IOS スイッチング パスについて
ここでは、Cisco IOS スイッチング パスに関する情報を示します。次の概念が含まれます。
• 「基本的なルータ プラットフォーム アーキテクチャとプロセス」
• 「シスコのルーティングおよびスイッチング プロセス」
• 「基本的なスイッチング パス」
• 「パフォーマンスに影響を与える機能」
基本的なルータ プラットフォーム アーキテクチャとプロセス
スイッチングの機能を理解するには、まず、基本的なルータ アーキテクチャと、さまざまなプロセスが発生するルータの場所を理解すると役立ちます。
(注) IP ユニキャスト ファースト スイッチングは、Cisco IOS 12.2S、12.2SB、12.2SR、および 12.2SX リリースではサポートされません。
ファースト スイッチングは、ファースト スイッチングをサポートするすべてのインターフェイスで、デフォルトでイネーブルになっています。ファースト スイッチングをディセーブルにして、プロセス スイッチング パスにフォール バックする必要がある場合は、さまざまなプロセスがルータに与える影響、およびこれらのプロセスが発生する場所を理解すると、代替策をとるために役立ちます。この理解は、特に、トラフィックの問題をトラブルシューティングするとき、または特別な処理を必要とするパケットを処理する必要があるときに役立ちます。一部の診断または制御リソースは、ファースト スイッチングと互換性がありません。または、処理およびスイッチングの効率が失われます。これらのリソースの影響を理解すると、ネットワーク パフォーマンスへの影響を最小限に抑えることができます。
図 1 に、Cisco 7500 シリーズ ルータで可能な内部設定を示します。この設定では、Cisco 7500 シリーズ ルータに Route Switch Processor(RSP; ルート スイッチ プロセッサ)が内蔵され、 ルート キャッシング を使用してパケットを転送します。Cisco 7500 シリーズ ルータは、Versatile Interface Processor(VIP)も使用します。これは、RISC ベースのインターフェイス プロセッサで、ルーティング情報を RSP から受信し、キャッシュします。VIP カードは、関連する RSP の代わりに、ルート キャッシュを使用してローカルなスイッチングの判断を行います。これによって、全体的なスループットが向上します。このタイプのスイッチングを分散スイッチングと呼びます。複数の VIP カードを 1 台のルータにインストールできます。
図 1 基本的なルータ アーキテクチャ
ルーティング プロセス
ルーティング プロセスは、ネットワークの条件に関する知識に基づいて、トラフィックの発信元と宛先を評価します。ルーティング機能は、1 つまたは複数のルータ インターフェイスから送信されるトラフィックを宛先に移動するために最適なパスを判定します。ルーティングの判断は、リンク速度、トポロジ上の距離、プロトコルなど、さまざまな基準に基づいて行われます。各プロトコルは、独自のルーティング情報を保持しています。
ルーティングは、パスおよびネクストホップについてさまざまな判断を行うため、スイッチングよりも処理の負荷が高く、遅延が増します。ルーティングされる最初のパケットでは、ルートを判断するために、ルーティング テーブルをルックアップする必要があります。ルート テーブル ルックアップによって最初のパケットがルーティングされると、ルート キャッシュが設定されます。同じ宛先への後続のトラフィックは、ルート キャッシュに格納されたルーティング情報を使用してスイッチングされます。
図 2 に、基本的なルーティング プロセスを示します。
図 2 ルーティング プロセス
ルータは、特定のプロトコル用に設定されている各インターフェイスからルーティング アップデートを送信します。また、接続されている別のルータからルーティング アップデートを受信します。これらの受信したアップデート、および接続されているネットワークに関する知識から、ネットワーク トポロジのマップが構築されます。
過負荷状態での選択的パケット廃棄によるルーティング プロトコル パケットの管理
過度なオーバーロード状態では、着信パケット ストリームを処理しきれないルータが、パケットをドロップする必要があります。廃棄するパケットの選択にインテリジェンスが適用されないと、ルーティング プロトコルの安定性に影響が出ます。Selective Packet Discard(SPD; 選択的パケット廃棄)機能は、ルーティングおよびインターフェイスの安定性にとって重要ではないと考えられるパケットを、選択的に廃棄する単純な選択を適用します。SPD はデフォルトでイネーブルになり、コマンドまたは設定タスクは必要ありません。
スイッチング プロセス
ルータは、スイッチング プロセスを通じて宛先アドレスへのネクストホップを判断します。スイッチングは、入力インターフェイスから 1 つまたは複数の出力インターフェイスにトラフィックを移動します。スイッチングでは、トラフィックの送信元と宛先を単純に判断して、パケット、フレーム、またはセルをバッファからバッファに移動できるため、スイッチングは最適化され、ルーティングよりも遅延が減少します。余分なルックアップの必要がないので、リソースを節約できます。図 3 に、基本的なスイッチング プロセスを示します。
図 3 スイッチング プロセス
図 3 では、パケットがファスト イーサネット インターフェイスで受信され、FDDI インターフェイスに送信されます。パケット ヘッダーの情報、およびルーティング テーブルに格納されている宛先情報に基づいて、ルータは宛先インターフェイスを決定します。プロトコルのルーティング テーブルを検索して、パケットの宛先アドレスをサービスする宛先インターフェイスを検出します。
宛先アドレスは、IP の ARP テーブルや AppleTalk の AARP テーブルなどのテーブルに格納されます。宛先のエントリがない場合、ルータはパケットをドロップするか(プロトコルで機能がサポートされていれば、その後、ユーザに通知します)、ARP など別のアドレス解決プロセスで宛先アドレスを検出します。レイヤ 3 IP アドレッシング情報は、ネクストホップのレイヤ 2 MAC アドレスにマッピングされます。図 4 に、ネクストホップを決定するために行われるマッピングを示します。
図 4 レイヤ 3 からレイヤ 2 へのマッピング
プロセス スイッチング
プロセス スイッチングでは、最初のパケットがシステム バッファにコピーされます。ルータはルーティング テーブルでレイヤ 3 ネットワーク アドレスをルックアップして、ファースト スイッチング キャッシュを初期化します。フレームは宛先アドレスで書き換えられ、その宛先を処理する発信インターフェイスに送信されます。この宛先への後続のパケットは、同じスイッチング パスで送信されます。ルート プロセッサが Cyclical Redundancy Check(CRC; 巡回冗長検査)を計算します。
ファースト スイッチング
パケットがファースト スイッチングされると、最初のパケットがパケット メモリにコピーされ、ファースト スイッチング キャッシュで宛先ネットワークまたはホストが検索されます。フレームが書き換えられ、宛先を処理する発信インターフェイスに送信されます。宛先が同じ後続のパケットは、同じスイッチング パスを使用します。インターフェイス プロセッサが CRC を計算します。ファースト スイッチングについては、『 Configuring Fast Switching 』モジュールで説明します。
(注) IP ユニキャスト ファースト スイッチングは、Cisco IOS 12.2S リリースではサポートされません。
シスコ エクスプレス フォワーディング スイッチング
シスコ エクスプレス フォワーディング モードがイネーブルの場合、シスコ エクスプレス フォワーディングの Forwarding Information Base(FIB; 転送情報ベース)および隣接関係テーブルは Route Processor(RP; ルート プロセッサ)上に存在し、RP はエクスプレス フォワーディングを実行します。シスコ エクスプレス フォワーディング スイッチングにラインカードが対応していない場合、または分散型シスコ エクスプレス フォワーディング スイッチングと互換性のない機能を使用する必要がある場合は、集中型シスコ エクスプレス フォワーディング モードを使用できます。シスコ エクスプレス フォワーディングの設定については、『 Cisco Express Forwarding Overview 』モジュールを参照してください。
(注) Cisco IOS Release 12.0 からは、シスコ エクスプレス フォワーディングが優先のデフォルト スイッチング パスです。NetFlow スイッチングは、シスコ エクスプレス フォワーディング スイッチングに統合されました。詳細については、『Cisco Express Forwarding Overview』モジュールを参照してください。
分散型シスコ エクスプレス フォワーディング スイッチング
分散スイッチングでは、スイッチング プロセスは VIP およびスイッチングをサポートするその他のインターフェイス カードで発生します。分散型シスコ エクスプレス フォワーディングがイネーブルの場合、VIP ラインカードや GSR ラインカードなどのラインカードが、FIB および隣接関係テーブルの同一のコピーを保持します。スイッチング動作に関連する RSP の代わりに、ラインカードがポート アダプタ間のエクスプレス フォワーディングを実行します。分散型シスコ エクスプレス フォワーディングでは、Inter Process Communication(IPC; プロセス間通信)メカニズムを使用して、RP およびラインカード上の FIB と隣接関係テーブルとの同期を保証します。
型番およびハードウェアの互換性に関する情報については、「 Cisco Product Catalog 」を参照してください。分散型シスコ エクスプレス フォワーディングの設定については、『 Cisco Express Forwarding Overview 』モジュールを参照してください。
Multicast Distributed Switching(MDS; マルチキャスト分散スイッチング)の設定については、『 Configuring Multicast Distributed Switching 』モジュールを参照してください。
図 5 に、Cisco 7500 シリーズの分散スイッチング プロセスを示します。
図 5 Cisco 7500 シリーズ ルータでの分散スイッチング
このルータにインストールされている VIP カードが、パケットの転送に必要なルーティング キャッシュ情報のコピーを保持します。VIP カードが必要とするルーティング情報が VIP カードにあるため、ローカルにスイッチングを実行でき、パケット フォワーディングがはるかに高速化されます。ルータのスループットは、ルータにインストールされている VIP カードの数に基づいて、リニアに向上します。
プラットフォームとスイッチング パスの関係
使用するルーティング プラットフォームによって、スイッチング パスのアベイラビリティおよびデフォルト実装は異なります。 表 1 に、Cisco IOS スイッチング パスとルーティング プラットフォームの関係を示します。
表 1 Cisco 7200 および Cisco 7500 シリーズ ルータのスイッチング パス
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プロセス スイッチング |
あり |
あり |
スイッチング キャッシュを初期化 |
no protocol route-cache |
ファースト スイッチング |
あり |
あり |
デフォルト(IP ユニキャスト以外) |
protocol route-cache |
シスコ エクスプレス フォワーディング スイッチング |
あり |
あり |
IP のデフォルト |
protocol route-cache cef |
分散型シスコ エクスプレス フォワーディング スイッチング |
なし |
あり |
第 2 世代 VIP ラインカードを使用 |
protocol route-cache cef distributed |
ネットワークの輻輳が発生したときのキューイング
ネットワークの輻輳が発生すると、キューイングが発生します。トラフィックがネットワークの中を適切に移動しているとき、パケットは、インターフェイスに到達するとすぐに送信されます。Cisco IOS ソフトウェアでは、4 つの異なるキューイング アルゴリズムが実装されます。
• FIFO キューイング:パケットは、インターフェイスに到達した順に転送されます。
• Priority Queueing(PQ; プライオリティ キューイング):パケットは、割り当てられている優先度に基づいて転送されます。優先順位リストおよびグループを作成して、パケットをプライオリティ キューに割り当てるためのルールを定義できます。
• Custom Queueing(CQ; カスタム キューイング):プロトコル キュー リストとカスタム キュー リストを作成することで、指定したトラフィックが使用するインターフェイス帯域幅の割合を制御できます。
• Weighted Fair Queueing(WFQ; 重み付け均等化キューイング):WFQ は、トラフィック プライオリティの自動管理を提供します。狭帯域幅セッションは、広帯域幅セッションよりも優先度が高くなります。広帯域幅セッションには、重みが割り当てられます。WFQ は、2.048 Mbps よりも低速なインターフェイスのデフォルトです。
輻輳回避のためのランダム早期検出
Random Early Detection(RED; ランダム早期検出)は、輻輳回避のために設計されています。トラフィックには、Type Of Service(ToS; タイプ オブ サービス)に基づいてプライオリティ(優先度)が設定されます。この機能は、T3、OC-3、および ATM インターフェイスで使用できます。
使用中のプロトコルに応じた圧縮オプション
Cisco IOS ソフトウェアでは、使用中のプロトコルに応じて、さまざまな圧縮オプションを使用できます。使用可能な圧縮オプションについては、Cisco IOS 設定ガイドで、使用中のプロトコルの説明を参照してください。
アクセス リストを使用したフィルタリング
アクセス リストを定義して、多くのサービスで、ルータとの間のアクセスを制御できます。たとえば、特定の IP アドレスのパケットがルータの特定のインターフェイスから発信されないように定義できます。アクセス リストの使用方法は、プロトコルによって異なります。アクセス リストの詳細については、該当する Cisco IOS 設定ガイドで、使用中のプロトコルの説明を参照してください。
セキュリティのための暗号化の追加
アピアランスを変更するデータには、そのデータの参照が許可されていないユーザが理解できないように、暗号化アルゴリズムが適用されます。Cisco IOS ソフトウエアで使用可能な暗号化機能については、『 Cisco IOS Security Configuration Guide 』を参照してください。
使用中のプロトコルに基づくアカウンティング機能
リソースの使用状況に関連するネットワーク データを収集するために、アカウンティング機能を設定できます。収集した情報は(統計情報の形式で)、課金、チャージバック、およびリソース使用計画に使用できます。使用できるアカウンティング機能については、該当する Cisco IOS 設定ガイドで、使用中のプロトコルの説明を参照してください。
用語集
FIB :転送情報ベース。シスコ エクスプレス フォワーディングのコンポーネント。ルータは FIB ルックアップ テーブルを使用して、シスコ エクスプレス フォワーディング動作中に送信先ベースのスイッチング判断を行います。ルータには、IP ルーティング テーブル内の転送情報のミラー イメージが保持されます。
IPC :プロセス間通信。ルータが分散型シスコ エクスプレス フォワーディング モードで動作している場合に、Route Switch Processor(RSP; ルート スイッチ プロセッサ)からラインカードへの、シスコ エクスプレス フォワーディング テーブルの配布を可能にするメカニズム。
LIB :ラベル情報ベース。他の Label Switch Router(LSR; ラベル スイッチ ルータ)から学習したラベル、およびローカル LSR によって割り当てられたラベルを格納するために、LSR が使用するデータベース。
MPLS :マルチプロトコル ラベル スイッチング。通常のルーティング パスに沿ってパケットを転送するための新しい業界標準(MPLS ホップバイホップ フォワーディングと呼ばれる場合もある)。
RP :ルート プロセッサ。Cisco 7000 シリーズ ルータのプロセッサ モジュールであり、CPU、システム ソフトウェア、およびルータで使用されるメモリ コンポーネントの大部分が含まれます。スーパーバイザリ プロセッサと呼ばれることもあります。
VIP :多用途インターフェイス プロセッサ。Cisco 7000 および Cisco 7500 シリーズ ルータで使用されるインターフェイス カード。VIP は、マルチレイヤ スイッチングを行い、Cisco IOS を実行します。
VPN :バーチャル プライベート ネットワーク。トンネリングを使用し、公衆 TCP/IP ネットワークを通じて IP トラフィックを安全に転送することを可能にするルータ構成。
VRF :Virtual Private Network(VPN; バーチャル プライベート ネットワーク)ルーティング/フォワーディング インスタンス。VRF は、IP ルーティング テーブル、取得された転送テーブル、その転送テーブルを使用する一連のインターフェイス、転送テーブルに登録されるものを決定する一連のルールおよびルーティング プロトコルで構成されています。一般に、VRF には、PE ルータに付加されるカスタマー VPN サイトが定義されたルーティング情報が格納されています。
隣接関係 :ルーティング情報を交換するため、選択した隣接ルータとエンドノード間で形成された関係。隣接関係は、関連するルータとノードによる共通メディア セグメントの使用に基づいています。
シスコ エクスプレス フォワーディング :レイヤ 3 スイッチング テクノロジー。シスコ エクスプレス フォワーディングは、シスコ エクスプレス フォワーディング動作の 2 つのモードの 1 つである、集中型シスコ エクスプレス フォワーディング モードを指す場合もあります。シスコ エクスプレス フォワーディングにより、Route Processor(RP; ルート プロセッサ)がエクスプレス フォワーディングを行うことができます。分散型シスコ エクスプレス フォワーディングは、シスコ エクスプレス フォワーディングのもう 1 つの動作モードです。
分散型シスコ エクスプレス フォワーディング :シスコ エクスプレス フォワーディング スイッチングのタイプの 1 つであり、ラインカード(Versatile Interface Processor(VIP)ラインカードなど)に、Forwarding Information Base(FIB; 転送情報ベース)および隣接関係テーブルの同一のコピーが保持されます。ラインカードは、ポート アダプタ間でエクスプレス フォワーディングを実行します。これにより、ルート スイッチ プロセッサがスイッチング動作から解放されます。
ラインカード :さまざまなシスコ製品で使用可能なインターフェイス プロセッサに対する一般的用語。たとえば、Versatile Interface Processor(VIP)は、Cisco 7500 シリーズ ルータのラインカードです。
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