IP マルチキャスト テクノロジーに関する情報
情報配信における IP マルチキャストの役割
IP マルチキャストは、単一の情報ストリームを何千もの潜在的な企業および家庭に同時に配信することによってトラフィックを削減する帯域幅節約テクノロジーです。マルチキャストを利用するアプリケーションには、ビデオ会議、企業コミュニケーション、通信教育、およびソフトウェア、株価情報、ニュースの配信などが含まれます。
IP マルチキャスト ルーティングにより、ホスト(ソース)は、IP マルチキャスト グループ アドレスと呼ばれる特別な形式の IP アドレスを使用して、IP ネットワーク内の任意の場所にあるホスト(レシーバ)にパケットを送信できます。ソースのホストは、マルチキャスト グループ アドレスをパケットの宛先 IP アドレス フィールドに挿入します。IP マルチキャスト ルータおよびマルチレイヤ スイッチは、受信した IP マルチキャスト パケットを、マルチキャスト グループのメンバにつながるすべてのインターフェイスから転送します。どのホストも、グループのメンバであるかどうかにかかわらず、グループに送信できます。ただし、グループのメンバだけがメッセージを受信します。
IP マルチキャスト ルーティング プロトコル
ソフトウェアでは、IP マルチキャスト ルーティングを実装するため、次のプロトコルがサポートされています。
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IGMP を LAN 上のホストとその LAN上のルータ間で使用して、ホストがメンバーになっているマルチキャストグループを追跡します。
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PIM(Protocol Independent Multicast)は、相互に転送されるマルチキャスト パケット、および直接接続されている LAN に転送されるマルチキャスト パケットを追跡するためにルータ間で使用されます。
次の図に、これらのプロトコルが IP マルチキャスト環境内のどの部分で動作するかを示します。
マルチキャスト グループ伝送方式
IP 通信は、最初の図に示すように、トラフィックの送信者として機能するホストと、レシーバとして機能するホストで構成されます。送信者はソースと呼ばれます。従来の IP 通信は、単一のホスト ソースがパケットを別の単一ホスト(ユニキャスト伝送)またはすべてのホスト(ブロードキャスト伝送)に送信することによって行われます。IP マルチキャストは第三の方式を提供するものであり、ホストはすべてのホストのサブセットにパケットを送信できます(マルチキャスト伝送)。受信側のホストのこのサブセットをマルチキャスト グループと呼びます。マルチキャスト グループに属するホストは、グループ メンバと呼ばれます。
マルチキャストは、このグループの概念に基づいています。マルチキャスト グループは、特定のデータ ストリームを受信するためにグループに加入する任意の数のレシーバです。このマルチキャスト グループには、物理的境界または地理的境界はありません。ホストは、インターネット上または任意のプライベート ネットワーク上のどこにでも配置できます。ソースから特定のグループに対するデータを受信する必要があるホストはそのグループに加入する必要があります。グループに加入するには、ホスト レシーバで Internet Group Management Protocol(IGMP)を使用します。
マルチキャスト環境では、どのホストも、グループのメンバであるかどうかにかかわらず、グループに送信できます。ただし、そのグループに送信されたパケットはグループのメンバだけが受信できます。IP ユニキャスト パケットと同様、マルチキャスト パケットは、ベストエフォート型の信頼性を使用してグループに配信されます。
次の図では、レシーバ(指定したマルチキャスト グループ)がソースからのビデオ データ ストリームを受信する必要があります。これらのレシーバは、ネットワーク内のルータに IGMP ホスト レポートを送信することによってその意思を示します。この場合、ルータがソースからレシーバへのデータの配信を担います。ルータは、Protocol Independent Multicast(PIM)を使用して、マルチキャスト配信ツリーを動的に作成します。その後、ソースとレシーバ間のパスにあるネットワーク セグメントにのみ、ビデオ データ ストリームが配信されます。
IP マルチキャスト境界
図に示すように、アドレス スコーピングは、同じ IP アドレスを持つ RP が含まれるドメインが相互にデータを漏出させることのないように、ドメイン境界を定義します。スコーピングは、大きなドメイン内のサブネット境界や、ドメインとインターネットの間の境界で実行されます。
マルチキャスト グループ アドレッシングのインターフェイスに管理スコープの境界を設定するには、ip multicast boundary コマンドと access-list 引数を使用します。影響を受けるアドレス範囲は、標準アクセス リストによって定義されます。境界が設定されると、マルチキャスト データ パケットは境界を越えて出入りできなくなります。境界を定めることで、同じマルチキャスト グループ アドレスをさまざまな管理ドメイン内で使用できます。
Internet Assigned Numbers Authority(IANA)は、マルチキャスト アドレス範囲 239.0.0.0 ~ 239.255.255.255 を管理スコープ アドレスとして指定しています。この範囲のアドレスは、さまざまな組織で管理されるドメイン内で再使用されます。これらは、グローバルに一意ではなくローカルとみなされます。
filter-autorp キーワードを設定して、管理用スコープの境界で Auto-RP 検出と通知メッセージを検査し、フィルタできます。境界のアクセス コントロール リスト(ACL)に拒否された Auto-RP パケットからの Auto-RP グループ範囲通知は削除されます。Auto-RP グループ範囲通知は、Auto-RP グループ範囲のすべてのアドレスが境界 ACL によって許可される場合に限り境界を通過できます。許可されないアドレスがある場合は、グループ範囲全体がフィルタリングされ、Auto-RP メッセージが転送される前に Auto-RP メッセージから削除されます。
IP マルチキャスト グループ アドレッシング
マルチキャスト グループは、マルチキャスト グループ アドレスによって識別されます。マルチキャスト パケットは、そのマルチキャスト グループ アドレスに配信されます。単一のホストを独自に識別するユニキャスト アドレスとは異なり、マルチキャスト IP アドレスは特定のホストを識別しません。マルチキャスト アドレスに送信されるデータを受信するには、アドレスが識別するグループにホストが参加する必要があります。データは、マルチキャスト アドレスに送信され、そのグループに送信されたトラフィックを受信する意思を示してグループに加入しているすべてのホストによって受信されます。マルチキャスト グループ アドレスは、送信元でグループに割り当てられます。マルチキャスト グループ アドレスを割り当てるネットワーク管理者は、Internet Assigned Numbers Authority(IANA)で予約されるマルチキャスト アドレスの範囲にアドレスが準拠していることを確認する必要があります。
IP クラス D アドレス
IP マルチキャスト アドレスは、IANA によって IPv4 クラス D アドレス空間に割り当てられました。クラス D アドレスの上位 4 ビットは 1110 です。したがって、ホスト グループ アドレスの範囲は 224.0.0.0 ~ 239.255.255.255 であると考えられます。マルチキャスト アドレスは送信元(送信者)でマルチキャスト グループの受信先として選択されます。
(注) |
クラス D アドレスの範囲は、IP マルチキャスト トラフィックのグループ アドレスまたは宛先アドレスにだけ使用されます。マルチキャスト データグラムの送信元アドレスは常にユニキャスト送信元アドレスになります。 |
IP マルチキャスト アドレスのスコーピング
さまざまなアドレス範囲の予測可能な動作を提供したり、より小規模なドメイン内でアドレスを再利用したりできるよう、マルチキャスト アドレスの範囲はさらに分割されます。表に、マルチキャスト アドレスの範囲を要約します。それに続いて、各範囲について簡単に説明します。
名前 |
範囲 |
説明 |
---|---|---|
予約済みリンクローカル アドレス |
224.0.0.0 ~ 224.0.0.255 |
ローカル ネットワーク セグメントのネットワーク プロトコルで使用するために予約されています。 |
グローバル スコープ アドレス |
224.0.1.0 ~ 238.255.255.255 |
組織間およびインターネット上でマルチキャスト データを送信するために予約されています。 |
Source Specific Multicast |
232.0.0.0 ~ 232.255.255.255 |
明示的にグループに参加している受信者だけにデータを転送する SSM データグラム配信モデル用に予約されています。 |
GLOP アドレス |
233.0.0.0 ~ 233.255.255.255 |
割り当て済みの自律システム(AS)ドメイン番号をすでに持つ組織によって静的に定義されるアドレス用に予約されています。 |
限定スコープ アドレス |
239.0.0.0 ~ 239.255.255.255 |
管理スコープ アドレスまたはプライベート マルチキャスト ドメインで使用するための限定スコープ アドレスとして予約されています。 |
予約済みリンクローカル アドレス
IANA では、ローカル ネットワーク セグメントのネットワーク プロトコルで使用するために 224.0.0.0 ~ 224.0.0.255 の範囲を予約しています。この範囲のアドレスを持つパケットはスコープ内ローカルであり、IP ルータによって転送されません。通常、リンク ローカル宛先アドレスを持つパケットは存続可能時間(TTL)値 1 を使用して送信されるため、ルータによって転送されません。
この範囲内の予約済みリンクローカル アドレスは、それぞれに予約されたネットワーク プロトコル機能を提供します。ネットワーク プロトコルは、これらのアドレスをルータの自動検出および重要なルーティング情報の伝達用に使用します。たとえば、Open Shortest Path First(OSPF)は、IP アドレスの 224.0.0.5 と 224.0.0.6 を使用してリンクステート情報を交換します。
IANA では、ネットワーク プロトコルやネットワーク アプリケーションに対する単一マルチキャスト アドレス要求を 224.0.1.xxx のアドレス範囲外に割り当てています。マルチキャスト ルータはこれらのマルチキャスト アドレスを転送します。
(注) |
ASR 903 RSP2 モジュールでは、デフォルトにより、予約済みのリンクローカル アドレスを持つすべてのパケットが CPU にパントされます。 |
グローバル スコープ アドレス
224.0.1.0 ~ 238.255.255.255 の範囲のアドレスは、グローバル スコープ アドレスと呼ばれます。これらのアドレスは、組織間およびインターネット上でのマルチキャスト データの送信に使用します。これらのアドレスの一部はマルチキャスト アプリケーションで使用するよう IANA によって予約されています。たとえば、IPアドレス 224.0.1.1 は、Network Time Protocol(NTP)用に予約されています。
Source Specific Multicast アドレス
232.0.0.0/8 のアドレス範囲は、Source Specific Multicast(SSM)用に予約されています。Cisco IOS ソフトウェアでは、ip pim ssm コマンドを使用して任意の IP マルチキャストアドレス用の SSM も設定できます。SSM は、1 対多通信での効率的なデータ配信メカニズムを可能にする Protocol Independent Multicast(PIM)の拡張版です。SSM については、IP マルチキャスト配信モードの項を参照してください。
GLOP アドレス
GLOP アドレッシングでは(233/8 の RFC 2770、GLOP アドレッシングで提案されているように)、AS 番号をすでに予約している組織による静的に定義されたアドレス用に 233.0.0.0/8 の範囲を予約することを提案しています。これは、GLOP アドレッシングと呼ばれます。ドメインの AS 番号は 233.0.0.0/8 アドレス範囲の 2 番目と 3 番目のオクテットに組み込まれます。たとえば、AS 62010 は 16 進数形式で F23A と表されます。この 2 つのオクテット F2 および 3A を分割すると、結果は 10 進数でそれぞれ 242 および 58 となります。これらの値は、AS 62010 に使用するようにグローバルに予約される 233.242.58.0/24 のサブネットとなります。
限定スコープ アドレス
239.0.0.0 ~ 239.255.255.255 の範囲は、管理スコープ アドレス、またはプライベート マルチキャスト ドメインで使用する限定スコープ アドレスとして予約されています。これらのアドレスは、ローカル グループまたは組織に使用するように制限されています。会社、大学および他の組織は、限定スコープ アドレスを使用すると、ドメイン外に転送されないローカル マルチキャスト アプリケーションを使用できます。通常、ルータは、このアドレス範囲のマルチキャスト トラフィックが自律システム(AS)またはユーザー定義のドメイン外にフローしないようにするフィルタを使用して設定されます。AS またはドメイン内では、ローカル マルチキャスト境界を定義できるように、限定スコープ アドレス範囲を細分化することもできます。
(注) |
ネットワーク管理者はこの範囲内のマルチキャスト アドレスを使用できます。これによって、インターネット内の他の場所と競合することはありません。 |
レイヤ 2 マルチキャスト アドレス
従来、LAN セグメントのネットワーク インターフェイス カード(NIC)が受信できるのは、Burned-In MAC Address またはブロードキャスト MAC アドレスに指定されたパケットだけでした。IP マルチキャストでは、複数のホストが共通の宛先 MAC アドレスを使用した単一のデータ ストリームを受信する必要があります。複数のホストが同じパケットを受信する場合、複数のマルチキャスト グループを区別できるように、何らかの方法を考案する必要があります。そのための 1 つの方法は、IP マルチキャスト クラス D アドレスを MAC アドレスに直接マッピングすることです。この方法を使用すると、NIC は多くの異なる MAC アドレスを宛先とするパケットを受信できます。
Cisco グループ管理プロトコル(CGMP)は、IGMP によって実行される作業と同様の作業を実行するために、Catalyst スイッチに接続されたルータ上で使用されます。IP マルチキャスト データ パケットと IGMP レポート メッセージ(いずれも MAC レベルで同じグループ アドレスにアドレス指定されます)を区別できない Catalyst スイッチの場合、CGMP が必要になります。
IP マルチキャスト配信モード
IP マルチキャスト配信のモードは、送信元ホストではなく、受信側ホストのみによって異なります。送信元ホストは、パケットの IP 送信元アドレスとしての固有の IP アドレスと、パケットの IP 宛先アドレスとしてのグループ アドレスを使用して、IP マルチキャスト パケットを送信します。
Source Specific Multicast
Source Specific Multicast(SSM)は、ブロードキャスト アプリケーションとしても知られる 1 対多アプリケーションをサポートする最善のデータグラム配信モデルです。SSM は、オーディオおよびビデオのブロードキャスト アプリケーション環境を対象としたシスコの IP マルチキャストのコア ネットワーク テクノロジーです。
SSM 配信モードの場合、IP マルチキャスト レシーバ ホストは IGMP バージョン3(IGMPv3)を使用してチャネル(S, G)を登録する必要があります。このチャネルに登録することによって、ソース ホストがグループ G に送信した IP マルチキャスト トラフィックの受信をレシーバ ホストが要求していることを示します。ネットワークは、ソース ホスト S からグループ G に送信された IP マルチキャスト パケットを、チャネル (S, G) に登録したネットワーク内のすべてのホストに配信します。
SSM では、ネットワーク内でグループ アドレスを割り当てる必要はありません。各ソース ホスト内で割り当てるだけです。同じソース ホストで実行している各アプリケーションはそれぞれ異なる SSM グループを使用する必要があります。異なるソース ホストで実行しているアプリケーションは、SSM グループ アドレスを再利用できます。ネットワークに大量のトラフィックを発生させることはありません。