最重要視しているということを示しています。 その具体的なアプローチが見てとれるのが、同社の商品開発です。同社の場合、全国1万800の店舗網で特定のおにぎり品目を10億個(年間、以下同)、幕の内弁当を4億4,000万食も販売しています。このように天文学的な数の販売が関わっている以上、少しの妥協も許されません。 報道によると、新規メニューを開発する際には、具材の構成、質、量、味付などが細かく指定され、複数の企業に試作品の提示が要請され、そこから1社が選ばれるとのことです。1社に絞り込んだ後も数限りない改良を加えて、商品化に至るのだそうです。例えば、チャーハンの開発には1年半をかけたと報じられています(週刊ダイヤモンド、2004年2月14日号)。 このようなコアへの集中を可能にするのが、コアとコンテキストを明確に切り分けた上で、コンテキストについてはそれを得意とする企業に任せる、ただし、自らが納得するまでコントロールをかけるという姿勢です。仮に、セブン-イレブンが、おにぎりや弁当、さらには同社で販売するオリジナル商品の数々を自社の経営資源で製造していたとしたら、業務のコアが分散してしまい、とても現在のような群を抜く業績には至らなかったかも知れません。 自社と受託企業の双方にメリットがあることが重要このような業界トップ企業によるアウトタスキング戦略が興味深いのは、アウトタスキングを委託する企業だけが強くなるのではなく、受託側の企業をも鍛える側面があるということです。 委託側はトップのポジションを死守するため、実行可能なありとあらゆる方策をアウトタスキングの枠組みに組み込みます。それによって、受託側が自社の一部門であるかのように機能するようになります。また、そこでは必ず、Plan-Do-Check-Actionの改善サイクルが回っており、受託側は常に改善に励むことが求められます。その結果として、受託企業もまた、売上、利益率などで業界トップに位置する好業績を収められるようになるという図式が見られます。その図式は、例えば、トヨタとデンソーを初めとするパートナー企業群の間にも認められます。 アウトタスキング戦略は、結果として、受託側にもメリットをもたらす可能性があると言えるでしょう。 |