保留音楽(MOH)
Music On Hold(MOH; 保留音楽)は、Cisco CME システム内の電話機によって保留された PSTN および VoIP G.711 の発信者に対して再生されるオーディオ ストリームです。このオーディオ ストリームは、まだコールに接続されていることを発信者に知らせることを目的としています。MOH は、他の Cisco CME 電話機で保留中のローカル Cisco CME 電話機に対しては再生されません。これらのパーティに対しては、断続的に繰り返されるトーンが再生されます。
MOH に使用されるオーディオ ストリームは、2 つのソース(オーディオ ファイルまたはライブ フィード)のいずれかから得られます。同時に両方のソースが Cisco CME ルータに設定されている場合、Cisco CME ルータは最初にライブ フィードを検索します。ライブ フィードが検出されると、オーディオ ファイル ソースはそれに置き換えられます。ライブ フィードが検出されない場合やある時点で検出に失敗した場合、ルータは設定時に MOH に対して指定されたオーディオ ファイル ソースにフォール バックします。
また、MOH オーディオ ストリームがマルチキャスト ソースとして識別された場合、Cisco CME ルータは、設定時に指定された Cisco CME ルータの物理 IP インターフェイスでもストリームを送信します。そのため、外部デバイスがストリームにアクセスできるようになります。
オーディオ ファイルの MOH オーディオ ストリームは、ルータのフラッシュ メモリ内にある .au ファイルまたは .wav ファイルから提供されます。ライブ フィードの MOH オーディオ ストリームは、FXO または「Ear and Mouth」(E&M)アナログ音声ポートを介してルータに直接接続された標準回線レベルのオーディオ接続から提供されます。一般に、ライブ フィード機能は CD ジュークボックス プレーヤーに接続するために使用されます。システムごとにサポートされるライブ MOH フィードは 1 つだけです。
MOH の設定については、次の項で説明します。
• 「オーディオ ファイルからの MOH の設定」
• 「ライブ フィードからの MOH の設定」
オーディオ ファイルからの MOH の設定
この項では、ファイルを使用してオーディオ ストリームを提供している場合の MOH の設定方法について説明します。また、オプションで、このオーディオ ストリームがルータ インターフェイス上でマルチキャストになるように指定することもできます。
オーディオ ファイルの MOH とライブ フィードの MOH の両方が Cisco CME ルータに設定されている場合、Cisco CME ルータは最初にライブ フィードを検索します。ライブ フィードが検出されると、オーディオ ファイル ソースはそれに置き換えられます。ライブ フィードが検出されない場合やある時点で検出に失敗した場合、ルータはオーディオ ファイル ソースにフォールバックします。
オーディオ ファイルを別のファイルに変更するには、次の例に示されているように、 no moh コマンドを使用して最初のファイルを削除してから、2 番目のファイルを指定する必要があります。
Router(config-telephony-service)# no moh file1
Router(config-telephony-service)# moh file2
最初のファイルを削除せずに 2 番目のファイルを設定すると、MOH メカニズムは機能しなくなります。この問題を解決するためにルータのリブートが必要になる場合があります。
前提条件
音楽ファイルは、ルータのフラッシュ メモリに格納する必要があります。また、G.711 形式にする必要があります。.au または .wav のファイル形式にすることもできますが、たとえば、Consultative Committee for International Telegraph and Telephone(CCITT; 国際電信電話諮問委員会)の a-law データ形式や mu-law データ形式など、8 ビット 8kHz のデータが含まれるファイル形式にする必要があります。
制約事項
• MOH は、PSTN コールおよび VoIP G.711 コールに対してのみ提供されます。ローカル IP Phone の発信者には、まだ接続中であることを知らせるために、保留中に反復トーンが再生されます。
• IP Phone は、224.x.x.x アドレスでのマルチキャストをサポートしていません。
要約手順
1. telephony-service
2. moh filename
3. multicast moh ip-address port port-number [ route ip-address-list ]
4. exit
詳細手順
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ステップ 1 |
telephony-service
Router(config)# telephony-service |
telephony-service 設定モードを開始します。 |
ステップ 2 |
moh filename
Router(config-telephony-service)# moh minuet.au |
指定されたファイルを使用して MOH を設定します。 • filename :MOH のオーディオ ストリームのソース
(注) このコマンドでファイル名を指定し、その後、別のファイルを使用する場合は、no moh コマンドで最初のファイルの使用を無効にした後に、別のファイルを設定する必要があります。
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ステップ 3 |
multicast moh ip-address port port-number [ route ip-address-list ]
Router(config-telephony-service)# multicast moh 239.10.16.4 port 2123 route 10.10.29.17 10.10.29.33 |
(オプション)MOH オーディオ ストリームを既定のマルチキャストとしても指定します。 • ip-address :MOH だけでなくマルチキャストに対してもこのオーディオ ストリームを使用することを示し、マルチキャスト用の宛先 IP アドレスを指定します。 • port port-number :マルチキャストのメディア ポート。値の範囲は 2000 ~ 65535 です。ポート 2000 を推奨します。ポート 2000 は、IP Phone とルータ間の標準 Rapid Transport Protocol(RTP; 敏速移送プロトコル)メディア伝送にすでに使用されているためです。 • route :(オプション)IP マルチキャスト パケットを送信する明示的なルータ インターフェイスのリストを指定します。 • ip-address-list :(オプション)マルチキャスト MOH の最大 4 つの明示的なルートのリスト。デフォルトでは、 ip source-address コマンドで設定されたアドレスに対応するインターフェイスで MOH マルチキャスト ストリームが自動的に出力されます。 |
ステップ 4 |
exit
Router(config-telephony-service)# exit |
telephony-service 設定モードを終了します。 |
例
次の例では、MOH を有効にし、使用する音楽ファイルを指定します。
次の例では、MOH を有効にし、オーディオ ストリーム用のマルチキャスト アドレスを追加指定します。
multicast moh 239.23.4.10 port 2000
ライブ フィードからの MOH の設定
ライブ フィードから MOH を設定するには、コールの音声ポートとダイヤルピアを設定し、「ダミー」の ephone-dn を作成します。ephone-dn には、コールを送受信できるように電話番号または内線番号を割り当てる必要がありますが、この番号は物理的な電話には割り当てられません。
アナログ E&M ポートには最小限の外部コンポーネントがあればよいので、ライブ フィード MOH 用のインターフェイスにはアナログ E&M ポートを推奨します。回線レベルのオーディオ フィード(標準オーディオ ジャック)を E&M RJ-45 コネクタのピン 3 と 6 に直接接続します。E&M WAN Interface Card(WIC; WAN インターフェイス カード)には、外部オーディオ ソースに対して適切な電気的遮蔽を提供する音声周波変圧器が内蔵されています(E&M ポートでのオーディオ接続には、ループ電流は必要ありません)。 signal immediate コマンドと auto-cut-through コマンドは、この音声ポートの E&M シグナリングを無効にします。G.711 オーディオ パケット ストリームは、E&M ポートの Digital Signal Processor(DSP; デジタル信号プロセッサ)によって生成されます。
ライブ フィード MOH に E&M ポートではなく FXO 音声ポートを使用している場合は、MOH ソースを FXO 音声ポートに接続します。この接続には、通常の telephone company(telco; 電話会社)のバッテリー電圧に対して、FXO ポートのチップ リード線とリング リード線への正しい極性を提供するための外部アダプターが必要です。また、アダプターは、外部オーディオ ソースと FXO ポートのチップ リード線およびリング リード線との間で変圧器ベースの遮蔽を提供する必要があります。
ライブ フィードからの音楽は、フラッシュ ファイルから読み取られるのではなく、MOH 再生バッファに送り続けられるので、通常は 2 秒の遅延が生じます。MOH 用に設定された電話番号で接続が確立されるまで、MOH ライブ フィード ソースへの発信コールが 30 秒おきに試行(または再試行)されます。ライブ フィード ソースが何らかの理由でシャットダウンされると、フラッシュ メモリ ソースが自動的にアクティブになります。
ライブ フィード MOH 接続は、自動的に接続される音声コールとして確立されます。この音声コールは、Cisco CME MOH システム自体によって生成されるか、または、ライブ フィード MOH ポートに直接発信する外部ソースによって生成されます。MOH コールの送受信は、PSTN を介して行うことができます。あるいは、Voice Activity Detection(VAD; 音声アクティビティ検出)を無効にした状態で VoIP を介して行うこともできます。このコールは、設定時に moh コマンドでオプションの out-call キーワードを使用しない限り、受信コールと見なされます。
Cisco CME ルータは、コールからのオーディオ ストリームを MOH ストリームのソースとして使用し、フラッシュ ファイルから入手できるオーディオ ストリームをすべてそれに置き換えます。着信コールを介して受信される MOH ストリームの例としては、ephone-dn を呼び出して Cisco CME ルータにオーディオ ストリームを配信する外部 H.323 ベースのサーバ デバイスがあります。
制約事項
• バッテリー フィードを提供する外部サードパーティのアダプターが FXO ポートに用意されている場合は、FXO ポートをライブ フィードに使用できます。
• Foreign Exchange Station(FXS)ポートをライブ フィードに使用することはできません。
• VoIP からのライブ フィードの場合は、VAD を無効にする必要があります。
• MOH は、PSTN コールおよび VoIP G.711 コールに対してのみ提供されます。ローカル IP Phone の発信者には、まだ接続中であることを知らせるために、保留中に反復トーンが再生されます。
要約手順
1. voice-port port
2. input gain decibels
3. auto-cut-through (E&M のみ)
4. operation 4-wire (E&M のみ)
5. signal immediate (E&M のみ)
6. exit
7. dial peer voice tag pots
8. destination-pattern string
9. port port
10. exit
11. ephone-dn dn-tag
12. number number
13. moh [ out-call outcall-number ] [ ip ip-address port port-number [ route ip-address-list ]]
14. exit
詳細手順
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ステップ 1 |
voice-port port
Router(config)# voice-port 1/1/0 |
voice-port 設定モードを開始します。ご使用のルータの port 引数の正確な定義については、『 Cisco IOS Voice Command Reference , Release 12.2 T』を参照してください。 |
ステップ 2 |
input gain decibels
Router(config-voice-port)# input gain 0 |
インターフェイスの受信側に挿入するゲインの量をデシベルで指定します。許容値は -6 ~ 14 の整数です。 |
ステップ 3 |
auto-cut-through
Router(config-voice-port)# auto-cut-through |
(E&M ポートのみ)PBX が M リード線の応答を提供しない場合にコールの完了を有効にします。MOH では、E&M ポートでこのコマンドを使用する必要があります。 |
ステップ 4 |
operation 4-wire
Router(config-voice-port)# operation 4-wire
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(E&M ポートのみ)4 線式のケーブル接続方式を選択します。MOH では、このコマンドで E&M ポートに対して 4 線式のオペレーションを指定する必要があります。 |
ステップ 5 |
signal immediate
Router(config-voice-port)# signal immediate |
(E&M ポートのみ)E&M タイ トランク インターフェイスの場合、発信側に対して、E リード線をオフフックにして回線を確保し、アドレス情報を DTMF ディジットとして送信するように指示します。 |
ステップ 6 |
exit
Router(config-voice-port)# exit |
voice-port 設定モードを終了します。 |
ステップ 7 |
dial peer voice tag pots
Router(config)# dial peer voice 7777 pots |
dial-peer 設定モードを開始します。 |
ステップ 8 |
destination-pattern string
Router(config-dial-peer)# destination-pattern 7777 |
ダイヤルピアに使用するプレフィックスまたは完全な E.164 の電話番号を指定します。 |
ステップ 9 |
port port
Router(config-dial-peer)# port 1/1/0 |
ステップ 1 で指定した音声ポートにダイヤルピアを関連付けます。 |
ステップ 10 |
exit
Router(config-dial-peer)# exit |
dial-peer 設定モードを終了します。 |
ステップ 11 |
ephone-dn dn-tag
Router(config)# ephone-dn 55 |
ephone-dn 設定モードを開始します。 • dn-tag :この ephone-dn を設定作業時に識別する固有のシーケンス番号。値の範囲は 1 ~ 288 です。 |
ステップ 12 |
number number
Router(config-ephone-dn)# number 5555 |
この ephone-dn インスタンスの有効な内線番号を設定します。この番号は電話機には割り当てられません。これは、MOH に使用するオーディオ ストリームが含まれるコールを送受信するためにだけ使用されます。 • number :この ephone-dn に関連付ける電話番号または内線番号を表す最大 16 桁の数字列。 |
ステップ 13 |
moh [ out-call outcall-number ] [ ip ip-address port port-number [ route ip-address-list ]]
Router(config-ephone-dn)# moh out-call 7777 ip 239.10.16.8 port 2311 route 10.10.29.3 10.10.29.45 |
MOH ストリームのソースとなる着信コールまたは発信コールにこの ephone-dn を使用することを指定します。 out-call キーワードを指定せずにこのコマンドを使用した場合、MOH ストリームは着信コールから受信されます。 • out-call outcall-number :(オプション)MOH に使用されるライブ フィードにルータが発信することを示し、発信先の番号を指定します。ステップ 1 で指定したローカル ルータの音声ポートに強制的に接続されます。 • ip ip-address :(オプション)MOH だけでなくマルチキャスト ソースとしてもこのオーディオ ストリームを使用することを示し、マルチキャスト用の宛先 IP アドレスを指定します。
(注) このコマンドでマルチキャスト アドレスを指定し、telephony-service 設定モードの multicast moh コマンドで別のマルチキャスト アドレスを指定すると、MOH オーディオ ストリームを 2 つのマルチキャスト アドレスに送信できます。
• port port-number :(オプション)マルチキャストのメディア ポート。値の範囲は 2000 ~ 65535 です。ポート 2000 を推奨します。ポート 2000 は、IP Phone とルータ間の RTP メディア伝送にすでに使用されているためです。 • route ip-address-list :(オプション)IP マルチキャスト パケットを送信する特定のルータ インターフェイスを指定します。最大 4 つの IP アドレスを指定できます。デフォルトでは、 ip source-address コマンドで設定されたアドレスに対応するインターフェイスで MOH マルチキャスト ストリームが自動的に出力されます。 |
ステップ 14 |
exit
Router(config-ephone-dn)# exit |
ephone-dn 設定モードを終了します。 |
例
次の例では、音声ポート 1/1/0 およびダイヤルピア 7777 で発信コールからの MOH を有効にします。
dial-peer voice 7777 pots
トラブルシューティングのヒント
次のコマンドは、ライブ フィード MOH のトラブルシューティングに役立ちます。
• debug ephone moh
• show ephone summary :このコマンドは、 debug ephone moh コマンドが有効になっている場合に拡張出力を提供します。