ポリシーのアーキテクチャ
このトピックでは、オーバーレイネットワーク全体にポリシーを実装するために使用される Cisco Catalyst SD-WAN ポリシーのアーキテクチャについて説明します。これらのポリシーは、Cisco SD-WAN Validator ポリシーまたは一元管理型ポリシーと呼ばれています。理由は、こうしたポリシーが Cisco SD-WAN コントローラ で一元的に設定されるからです。Cisco SD-WAN コントローラ ポリシーは、コントロール プレーン トラフィック(オーバーレイ管理プロトコル(OMP)によって伝送され、オーバーレイネットワークのトポロジとステータスを決定するために Cisco SD-WAN コントローラ によって使用されるルーティング更新)とデータプレーントラフィック(オーバーレイネットワーク内の Cisco IOS XE Catalyst SD-WAN デバイス 間を行き来するデータトラフィック)の両方のフローに影響を及ぼします。
Cisco Catalyst SD-WAN では、Cisco IOS XE Catalyst SD-WAN デバイス でもルーティングポリシーの作成が可能です。こうしたポリシーは、デバイス上でローカルにルーティングプロトコル(BGP または OSPF)に関連付けられている従来のルーティングポリシーと変わりありません。使用する場合は、従来の感覚で行えます。たとえば、BGP や OSPF を制御して、ルート情報の交換に影響を与えたり、ルート属性を設定したり、パス選択に影響を与えたりする場合と同じ感覚で使用できます。
一元管理型制御ポリシーのアーキテクチャ
Cisco IOS XE Catalyst SD-WAN ネットワークアーキテクチャでは、一元管理型制御ポリシーは、実質的にネットワークのルーティングエンジンである Cisco SD-WAN コントローラ によって処理されます。Cisco SD-WAN コントローラ は、ネットワーク全体のルートで一元化されたマネージャであり、これらのルートのプライマリルートテーブルを管理します。Cisco SD-WAN コントローラ は、ドメイン内の Cisco IOS XE Catalyst SD-WAN デバイス によってアドバタイズされたルート情報に基づいてルートテーブルを作成し、これらのルートを使用してネットワークトポロジを検出し、ネットワークの宛先へのベストパスを決定します。Cisco SD-WAN コントローラ は、そのルートテーブルからドメイン内のデバイスにルート情報を配布し、デバイスはこれらのルートを使用して、ネットワークを介してデータトラフィックを転送します。このアーキテクチャの結果、ネットワーク全体のルーティングの決定とルーティングポリシーは、ネットワーク内のデバイスによってホップごとに実装されるのではなく、中央機関によって調整されます。
一元管理型制御ポリシーを使用すると、Cisco SD-WAN コントローラ によってアドバタイズされるネットワークルートに影響を与えることができます。このタイプのポリシーは、Cisco SD-WAN コントローラ で一元的にプロビジョニングされ、Cisco SD-WAN コントローラ がプライマリルートテーブルに保存するルート情報と、デバイスに配布するルート情報の両方に影響します。
一元管理型制御ポリシーは、Cisco SD-WAN コントローラ でのみプロビジョニングおよび適用されます。制御ポリシーの設定自体は、オーバーレイネットワーク内のデバイスにプッシュされることはありません。オーバーレイ管理プロトコル(OMP)を使用してデバイスにプッシュされるのは、制御ポリシーの結果です。デバイスはこのポリシーをローカルルートテーブルにインストールし、データトラフィックの転送に使用します。この設計は、ネットワーク管理者が設計したポリシーを使用して、ネットワーク全体のルート配布が常に一元的に管理されることを意味します。これらのポリシーは、一元管理型の Cisco SD-WAN コントローラ によって常に実装され、Cisco IOS XE Catalyst SD-WAN オーバーレイネットワークでルーティングの決定を調整します。
ルート情報を含むすべての一元管理型制御プレーントラフィックは、デバイスとそのドメイン内の Cisco SD-WAN コントローラ 間のセキュアで永続的な DTLS 接続内で実行される OMP ピアリングセッションによって伝送されます。OMP ピアリングセッションのエンドポイントは、デバイスのシステム ID によって識別され、ピアリングセッションは、デバイスが配置されているサイトを識別するサイト ID を伝送します。DTLS 接続とその上で実行されている OMP セッションは、2 つのピアが動作している限りアクティブなままです。
制御ポリシーは、Cisco SD-WAN コントローラ がデバイスから受信するルートアドバタイズメントに対するインバウンドと、デバイスに送信するアドバタイズメントに対するアウトバウンドの両方に適用できます。インバウンド制御ポリシーは、Cisco SD-WAN コントローラ のローカル ルーティング データベースにインストールされるルートとルート情報、およびこの情報をそのままインストールするか変更するかを制御します。アウトバウンド制御ポリシーは、ルートがルーティングデータベースから取得された後、Cisco SD-WAN コントローラ がアドバタイズする前に適用され、ルート情報がそのままアドバタイズされるか、変更されるかに影響します。
ルート タイプ
Cisco SD-WAN コントローラ は、OMP によって伝送される Cisco IOS XE Catalyst SD-WAN 固有のルートである OMP ルートからネットワークトポロジを学習します。OMP ルートには次の 3 つのタイプがあります。
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Cisco IOS XE Catalyst SD-WAN OMP ルート:このルートは、デバイスがローカルネットワーク上で実行されているルーティングプロトコルから学習したプレフィックス情報を伝送します。情報には、BGP および OSPF から学習したルート、直接ルート、接続ルート、および静的ルートが含まれます。OMP は、OMP ルート SAFI(後続のアドレスファミリ識別子)を使用して OMP ルートを Cisco SD-WAN コントローラ にアドバタイズします。これらのルートは、一般に単に OMP ルートと呼ばれます。
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TLOC ルート:このルートは、デバイスが WAN またはトランスポートネットワークに接続する物理ポイントであるトランスポートロケーションに関連付けられたプロパティを伝送します。TLOC を識別するプロパティには、WAN インターフェイスの IP アドレスと、特定のトラフィックフローを識別する色が含まれます。OMP は TLOC SAFI を使用して TLOC ルートをアドバタイズします。
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サービスルート:これらのルートは、デバイスが接続されているローカルサイトネットワークで使用可能なネットワークサービス(ファイアウォールや IDP など)を識別します。OMP は、サービス SAFI を使用してこれらのルートをアドバタイズします。
これら 3 種類のルートの違いは、 Cisco SD-WAN コントローラ または Cisco IOS XE Catalyst SD-WAN デバイスの CLI にログインしているときに、さまざまな show sdwan omp 操作コマンドを使用して表示できます。 show sdwan omp routes コマンドは情報をプレフィックスでソートして表示し、show sdwan omp services コマンドはルート情報をサービスでソートして表示し、show sdwan omp tlocs コマンドはルート情報を TLOC でソートします。
一元管理型制御ポリシーを使用しない場合のデフォルト動作
デフォルトでは、一元管理型制御ポリシーは Cisco SD-WAN コントローラ でプロビジョニングされません。これにより、ドメイン内で次のルートアドバタイズメントおよび再配布動作は次のようになります。
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すべての Cisco IOS XE Catalyst SD-WAN デバイス は、サイトローカルネットワークから学習したすべてのルート関連プレフィックスを Cisco SD-WAN コントローラ に再配布します。このルート情報は、デバイスと Cisco SD-WAN コントローラ 間の DTLS 接続を介して送信される OMP ルートアドバタイズメントによって伝送されます。ドメインに複数の Cisco SD-WAN コントローラ が含まれている場合、デバイスはすべての OMP ルートアドバタイズメントをすべてのコントローラに送信します。
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すべてのデバイスは、OMP を使用して、すべての TLOC ルートをドメイン内の Cisco SD-WAN コントローラ またはコントローラに送信します。
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すべてのデバイスは、デバイスが配置されたローカルサイトで使用可能なネットワークサービス(ファイアウォールや IDP など)をアドバタイズするために、すべてのサービスルートを送信します。これらも OMP によって伝送されます。
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Cisco SD-WAN コントローラ は、ドメイン内のすべてのデバイスから受信したすべての OMP、TLOC、およびサービスルートを受け入れ、ルートテーブルにその情報を保存します。Cisco SD-WAN コントローラ は、どの OMP ルート、TLOC、およびサービスがどの VPN に属しているかを追跡します。Cisco SD-WAN コントローラ は、すべてのルートを使用してネットワークのトポロジマップを作成し、オーバーレイネットワークを通過するデータトラフィックのルーティングパスを決定します。
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Cisco SD-WAN コントローラ は、特定の VPN 内の OMP、TLOC、およびサービスルートから学習したすべての情報を、同じ VPN 内のすべてのデバイスに再配布します。
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デバイスは、ルート更新を定期的に Cisco SD-WAN コントローラ に送信します。
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Cisco SD-WAN コントローラ はルーティングパスを再計算し、ルートテーブルを更新し、新規および変更されたルーティング情報をすべてのデバイスにアドバタイズします。
一元管理型制御ポリシーを使用した場合の動作の違い
すべてのルート情報をドメイン内のすべての Cisco IOS XE Catalyst SD-WAN デバイス に再配布しない場合、または Cisco Catalyst SD-WAN コントローラ のルートテーブルに保存されているルート情報や Cisco Catalyst SD-WAN コントローラ によってアドバタイズされるルート情報を変更する場合は、一元管理型制御ポリシーを設計してプロビジョニングします 。制御ポリシーをアクティブ化するには、インバウンドまたはアウトバウンド方向のオーバーレイネットワーク内の特定のサイトにそのポリシーを適用します。その際、方向は Cisco Catalyst SD-WAN コントローラ を基点として考えます。一元管理型制御ポリシーのすべてのプロビジョニングは、Cisco Catalyst SD-WAN コントローラ で実行されます。
インバウンド方向に一元管理型制御ポリシーを適用すると、Cisco IOS XE Catalyst SD-WAN デバイス によってアドバタイズされているルートは Cisco Catalyst SD-WAN コントローラ のルートテーブルに配置される前にフィルタリングまたは変更されます。プロセスにおける最初のステップとして、ルートは受け入れられるか拒否されます。受け入れられたルートは、受信したルート、または制御ポリシーによって変更されたルートとして、Cisco Catalyst SD-WAN コントローラ のルートテーブルにインストールされます。制御ポリシーによって拒否されたルートは、通知なしに破棄されます。
アウトバウンド方向に制御ポリシーを適用すると、Cisco Catalyst SD-WAN コントローラ によって Cisco IOS XE Catalyst SD-WAN デバイス に再配布されるルートがフィルタリングまたは変更されます。アウトバウンド方向のポリシーでは最初のステップとして、ルートは受け入れられるか拒否されます。受け入れられたルートの場合、一元管理型制御ポリシーを通じた、Cisco Catalyst SD-WAN コントローラ による配布前のルート変更が可能です。アウトバウンド方向のポリシーによって拒否されたルートはアドバタイズされません。
VPN メンバーシップポリシー
一元管理型データポリシーのもう 1 つのタイプは、VPN メンバーシップポリシーです。これは、Cisco IOS XE Catalyst SD-WAN デバイス が特定の VPN に参加できるかどうかを制御するポリシーです。VPN メンバーシップポリシーは、デバイスのどの VPN のルートであれば受信を許可し、どの VPN のルートなら受信を許可しないかを定義します。
VPN メンバーシップポリシーは一元管理できますが、それは、影響がパケットのヘッダーに対してのみで、Cisco IOS XE Catalyst SD-WAN デバイス がトラフィックの送信に使用するインターフェイスの選択には影響しないからです。一元管理をしていないと、VPN メンバーシップポリシーにより、ある特定の VPN のルートをデバイスが受信できない場合に、Cisco Catalyst SD-WAN コントローラ からそのドライバに対し、そうしたルートの転送が決して行われないということが起こります。
一元管理型制御ポリシーを使用したトラフィックフローの変更例
このセクションでは、一元管理型制御ポリシーを使用して、オーバーレイ ネットワークを通過するデータ トラフィックのフローを変更する方法について基本的な例をいくつか示します。
任意のトポロジの作成
このオーバーヘッドを最小限に抑える方法の 1 つは、ハブアンドスポークタイプのトポロジを作成することです。この場合、デバイスの 1 つがハブサイトとして機能し、すべてのスポークまたはブランチデバイスからデータトラフィックを受信し、トラフィックを適切な宛先にリダイレクトします。この例では、このようなハブアンドスポークトポロジを作成する方法の 1 つを示します。これは、宛先に関連付けられた TLOC のアドレスを変更する制御ポリシーを作成することです。
下図は、このようなポリシーがどのように機能するかを示しています。このトポロジには、West と East の 2 つのブランチロケーションがあります。制御ポリシーがプロビジョニングされていない場合、これらの 2 つのデバイスは、デバイス間に IPsec トンネルを作成することで、データトラフィックを直接交換します(赤線で表示)。ここで、West デバイスのルートテーブルには、宛先 TLOC が 203.0.113.1、色が gold(タプル {192.0.2.1, gold})の East デバイスへのルートが含まれ、East デバイスのルートテーブルには、宛先 TLOC が {203.0.113.1, gold} である West ブランチへのルートが存在します。
ここで、ハブアンドスポークタイプのトポロジを設定するには、制御ポリシーをプロビジョニングして、West および East デバイスがもう一方のデバイス宛てのすべてのデータパケットをハブデバイスに送信するようにします。(制御ポリシーは常に一元管理型であるため、Cisco Catalyst SD-WAN コントローラ でプロビジョニングすることに注意してください)。West デバイスでは、ポリシーは単に宛先 TLOC を {203.0.113.1, gold} からハブデバイスの TLOC である {209.165.200.225, gold} に変更し、East デバイスでは、ポリシーは宛先 TLOC を {192.0.2.1, gold} からハブの TLOC である {209.165.200.225, gold} に変更します。ネットワークの West 側と East 側にデータトラフィックを交換する他のブランチサイトがある場合は、これら 2 つの同じ制御ポリシーを適用して、すべてのデータトラフィックをハブを介してリダイレクトすることができます。
トラフィック エンジニアリングの設定
図は、サイト ID 100 に 2 つのハブデバイスがあることを示しています。1 つはネットワークの西側にサービスを提供し、もう 1 つは東側にサービスを提供します。デバイス西ブランチからのデータトラフィックはデバイス西側ハブで処理する必要があり、同様に、デバイス東ブランチからのデータトラフィックはデバイス東側ハブを通過する必要があります。
このトラフィックフローを設計するには、2 つの制御ポリシーをプロビジョニングします。1 つはデバイス西側デバイスが配置されているサイト ID 1 用、もう 1 つはサイト ID 2 用です。サイト ID 1 の制御ポリシーは、デバイス東宛てのトラフィックの TLOC を {209.165.200.225, gold} に変更し、サイト ID 2 の制御ポリシーは、サイト ID 1 宛てのトラフィックの TLOC を {198.51.100.1 gold} に変更します。このトラフィック エンジニアリング ポリシーのもう 1 つの作用は、2 つのハブデバイスを通過するトラフィックのロードバランシングです。
このようなトラフィック エンジニアリング ポリシーでは、送信元デバイスから宛先デバイスへのルートがローカルルートテーブルにインストールされ、送信元デバイスと宛先デバイス間のパスが使用可能かどうかに関係なく、トラフィックが宛先に送信されます。最終的な宛先へのパスのエンドツーエンド トラッキングを有効にすると、Cisco Catalyst SD-WAN コントローラ は送信元から宛先へのパスをモニターし、そのパスが使用できない場合に送信元デバイスに通知できます。そこで送信元デバイスは、ルートテーブルからそのパスを変更または削除できるのです。
エンドツーエンド パス トラッキングの一部として、中間デバイスを使用した、送信元から最終的な宛先へのトラフィック転送方法は指定できるようになっています。デフォルトの方法は厳密な転送です。この場合、デバイス B にデバイス D への直接パスがあるかどうか、またはデバイス B とデバイス D 間のトンネルが稼働しているかどうかに関わらず、トラフィックは常にデバイス A からデバイス B に送信されます。柔軟な方法としては、一部またはすべてのトラフィックをデバイス A からデバイス D に直接転送するというのもあります。また、1 番目の中間デバイスが到達不能な場合の冗長パスを設けるために 2 番目の中間デバイスを設定し、ECMP 方式を使用して 2 つのデバイス間のトラフィックを転送するということもできます。トラフィック エンジニアリング 3 の図では、冗長中間デバイスとして Device-C を追加しています。
Cisco Catalyst SD-WAN コントローラ で設定する一元管理型制御ポリシーは、OMP ルートおよび OMP TLOC の情報に基づくルーティングポリシーに影響を及ぼします。
複数の Cisco Catalyst SD-WAN コントローラ があるドメインでは、オーバーレイネットワーク内のルーティングを安定させて予測可能な状態のままにしておくために、すべてのコントローラに同じ一元管理型制御ポリシーを設定しておく必要があります。
プレフィックスと IP ヘッダーに基づく一元管理型ポリシーの構成
送信元プレフィックスと宛先プレフィックス、および IP パケット内のヘッダーに基づく一元管理型データポリシーは、一連の番号付きの(順番に並んだ)マッチ/アクションペアのシーケンスで構成されます。これらのペアは、シーケンス番号の昇順で評価されます。パケットがマッチ条件のいずれかに一致すると、関連するアクションが実行され、そのパケットに対するポリシー評価が停止します。ポリシーの対象となる項目に対して必要なアクションが実行されるよう、ポリシーを設計する際はこの点に留意するようにしてください。
パケットがポリシー設定のどのシーケンスのパラメータにも一致しない場合、そのパケットはデフォルトではドロップされて廃棄されます。
構成コンポーネント
次の図は、一元管理型データポリシーの構成コンポーネントを示しています。