ポリシーベース ルーティングの概要
ポリシーベース ルーティングを使用すると、トラフィック フローに定義済みのポリシーを設定し、ルーティング プロトコルから派生したルートへの依存を弱めることができます。ポリシーベース ルーティングがイネーブルのインターフェイスで受信するすべてのパケットは、拡張パケット フィルタまたは ルート マップ を経由して渡されます。ルート マップでは、パケットの転送先を決定するポリシーを記述します。
ルート マップは match 文および set 文からなり、許可または拒否を指定できます。文の解釈は次のとおりです。
• パケットがあらゆるルート マップと一致する match 文の場合、すべての set 文が適用されます。そのアクションの 1 つに、ネクストホップの選択が含まれます。
• 文に拒否が指定されている場合、一致基準を満たすパケットは標準のフォワーディング チャネルを通じて送り返され、宛先ベース ルーティングが実行されます。
• 文に許可が指定されていて、なおかつパケットがルート マップ文と一致しない場合、パケットは標準のフォワーディング チャネルを通じて送り返され、宛先ベース ルーティングが実行されます。
「ルート マップ」を参照してください。
ポリシーベース ルーティングには、次の機能が含まれます。
• 送信元ベース ルーティング ― 異なるユーザ セットを起点とするトラフィックをポリシー ルータ上のそれぞれ異なる接続を使用してルーティングします。
• QoS(Quality of Service) ― ネットワークの周辺で IP パケット ヘッダーに優先または ToS(タイプ オブ サービス)値を設定することによって、またはキューイング メカニズムを利用して、ネットワークのコアまたはバックボーンでトラフィックにプライオリティを設定することによって、トラフィックを差別化します(『 Cisco NX-OS Quality of Service Configuration Guide 』Release 4.0 を参照)。
• ロード シェアリング ― トラフィックの特性に基づいて、複数のパスにトラフィックを分散します。
ここでは、次の内容について説明します。
• 「ポリシー ルート マップ」
• 「ポリシーベース ルーティングの set 基準」
ポリシー ルート マップ
ルート マップの各エントリで、match および set 文のコンビネーションを指定します。match 文では、該当するパケットが特定のポリシーを満たす基準(すなわち、満たすべき条件)を定義します。set 文節で、match 基準を満たしたパケットをどのようにルーティングするかを説明します。
ルート マップ文を許可または拒否として指定できます。文に拒否が指定されている場合、一致基準を満たすパケットは標準のフォワーディング チャネルを通じて送り返されます(宛先ベース ルーティングが実行されます)。文に許可が指定されていて、なおかつパケットが一致基準を満たしている場合は、すべての set 文節が適用されます。文に許可が指定されていて、なおかつパケットが一致基準を満たしていない場合は、それらのパケットも標準のルーティング チャネルを通じて転送されます。
(注) ポリシー ルーティングは、パケットの送信元となるインターフェイスではなく、パケットを受信するインターフェイス上で指定します。
ポリシーベース ルーティングの set 基準
ルート マップの set 基準は、ルート マップに指定された順番で評価されます。ポリシーベース ルーティング用のルート マップに固有の set 基準は、次のとおりです。
1. パケットを通過させてルーティングできるインターフェイスのリスト ― 複数のインターフェイスを指定した場合は、最初にアップとして検出されたインターフェイスがパケット転送に使用されます。
2. 指定 IP アドレスのリスト ― IP アドレスでは、パケットの転送先である宛先へのパス上の隣接ネクストホップ ルータを指定できます。その時点でアップの接続インターフェイスに関連付けられた最初の IP アドレスがパケットのルーティングに使用されます。
3. デフォルト インターフェイス リスト ― ポリシー ルーティング対象とされるパケットの宛先アドレスに使用できる明示的ルートがない場合は、ルート マップによって、指定デフォルト インターフェイス リストで最初にアップだったインターフェイスにパケットがルーティングされます。
4. デフォルト ネクストホップ IP アドレスのリスト ― ルーティング テーブルに、パケットの宛先アドレスに対応する明示的ルートがない場合は、この set 文で指定されたインターフェイスまたはネクストホップ アドレスだけにルーティングされます。
パケットが定義された一致基準のいずれにも一致しない場合、そのパケットは標準の宛先ベース ルーティング プロセスを使用してルーティングされます。
ポリシーベース ルーティングのライセンス要件
次の表に、この機能のライセンス要件を示します。
|
|
NX-OS |
ポリシーベース ルーティングには Enterprise Services ライセンスが必要です。NX-OS ライセンス方式の詳細、ライセンスを取得して適用する方法については、『 Cisco NX-OS Licensing Guide 』を参照してください。 |
ポリシーベース ルーティングの前提条件
ポリシーベース ルーティングの前提条件は、次のとおりです。
• 有効なライセンスをインストールします。
• ポリシーベース ルーティング機能をイネーブルにする必要があります(ポリシーベース ルーティング機能のイネーブル化を参照)。
• インターフェイスに IP アドレスを割り当て、インターフェイスをアップにしてから、ポリシーベース ルーティング用のルート マップをインターフェイス上で適用します。
• VDC を設定する場合は、Advanced Services ライセンスをインストールし、所定の VDCを開始してください(『 Cisco NX-OS Virtual Device Context Configuration Guide 』を参照)。
注意事項および制約事項
ポリシーベース ルーティングに関する注意事項および制約事項は、次のとおりです。
• ポリシーベース ルーティングのルート マップに指定できるルート マップ エントリ(match および set を指定)は 1 つだけです。
• ポリシーベース ルーティングのルート マップでは、ルート マップ エントリに複数の match および set コマンドを指定することはできません。
• match コマンドで、ポリシーベース ルーティング用ルート マップの複数の ACL を参照することはできません。
• インターフェイスが同じ VRF に所属している場合は、ポリシーベース ルーティング対応のさまざまなインターフェイス間で、同じルート マップを共有できます。
ポリシーベース ルーティングの設定
ここでは、次の内容について説明します。
• 「ポリシーベース ルーティング機能のイネーブル化」
• 「ルート ポリシーの設定」
(注) Cisco IOS の CLI に慣れている場合、この機能に対応する Cisco NX-OS コマンドは通常使用する Cisco IOS コマンドと異なる場合があるので注意してください。
ポリシーベース ルーティング機能のイネーブル化
ルート ポリシーを設定する前に、ポリシーベース ルーティング機能をイネーブルにしておく必要があります。
準備作業
正しい VDC を使用していることを確認します(または switchto vdc コマンドを使用します)。
手順概要
1. config t
2. feature pbr
3. copy running-config startup-config
手順詳細
|
|
ステップ 1 |
config t
switch# config t switch(config)# |
コンフィギュレーション モードを開始します。 |
ステップ 2 |
feature pbr
switch(config)# feature pbr |
ポリシーベース ルーティング機能をイネーブルにします。 |
ステップ 3 |
copy running-config startup-config
switch(config)# copy running-config startup-config |
(任意)この設定変更を保存します。 |
ポリシーベース ルーティング機能をディセーブルにして、関連するすべての設定を削除する場合は、 no feature pbr コマンドを使用します。
|
|
no feature pbr
switch(config)# no feature pbr |
ポリシーベース ルーティング機能をディセーブルにして、関連するすべての設定を削除します。 |
ルート ポリシーの設定
ポリシーベース ルーティングでルート マップを使用すると、着信インターフェイスにルーティング ポリシーを割り当てることができます。「ルート マップの設定」を参照してください。
手順概要
1. config t
2. interface type slot/port
3. ip policy route-map map - name
または
4. ipv6 policy route-map map - nam
5. exit
6. copy running-config startup-config
手順詳細
|
|
ステップ 1 |
config t
switch# config t switch(config)# |
コンフィギュレーション モードを開始します。 |
ステップ 2 |
interface type slot/port
switch(config)# interface ethernet 1/2 switch(config-if)# |
インターフェイス コンフィギュレーション モードを開始します。 |
ステップ 3 |
ip policy route-map map-name
switch(config-if)# ip policy route-map Testmap |
IPv4 ポリシーベース ルーティング用のルート マップをインターフェイスに割り当てます。 |
ipv6 policy route-map map-name
switch(config-if)# ipv6 policy route-map TestIPv6map |
IPv6 ポリシーベース ルーティング用のルート マップをインターフェイスに割り当てます。 |
ステップ 4 |
exit
switch(config-route-map)# exit |
(任意)ルート マップ コンフィギュレーション モードを終了します。 |
ステップ 5 |
exit
switch(config)# exit |
(任意)ルート マップ コンフィギュレーション モードを終了します。 |
ステップ 6 |
copy running-config startup-config
switch# copy running-config startup-config |
(任意)この設定変更を保存します。 |
インターフェイスにルート マップを追加する例を示します。
switch# config t
switch(config)# interface ethernet 1/2
switch(config-if)# ip policy route-map Testmap
switch(config)# exit
switch(config)# copy running-config startup-config
ルート マップ コンフィギュレーション モードで、オプションとして、ルート マップに次の match パラメータを設定できます。
|
|
match ip address access-list-name name [ name... ]
switch(config-route-map)# match ip address access-list-name ACL1 |
1 つまたは複数の IP ACL(アクセス コントロール リスト)に対して IPv4 アドレスを照合します。このコマンドはポリシーベース ルーティング用であり、ルート フィルタリングまたは再配布では無視されます。 |
match ipv6 address access-list-name name [ name ... ]
switch(config-route-map)# match ipv6 address access-list-name ACLv6 |
1 つまたは複数の IPv6 ACL に対して IPv6 アドレスを照合します。このコマンドはポリシーベース ルーティング用であり、ルート フィルタリングまたは再配布では無視されます。 |
match length min max
switch(config-route-map)# match length 64 1500 |
パケット長と照合します。このコマンドはポリシーベース ルーティング用です。 |
ルート マップ コンフィギュレーション モードで、オプションとして、ルート マップに次の set パラメータを設定できます。
|
|
set interface ifname -1 [ ifname-2... ]
switch(config-route-map)# set interface ethernet 1/2 |
ポリシーベース ルーティング対応として出力パケット インターフェイスを設定します。 ifname-1 が動作可能ではない場合、 ifname-2 など、設定されているオプション インターフェイスの 1 つが使用されます。 |
set default interface ifname -1 [ ifname-2... ]
switch(config-route-map)# set default interface ethernet 2/2 |
宛先への明示的ルートがない場合に使用する、ポリシーベース ルーティング用の出力パケット インターフェイスを設定します。 ifname-1 が動作可能ではない場合、 ifname-2 など、設定されているオプション インターフェイスの 1 つが使用されます。 |
set ip next-hop address1 [ address2... ]
switch(config-route-map)# set ip next-hop 209.0.2.1 |
ポリシーベース ルーティング用の IPv4 ネクストホップ アドレスを設定します。このコマンドでは、複数のアドレスが設定されている場合に、最初の有効なネクストホップ アドレスが使用されます。 |
set ip default next-hop address1 [ address2... ]
switch(config-route-map)# set ip default next-hop 209.0.2.2 |
宛先への明示的ルートがない場合に使用する、ポリシーベース ルーティング用の IPv4 ネクストホップ アドレスを設定します。このコマンドでは、複数のアドレスが設定されている場合に、最初の有効なネクストホップ アドレスが使用されます。 |
set ipv6 next-hop address1 [ address2... ]
switch(config-route-map)# set ipv6 next-hop 2001:0DB8::1 |
ポリシーベース ルーティング用の IPv6 ネクストホップ アドレスを設定します。このコマンドでは、複数のアドレスが設定されている場合に、最初の有効なネクストホップ アドレスが使用されます。 |
set ipv6 default next-hop address1 [ address2... ]
switch(config-route-map)# set ipv6 default next-hop 2001:0DB8::2 |
宛先への明示的ルートがない場合に使用する、ポリシーベース ルーティング用の IPv6 ネクストホップ アドレスを設定します。このコマンドでは、複数のアドレスが設定されている場合に、最初の有効なネクストホップ アドレスが使用されます。 |
set vrf vrf-name
switch(config-route-map)# set vrf MainVRF |
ネクストホップ解決用の Virtual Routing and Forwarding(VRF)を設定します。 |
Cisco NX-OS はネクストホップおよびインターフェイスを検出すると、ただちにパケットをルーティングします。
ポリシーベース ルーティングの設定確認
ポリシーベース ルーティングを確認するには、 show ip policy コマンドを使用します。
ポリシー統計をイネーブルにするには、 route-map map-name pbr-statistics を使用します。ポリシー統計を表示するには、 show route-map map-name pbr-statistics を使用します。ポリシー統計を消去するには、 clear route-map map-name pbr-statistics を使用します。
ポリシーベース ルーティングの設定例
インターフェイス上で単純なルート ポリシーを設定する例を示します。
access-list 1 permit ip 209.0.2.1
ip policy route-map equal-access
route-map equal-access permit 10
set ip default next-hop 209.0.2.10
デフォルト設定
表15-1 に、ポリシーベース ルーティング パラメータのデフォルト設定を示します。
表15-1 デフォルトのポリシーベース ルーティング パラメータ
|
|
ポリシーベース ルーティング |
ディセーブル |
その他の関連資料
IP の実装に関連する詳細情報については、次の項を参照してください。
• 「関連資料」
• 「規格」
関連資料
|
|
ポリシーベース ルーティング CLI コマンド |
『 Cisco NX-OS Command Line Reference 』 |
VDC および VRF |
『 Cisco NX-OS Virtual Device Contexts Configuration Guide 』 |
規格
|
|
この機能がサポートする新しい規格または変更された規格はありません。また、この機能で変更された既存規格のサポートはありません。 |
-- |