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この章では、IP テレフォニー ネットワークのサービス品質(QoS)の保持と QoS に関連する概念および問題について説明します。
音声品質は、次の 2 つの主要な要因によって直接的な影響を受けます。
パケット喪失があると、音声にクリッピングやスキップが発生します。 Cisco DSP(デジタル信号プロセッサ)で使用される業界標準のコーデック アルゴリズムでは、喪失音声が 30 ms 以内であれば補正されます。 Cisco Voice over IP(VoIP)テクノロジでは、VoIP パケットあたり 20 ms サンプルの音声ペイロードを使用します。 したがって、コーデック補正アルゴリズムで補正されるには、許される喪失パケットは、ある一時点では 1 パケットです。
パケット遅延は、エンドツーエンド間のボイス遅延による音声品質の劣化原因となり、または遅延が変動する場合はパケット喪失の原因となります。 エンドツーエンド間のボイス遅延が長くなる(たとえば 250 ms)と、電話での会話は、CB ラジオで 2 人が同時に話しているように聞こえてきます。 遅延が変動すると、受信側でジッタ バッファのオーバーランが発生することがあります。 IP ネットワークを介してファクシミリやモデム トラフィックが含まれている場合は特に、パケットのドロップや遅延をなくすることは重要なことです。 ファクシミリまたはモデム送信中にパケットが喪失すると、モデムによって、再度同期するよう強制的に「リトレーニング」が行われます。 パケット喪失やパケット遅延がどのようにして発生するかその原因を検証することにより、サービス品質(QoS)が企業ネットワークのすべての領域において必要な理由が理解されます。
音声パケットのドロップは、ネットワーク品質が低い場合、ネットワークが輻輳している場合、またはネットワーク内で極端な変動遅延が発生しているときに発生します。 ネットワーク品質が低いと、物理的または論理的な接続が切断されるために、セッションが頻繁に使用できなくなることがあります。 VoIP の設計および実装では、物理的および論理的ネットワークが定着した設計方法論に従っており、極めて安定していることを前提としているため、本書では、ネットワーク品質については説明しません。
ネットワークに輻輳があるときは、パケット ドロップや間隔が不定のパケット遅延が同時に発生する傾向があります。 ネットワーク輻輳により発生する音声パケット ドロップは、通常、ネットワークの出口になっているどこかのインターフェイスに接続しているトランスミット バッファがどれも満杯であることが原因となって発生します。 リンクまたは接続の使用率が 100% に近づくと、それらの接続にサービスしているバッファ キューは満杯になります。 キューが満杯になると、キューに入ろうとする新しいパケットは廃棄されてしまいます。 このような現象は、サービス プロバイダのフレーム リレー ネットワークでよく発生するように、キャンパス イーサネット スイッチ上でも発生します。
ネットワーク輻輳は、通常、散発的に発生するため、輻輳による遅延幅は、本質的に変動する傾向があります。 出口インターフェイス キュー待ち時間または大幅なシリアライゼーション遅延があると、このタイプの変動遅延が発生します。 これら 2 つの要因については、次の項「遅延とジッタ」で説明します。
遅延とは、パケットが、送信側エンドポイントから伝送されてから、受信側エンドポイントに達するまでに要する時間のことです。 この所要時間は、「エンドツーエンド遅延」という用語で呼ばれています。この遅延は、次の 2 つの要素が関係しています。 固定ネットワーク遅延と変動ネットワーク遅延です。 ジッタとは、特定の音声フロー内で 2 つの音声パケットが要するエンドツーエンド遅延の合計値におけるデルタ、つまり 2 者の遅延値の差を意味します。
固定ネットワーク遅延は、VoIP ネットワークの初期設計時に検討しておく必要があります。 国際電気通信連合(ITU)標準 G.114 では、高品質音声では 150 ms の単方向遅延バジェットが許容であるとしています。 シスコの調査では、200 ms 遅延バジェットで構築されているネットワークを使用した音声品質の比較では、ごくわずかな差だけであることが判明しています。 固定ネットワーク遅延の例として、送信側エンドポイントと受信側エンドポイント間の信号の伝搬遅延、音声符号化遅延、および各種 VoIP コーデックの音声パケット化時間があります。 伝搬遅延計算の結果は、約 0.0063 ms/km になります。たとえば、G.729A コーデックには 25 ms 符号化遅延値(2 つの 10 ms フレーム + 5 ms 先読み)とさらに 20 ms のパケット化遅延が含まれます。
ネットワーク インターフェイス上の輻輳出口キュー(Congested egress queues)およびシリアライゼーション遅延は、変動パケット遅延の原因となる可能性があります。 プライオリティまたは低遅延キューイング(LLQ)がなければ、キューイング遅延時間は、リンク使用率が 100% に近づくと、シリアライゼーション遅延時間と等しくなります。 シリアライゼーション遅延は、リンク速度およびパケット サイズの固定関数です。 表 1-1 に示されているとおり、パケットが大きく、リンク クロッキング速度が遅いほど、シリアライゼーション遅延は大きくなります。 これは既知の比率ですが、大きなデータ パケットほど、いつでも音声パケットの前の出口キューに入ることができるため一定にならないと考えられます。 音声パケットがデータ パケットのシリアライゼーションを待機しなければならない場合、音声パケットにより被る遅延は、パケット自体のシリアライゼーション遅延に、その前にあるデータ パケットのシリアライゼーション遅延がプラスされたものになります。第 5 章「ワイドエリア ネットワークの実装」で説明している Cisco Link Fragmentation and Interleave(LFI)テクノロジを使用すると、シリアライゼーション遅延を固定遅延値と見なすことができます。
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ネットワーク輻輳は、ネットワーク内でいつでも発生する可能性があるため、バッファが瞬時に満杯になる可能性があります。 このバッファが満杯になると同一のボイスストリーム内のパケット間で遅延時間の差が生じることがあります。 この差をジッタといい、パケットの到着予想時と実際の受信時との差異を意味します。 会話における音声パケット間のこれらの遅延変動を補うために、VoIP エンドポイントでは、ジッタ バッファを使用して遅延変動を定数値に変え、音声の円滑な再生を行います。
Cisco VoIP エンドポイントでは、図 1-1 に示されている 20 ~ 50 ms の適応ジッタ バッファを実装の DSP アルゴリズムを使用します。 バッファの実際のサイズは、予想される音声パケットのネットワーク遅延に基づき、20 ~ 50 ms の範囲で変化します。 これらのアルゴリズムは、音声パケットのリアルタイム トランスポート プロトコル(RTP)ヘッダーのタイムスタンプを調べ、予想遅延を計算し、それに応じてジッタ バッファ サイズを調整します。 この適応ジッタ バッファの設定時に、10 ms の「余分な」バッファ部分が変動パケット遅延用に設定されます。 たとえば、パケットのストリームがジッタ バッファに入る場合、またそのジッタ バッファの RTP タイムスタンプが 23 ms ネットワーク ジッタが発生したことを示す場合には、受信側 VoIP ジッタ バッファのサイズは、最大 33 ms に決定されます。パケットのジッタが、予想した 23 ms 遅延変動より 10 ms 以上大きくなると(23 + 10 = 33 ms の動的に割り当てられた適応ジッタ バッファ スペース)、パケットはドロップします。
音声品質は、最も能力の低いネットワーク リンクの品質と同等以上にはなりません。 パケット喪失、遅延、および遅延変動はすべて、音声品質の劣化につながります。 また、ネットワーク輻輳(さらに正確に言えば、瞬間的なバッファ輻輳)は、ネットワークのどこでも、いつでも起こりうるため、ネットワーク品質はエンドツーエンド設計の際に問題となります。 このガイドで取り上げられる QoS ツールとは、ネットワーク輻輳時にドロップする音声パケットを減少させることと、ある特定の音声接続で発生する固定遅延と変動遅延の両方を最小限に抑えることによってデータ ネットワークにおける音声品質を高めるためのメカニズムをセットしたものです。
分類ツールにより、パケットまたはトラフィック フローは特定の優先順位でマーキングされます。 このマーキングにより、トラスト境界が設定され、強制的に実行される必要があります。
分類は、通常は、ワイヤリング クローゼット内のネットワーク エッジ、または、IP 電話、つまり音声エンドポイント自体の内部で処理される必要があります。 パケットには、802.1Q ヘッダー中の 802.1p 部分のユーザー プライオリティ ビット(図 1-2 を参照)内のレイヤ 2 サービス クラス(CoS)設定値、または IPv4 ヘッダー(図 1-3 を参照)のタイプ オブ サービス(ToS)バイト内の IP 優先順位/DSCP(差分サービス コード ポイント)を使用することによって、マークを挿入することができます。 そのためにはすべての IP 電話リアルタイム トランスポート プロトコル(RTP)パケットに、レイヤ 2 802.1p 設定値に対して CoS 5、および、レイヤ 3 設定値 5 という IP 優先順位値でタグ付けを行う必要があります。 さらに、すべての制御パケットに、レイヤ 2 CoS 3 値およびレイヤ 3 ToS 3 値でタグ付けを行う必要があります。表 1-2 では、パケット優先順位を指定するための CoS、IP 優先順位、および DSCP 設定値をリストします。
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IP 優先順位を使用してトラフィックにマークを挿入するやり方は、すべての IP デバイスが DSCP をサポートするまでの移行ステップです。 理想としては、将来、すべての Cisco VoIP エンドポイントが RTP 音声ベアラ フローには緊急転送(EF; Expedited Forwarding)の DSCP 値を、VoIP 制御トラフィックには Assured Forwarding 31 (AF31) の DSCP 値を使用するようになることです。
第 2 章「IP 電話の接続」では、長さでの分類について説明します。
キューイング ツールは、ネットワークでの処理が適切に行われるように、パケットまたはフローを分類に基づいていくつかのキューのいずれかに割り当てます。
データ、音声、およびビデオが同じキューに入れられると、パケット喪失および変動遅延は、きわめて発生しやすくなります。 出口インターフェイスで複数のキューを使用し、音声パケットをデータ パケットとは別のキューに入れることにより、ネットワーク動作ははるかに予測可能になります。 キューイングについては、このガイドのどの項でも説明しています。バッファがキャパシティに達する可能性はネットワークのどこでも発生するためです。
シリアライゼーション遅延への対処は、総合的なキューイング ソリューションの一部と見られています。 シリアライゼーション遅延は低速リンク(768 kbps 以下のリンク)に限られる要因であるため、これについては、第5章「ワイドエリア ネットワークの実装」で説明します。
ネットワーク プロビジョニング ツールにより、音声会話、すべてのデータ トラフィック、あらゆる音声アプリケーション、ルーティング プロトコルなどのリンク管理オーバーヘッドに必要な帯域幅が正確に計算されます。
音声を広域ネットワーク(WAN)に流すための帯域幅の必要量を計算する際に重要な事は、すべてのアプリケーション トラフィック(すなわち、音声、ビデオ、およびデータ トラフィックの合計)は、プロビジョニングされている帯域幅の 75% 以下に等しくなるようにすることです。 残りの 25% は、ルーティング プロトコルなどオーバーフローおよび管理オーバーヘッド用に使用されるからです。 VoIP 帯域幅計算、非同期転送モード(ATM)セル オーバーヘッド、およびネットワーク プロビジョニングに必要なその他の詳細については、第5章「ワイドエリア ネットワークの実装」で説明します。
このガイドの Cisco QoS ツールおよび設定例は、図 1-4に示されているネットワーク上でモデル化されています。
Voice over IP(VoIP)のサービス品質(QoS)は、VoIP ネットワーク設計が新しい Cisco Catalyst 製品群、最新の Cisco IOS リリース、および Cisco CallManager コール アドミッション制御テクノロジと適切に統合されたときに確実に保証されます。 Cisco AVVID ネットワークを構築する場合、次のコア原則に従う必要があります。
• IP 電話に 802.1Q/p 接続を使用し、音声には Auxiliary VLAN を使用する。
• 音声 RTP ストリームを EF または IP 優先 5 として分類し、それらをすべてのネットワーク エレメント上の 2 番目のキュー(できればプライオリティ キュー)に入れる。
• 音声制御トラフィックを AF31 または IP 優先順位 3 として分類し、それをすべてのネットワーク エレメント上で 2 番目のキューに入れる。
• LAN バッファが 100% 使用率に近づいてきたら、キャンパス内で QoS を使用可能にする。
• 必ず、WAN を適切にプロビジョニングして、オーバーヘッド、ルーティング プロトコル、レイヤ 2 リンク情報、およびその他の各種トラフィック用に 25% の帯域幅を確保する。
• すべての WAN インターフェイス上で低遅延キューイング(LLQ)を使用する。
• 768 kbps 未満のすべてのリンク速度について LFI(Link Fragmentation and Interleaving)技法を使用する。