従来ややもすればプロジェクトやビジネスを遂行する上で、リーダー以外のリーダーシップは重視されてこなかった。チームメンバーはリーダーの指示に従って動くことで済んでいたという側面もある。しかしスピードが重視され、とにかく行動しなければならない現代にあっては、不測の事態に遭遇した際、一人ひとりが正しい方向を判断する能力を身につけることが必要になった。今やプロジェクトの成功、ビジネスの成功にはパーソナル・リーダーシップが求められている。
竹村氏はパーソナルレベルのリーダーシップとマネジメントを、セルフリーダーシップとセルフマネジメントと位置づけ、前者を正しい方向を指し示す「コンパス」、後者を効率よく物事を進めるために必要な「時計」に喩える。つまり、ビジネスやプロジェクトを正しく効率よく遂行するには、社員一人ひとりがコンパスと時計を内蔵していなければならないというわけだ。性能の善し悪しは別にして時計は誰でも持っているので、問題はコンパスだ。一人ひとりがコンパスを持つにはどうしたらいいのだろうか?
「リーダーはチームメンバーにビジネスやプロジェクトの目標を示しますが、それだけでは不十分です。目標を達成するために基準 (コンパス) を提供しなければ、自分で正しい方向を判断できません。これはボートとカヌーに喩えるとわかりやすいでしょう。 ボートの後ろに座るコックスは、方向をコントロールし漕ぎ手に指示を出してスピードを調節するリーダーです。一般的なリーダーのイメージはこうしたコックスに近い。 漕ぎ手はコックスの指示に従って全力で漕げばいいのです。スピードは出ます。ただし、これは水面が穏やかな場合だけの話です。急流下りのような場合には、コックスの指示では対応できない。カヌーのように、自ら障害物を避ける正しい方向を判断することが必要になる。つまり、リーダーかつ漕ぎ手として、障害物をどう避けるかという基準も身につけなければならないのです」
冒頭で上げた、実行した者が 5% に過ぎないという原因は、目標達成のために道筋 (判断基準) が明確になっていないことが大きい。ここにリーダーの大きな落とし穴があることがわかる。いくら熱心にビジョンや戦略を話しても、それだけでは自己満足に終わってしまい、実行に結びつかないからだ。一方、社員も判断基準が示されないので途方に暮れるという構図だ。これではビジネスも、プロジェクトも成功しない。だから個人の評価も上がらないという悪循環に陥ってしまう。もし、判断基準が示されていないのであれば、リーダーと議論して判断基準を作り上げるべきだろう。
社員一人ひとりがコンパス (判断基準) を持てば、どんな事態に遭遇しても正しい方向を知ることができる。しかし、コンパスを持たせるには、リーダーには根気強い社員とのコミュニケーションが求められる。単に号令をかけるだけでは済まないからだ。疑問に答え、明確な指針を示し、納得してもらわなければならない。一方、社員は指示に従えばいいという思考停止は通用しなくなる。判断基準を血肉化するために自らの頭で考えなければならない。両者の努力があって初めてプロジェクトやビジネス成功の人的条件が整うのだ。
パーソナル・リーダーシップを身につけるには、まず自らの頭で考えることが前提になる。そしてプロジェクトの目標や企業のビジョンを単に頭に入れるだけでなく、それを実現するための筋道と迷った時に正しい道を選択する判断基準を共有するために、リーダーとだけでなく、チームメンバーやグループと徹底的に議論することだ。その判断基準はケースバイケースになるが、道に迷ったときに右に行くべきか左に行くべきかを指し示すものでなければならない。例えば、プロジェクトの手順を示すだけではなく、オーバーワークになった場合「一人で抱えないで応援を求める」といった明確な基準でなければならない。