スタティック ルーティングの概要
ルータは、ユーザが手動で設定したルート テーブル エントリのルート情報を使用するか、またはダイナミック ルーティング アルゴリズムで計算されたルート情報を使用して、パケットを転送します。
スタティック ルートは、2 つのルータ間の明示パスを定義するものであり、自動的にはアップデートされません。ネットワークに変更があった場合は、ユーザが手動でスタティック ルートを再設定する必要があります。スタティック ルートは、ダイナミック ルートに比べて使用する帯域幅が少なくなります。ルーティング アップデートの計算や分析に CPU サイクルを使用しません。
必要に応じて、スタティック ルートでダイナミック ルートを補うことができます。スタティック ルートをダイナミック ルーティング アルゴリズムに再配布できますが、ダイナミック ルーティング アルゴリズムで計算されたルーティング情報をスタティック ルーティング テーブルに再配布することはできません。
スタティック ルートは、ネットワーク トラフィックが予測可能で、ネットワーク設計が単純な環境で使用します。スタティック ルートはネットワークの変化に対応できないので、大規模でたえず変化しているネットワークでは、スタティック ルートを使用すべきではありません。大部分のネットワークは、ルータ間の通信にダイナミック ルートを使用しますが、特殊な状況でスタティック ルートを 1 つか 2 つ設定する場合があります。スタティック ルートは、最終手段としてのゲートウェイ(ルーティング不能なすべてのパケットの送信先となるデフォルト ルータ)を指定する場合にも便利です。
ここでは、次の内容について説明します。
• 「管理ディスタンス」
• 「直接接続のスタティック ルート」
• 「完全指定のスタティック ルート」
• 「フローティング スタティック ルート」
• 「スタティック ルートのリモート ネクスト ホップ」
管理ディスタンス
管理ディスタンスは、2 つの異なるルーティング プロトコルから同じ宛先に、2 つ以上のルートが存在する場合に、最適なパスを選択するために、ルータが使用するメトリックです。複数のプロトコルがユニキャスト ルーティング テーブルに同じルートを追加した場合に、管理ディスタンスを手がかりに、他のルーティング プロトコル(またはスタティック ルート)ではなく、特定のルーティング プロトコル(またはスタティック ルート)が選択されます。各ルーティング プロトコルは、管理ディスタンス値を使用して、信頼性の高い順にプライオリティが与えられます。
スタティック ルートのデフォルトの管理ディスタンスは 1 です。ルータは値の小さいルートが最短であるとみなすので、スタティック ルートがダイナミック ルートより優先されます。ダイナミック ルートでスタティック ルートを上書きする場合は、スタティック ルートに管理ディスタンスを指定します。たとえば、管理ディスタンスが 120 のダイナミック ルートが 2 つある場合に、ダイナミック ルートでスタティック ルートを上書きするには、スタティック ルートに 120 より大きい管理ディスタンスを指定します。
直接接続のスタティック ルート
直接接続のスタティック ルートで指定しなければならないのは、出力インターフェイス(あらゆるパケットを宛先ネットワークに送り出すインターフェイス)だけです。ルータは宛先が出力インターフェイスに直接接続されているものとみなし、パケットの宛先をネクストホップ アドレスとして使用します。ネクストホップは、ポイントツーポイント インターフェイスの場合に限り、インターフェイスにできます。ブロードキャスト インターフェイスの場合は、ネクストホップを IPv4/IPv6 アドレスにする必要があります。
完全指定のスタティック ルート
完全指定のスタティック ルートでは、出力インターフェイス(あらゆるパケットを宛先ネットワークに送り出すインターフェイス)またはネクスト ホップ アドレスのどちらかを指定する必要があります。完全指定のスタティック ルートを使用できるのは、出力インターフェイスがマルチアクセス インターフェイスで、ネクストホップ アドレスを特定する必要がある場合です。ネクストホップ アドレスは、指定された出力インターフェイスに直接接続する必要があります。
フローティング スタティック ルート
フローティング スタティック ルートは、ダイナミック ルートをバックアップするためにルータが使用するスタティック ルートです。フローティング スタティック ルートには、バックアップするダイナミック ルートより大きい管理ディスタンスを設定する必要があります。この場合、ルータはフローティング スタティック ルートよりダイナミック ルートを優先させます。フローティング スタティック ルートは、ダイナミック ルートが失われた場合の代用として使用できます。
(注) デフォルトでは、ルータはダイナミック ルートよりスタティック ルートを優先させます。スタティック ルートの方がダイナミック ルートより、管理ディスタンスが小さいからです。
スタティック ルートのリモート ネクスト ホップ
リモート(非直接接続)ネクストホップを指定したスタティック ルートの場合、ルータに直接接続されていない隣接ルータのネクストホップ アドレスを指定できます。データ転送時に、スタティック ルートにリモート ネクストホップがあると、そのネクスト ホップがユニキャスト ルーティング テーブルで繰り返し使用され、リモート ネクストホップに到達可能な、対応する直接接続のネクストホップ(複数可)が特定されます。
仮想化サポート
スタティック ルートは VRF(仮想ルーティングおよびフォワーディング)インスタンスをサポートします。VRF は virtual device context(仮想デバイス コンテキスト; VDC)内に存在します。特に VDC および VRF を設定しないかぎり、デフォルトで、Cisco NX-OS はユーザにデフォルト VDC およびデフォルト VRF を使用させます。詳細については、『 Cisco NX-OS Virtual Device Context Configuration Guide 』および 第 13 章「レイヤ 3 仮想化の設定」 を参照してください。
スタティック ルーティングのライセンス要件
次の表に、この機能のライセンス要件を示します。
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NX-OS |
スタティック ルーティングにライセンスは不要です。ライセンス パッケージに含まれていない機能は、Cisco NX-OS システム イメージにバンドルされて提供されます。追加料金は発生しません。NX-OS ライセンス方式の詳細については、『 Cisco NX-OS Licensing Guide 』を参照してください。 |
スタティック ルーティングの前提条件
スタティック ルーティングの前提条件は、次のとおりです。
• スタティック ルートのネクストホップ アドレスが到達不能な場合、そのスタティック ルートはユニキャスト ルーティング テーブルに追加されません。
注意事項および制約事項
スタティック ルーティングに関する注意事項および制約事項は、次のとおりです。
• スタティック ルートのネクストホップ アドレスとしてインターフェイスを指定できるのは、GRE トンネルなどのポイントツーポイント インターフェイスの場合に限られます。
スタティック ルーティングの設定
ここでは、次の内容について説明します。
• 「スタティック ルートの設定」
(注) Cisco IOS の CLI に慣れている場合、この機能に対応する Cisco NX-OS コマンドは通常使用する Cisco IOS コマンドと異なる場合があるので注意してください。
スタティック ルートの設定
ルータ上でスタティック ルートを設定できます。
準備作業
正しい VDC を使用していることを確認します(または switchto vdc コマンドを使用します)。
手順概要
1. config t
2. ip route { ip-prefix | ip-addr ip-mask } { next-hop | nh-prefix | interface } [ tag tag-value [ pref ]
または
3. ipv6 route ip6-prefix { { next-hop | nh-prefix } | interface | { link-local interface }} [ pref ]
4. show { ip | ipv6 } static-route
5. copy running-config startup-config
手順詳細
|
|
ステップ 1 |
config t
switch# config t switch(config)# |
コンフィギュレーション モードを開始します。 |
ステップ 2 |
ip route { ip-prefix | ip-addr ip-mask } { next-hop | nh-prefix | interface } [ tag t ag-value [ pref ]
switch(config)# ip route 192.0.2.0/8 ethernet 1/2 |
スタティック ルートおよびこのスタティック ルート用のインターフェイスを設定します。任意でネクストホップ アドレスを設定できます。 preference 値で管理ディスタンスを設定します。有効値の範囲は 1 ~ 255 であり、デフォルトは 1 です。 |
ipv6 route { ip6-prefix { { next-hop | nh-prefix } | interface |{ link-local interface }} [ pref ]
switch(config)# ipv6 route 2001:0DB8::/48 ethernet 1/2 |
スタティック ルートおよびこのスタティック ルート用のインターフェイスを設定します。任意でネクストホップ アドレスを設定できます。 preference 値で管理ディスタンスを設定します。有効値の範囲は 1 ~ 255 であり、デフォルトは 1 です。 |
ステップ 3 |
show { ip | ipv6 } static-route
switch(config)# show ip static-route |
(任意)スタティック ルート情報を表示します。 |
ステップ 4 |
switch(config)# copy running-config startup-config |
(任意)この設定変更を保存します。 |
スタティック ルートの設定例を示します。
switch# config t
switch(config)# ip route 192.0.2.0/8 192.0.2.10
switch(config)# copy running-config startup-config
スタティック ルートを削除するには、 no { ip | ipv6 } static-route コマンドを使用します。
仮想化の設定
VRF でスタティック ルートを設定できます。
準備作業
正しい VDC を使用していることを確認します(または switchto vdc コマンドを使用します)。
手順概要
1. config t
2. vrf context vrf-name
3. ip route { ip-prefix | ip-addr ip-mask } { next-hop | nh-prefix | interface } [ tag tag-value [ pref ]
または
4. ipv6 route ip6-prefix { { next-hop | nh-prefix } | interface | { link-local interface }} [ pref ]
5. show { ip | ipv6 } static-route vrf vrf-nam e
6. copy running-config startup-config
手順詳細
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|
ステップ 1 |
config t
switch# config t switch(config)# |
コンフィギュレーション モードを開始します。 |
ステップ 2 |
vrf context vrf-name
switch(config)# vrf context StaticVrf |
VRF を作成し、VRF コンフィギュレーション モードを開始します。 |
ステップ 3 |
ip route { ip-prefix | ip-addr ip-mask } { next-hop | nh-prefix | interface } [ tag t ag-value [ pref ]
switch(config-vrf)# ip route 192.0.2.0/8 ethernet 1/2 |
スタティック ルートおよびこのスタティック ルート用のインターフェイスを設定します。任意でネクストホップ アドレスを設定できます。 preference 値で管理ディスタンスを設定します。有効値の範囲は 1 ~ 255 であり、デフォルトは 1 です。 |
ipv6 route { ip6-prefix { { next-hop | nh-prefix } | interface |{ link-local interface }} [ pref ]
switch(config-vrf)# ipv6 route 2001:0DB8::/48 ethernet 1/2 |
スタティック ルートおよびこのスタティック ルート用のインターフェイスを設定します。任意でネクストホップ アドレスを設定できます。 preference 値で管理ディスタンスを設定します。有効値の範囲は 1 ~ 255 であり、デフォルトは 1 です。 |
ステップ 4 |
show { ip | ipv6 } static-route vrf vrf-name
switch(config-vrf)# show ip static-route |
(任意)スタティック ルート情報を表示します。 |
ステップ 5 |
copy running-config startup-config
switch(config-vrf)# copy running-config startup-config |
(任意)この設定変更を保存します。 |
スタティック ルートの設定例を示します。
switch# config t
switch(config)# vrf context StaticVrf
switch(config-vrf)# ip route 192.0.2.0/8 192.0.2.10
switch(config-vrf)# copy running-config startup-config
スタティック ルーティングの設定確認
設定情報を表示するには、次のコマンドを使用します。
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|
show ip static-route |
設定されているスタティック ルートを表示します。 |
show ipv6 static-route vrf vrf-name |
VRF 単位のスタティック ルート情報を表示します。 |
show ipv6 static-route |
設定されているスタティック ルートを表示します。 |
スタティック ルーティングの設定例
スタティック ルーティングの設定例を示します。
config t
ip route 192.0.2.0/8 192.0.2.10
copy running-config startup-config
デフォルト設定
表12-1 に、スタティック ルーティング パラメータのデフォルト設定を示します。
表12-1 デフォルトのスタティック ルーティング パラメータ
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管理ディスタンス |
1 |
RIP 機能 |
ディセーブル |
その他の関連資料
スタティック ルーティングの実装に関連する詳細情報については、次の項を参照してください。
• 「関連資料」
関連資料
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スタティック ルーティング CLI |
『 Cisco NX-OS Unicast Routing Command Line Reference 』 |
VDC |
『 Cisco NX-OS Virtual Device Contexts Configuration Guide 』 |