Cisco IE 3000 スイッチ ソフトウェア コンフィギュ レーション ガイド,12.2(55)SE

HSRP バージョン

スイッチでは、次の Hot Standby Router Protocol（HSRP; ホット スタンバイ ルータ プロトコル）のバージョンがサポートされます。

• HSRPv1：HSRP のバージョン 1 で、HSRP のデフォルト バージョンです。このバージョンの特徴は次のとおりです。

– 使用できる HSRP グループ番号は 0 ～ 255 までです。

– HSRPv1 は、マルチキャスト アドレス 224.0.0.2 を使用して hello パケットを送信します。これは、Cisco Group Management Protocol（CGMP）の脱退処理と競合する場合があります。HSRPv1 と CGMP は相互に排他的であるため、同時にイネーブルにはできません。

• HSRPv2：HSRP のバージョン 2 です。このバージョンの特徴は次のとおりです。

– HSRPv2 では、HSRP グループ番号とサブインターフェイスの VLAN ID を一致させるために、0 ～ 4095 のグループ番号と 0000.0C9F.F000 ～ 0000.0C9F.FFFF の MAC アドレスを使用できます。

– HSRPv2 は、マルチキャスト アドレス 224.0.0.102 を使用して hello パケットを送信します。HSRPv2 と CGMP の脱退処理は相互に排他的でないため、同時にイネーブルにすることができます。

– HSRPv2 のパケット形式は HSRPv1 とは異なります。

HSRPv1 を実行しているスイッチは、ルータの送信元 MAC アドレスが仮想 MAC アドレスであるため、hello パケットを送信した物理的なルータを特定できません

HSRPv2 のパケット形式は HSRPv1 とは異なります。HSRPv2 パケットは Type Length Value（TLV）形式で、パケットを送信した物理ルータの MAC アドレスを格納する 6 バイトの識別子フィールドがあります。

HSRPv1 を実行しているインターフェイスが HSRPv2 パケットを取得した場合、このタイプ フィールドは無視されます。

Multiple HSRP

スイッチでは、Multiple HSRP（MHSRP）がサポートされます。MHSRP は HSRP の拡張版で、複数の HSRP グループ間でのロード シェアリングが可能です。ホスト ネットワークからサーバ ネットワークにわたってロード バランシングを実現し、複数のスタンバイ グループ（およびパス）を使用するように MHSRP を設定できます。図 45-2 では、半分のクライアントがルータ A 用に、もう半分がルータ B 用に設定されています。ルータ A およびルータ B の設定により、2 つの HSRP グループが確立されています。グループ 1 では、ルータ A に最も高いプライオリティが割り当てられているので、ルータ A がデフォルトのアクティブ ルータに、ルータ B がスタンバイ ルータになります。グループ 2 では、ルータ B に最も高いプライオリティが割り当てられているので、ルータ B がデフォルトのアクティブ ルータに、ルータ A がスタンバイ ルータになります。通常の運用では、IP トラフィックの負荷が 2 つのルータに分散されます。いずれかのルータが使用できなくなると、もう一方のルータがアクティブになり、使用できないルータのパケット転送機能を引き継ぎます。

設定手順の例については、「MHSRP の設定」を参照してください。

（注） MHSRP では、故障したルータが回復した場合にプリエンプションによってロード シェアリングが復元されるように、HSRP インターフェイスで standby preempt インターフェイス コンフィギュレーション コマンドを入力する必要があります。

図 45-2 MHSRP ロード シェアリング

HSRP のデフォルト設定

表 45-1 に、HSRP のデフォルト設定を示します。

HSRP 設定時の注意事項

HSRP を設定するときには、次の注意事項に従ってください。

• IPv4 用 HSRP と IPv6 用 HSRP は相互に排他的です。両方を同時にイネーブルにはできません。

• HSRPv2 と HSRPv1 は相互に排他的です。HSRPv2 と HSRPv1 は、同じインターフェイス上で相互運用できません。

• 最大 32 個の HSRP グループ インスタンスを設定できます。

複数のインターフェイスに同じ HSRP グループ番号を設定した場合、スイッチは各インターフェイスを 1 つのインスタンスとしてカウントします。

たとえば、VLAN 1 とポート 1 に HSRP グループ 0 を設定した場合、スイッチはこれを 2 つのインスタンスとしてカウントします。

• 設定手順では、次に示すレイヤ 3 インターフェイスの 1 つを指定する必要があります。

– ルーテッド ポート： no switchport インターフェイス コンフィギュレーション コマンドを入力することにより、レイヤ 3 ポートとして設定された物理ポートです。

– SVI： interface vlan vlan_id グローバル コンフィギュレーション コマンドによって作成された VLAN インターフェイスです。デフォルトではレイヤ 3 インターフェイスです。

– レイヤ 3 モードの EtherChannel ポート チャネル： interface port-channel port-channel-number グローバル コンフィギュレーション コマンドを使用し、イーサネット インターフェイスをチャネル グループにバインドすることによって作成されたポートチャネル論理インターフェイスです。詳細については、「レイヤ 3 EtherChannel の設定」を参照してください。

• すべてのレイヤ3 インターフェイスに IP アドレスを割り当てる必要があります。「レイヤ 3 インターフェイスの設定」を参照してください。

• FHRP のインスタンスは 1 つだけ設定します。スイッチでは、HSRPv1、HSRPv2、および IPv6 用 HSRP がサポートされます。

• HSRP グループのバージョンは、グループ番号が 255 以下の場合に限り、HSRPv2 から HSRPv1 に変更できます。

• HSRPv2 および HSRP のグループ番号を設定する場合、256 の倍数の範囲のグループ番号を使用する必要があります。有効な範囲は、0 ～ 255、256 ～ 511、512 ～ 767、3840 ～ 4095 などです。

次に、有効なグループ番号と無効なグループ番号の例を示します。

– 番号 2、150、および 225 のグループを設定した場合は、番号 3850 の別のグループを設定できません。3850 は 0 ～ 255 の範囲内ではないからです。

– 番号 520、600、および 700 のグループを設定した場合は、番号 900 の別のグループを設定できません。900 は 512 ～ 767 の範囲内ではないからです。

• インターフェイスの HSRP バージョンを変更すると、各 HSRP グループがリセットされます。各 HSRP グループに新しい MAC アドレスが割り当てられるからです。

HSRP のイネーブル化

standby ip インターフェイス コンフィギュレーション コマンドを実行すると、設定されたインターフェイスで HSRP がアクティブになります。IP アドレスを指定した場合は、その IP アドレスがホットスタンバイ グループの指定アドレスとして使用されます。IP アドレスを指定しなかった場合は、スタンバイ機能によってアドレスが学習されます。指定アドレスを持つレイヤ 3 ポートを LAN 上に 1 つ以上設定する必要があります。IP アドレスを設定した場合、その IP アドレスは、現在使用されている別の指定アドレスよりも常に優先されます。

standby ip コマンドがインターフェイス上でイネーブルになっていて、プロキシ ARP がイネーブルの場合、インターフェイスのホットスタンバイ ステートがアクティブになると、プロキシ ARP 要求に対する応答は、ホットスタンバイ グループの MAC アドレスを使用して実行されます。インターフェイスが別のステートの場合、プロキシ ARP の応答は実行されません。

レイヤ 3 インターフェイス上で HSRP を作成またはイネーブル化するには、特権 EXEC モードで次の手順を実行します。

HSRP をディセーブルにするには、 no standby [ group-number ] ip [ ip-address ] インターフェイス コンフィギュレーション コマンドを使用します。

次に、インターフェイスのグループ 1 で HSRP をアクティブにする例を示します。ホットスタンバイ グループで使用される IP アドレスは、HSRP を使用して学習されます。

（注） これは、HSRP をイネーブルにするために必要な最小限の手順です。その他の設定は任意です。

HSRP プライオリティの設定

standby priority 、 standby preempt 、および standby track の各インターフェイス コンフィギュレーション コマンドはいずれも、アクティブ ルータとスタンバイ ルータを検索するための特性や、新しいアクティブ ルータが処理を引き継いだ場合の動作を設定するために使用されます。

HSRP プライオリティを設定するときには、次の注意事項に従ってください。

• プライオリティを割り当てると、アクティブ ルータとスタンバイ ルータを選択できるようになります。プリエンプションがイネーブルの場合は、プライオリティが最も高いルータがアクティブ ルータになります。プライオリティが等しい場合、現在アクティブなルータは変更されません。

• 最も大きい数値（1 ～ 255）は、プライオリティが最も高い（アクティブ ルータになる確率が最も高い）ことを表します。

• プライオリティ、プリエンプト、またはその両方を設定するときには、少なくとも 1 つのキーワード（ priority 、 preempt 、または両方）を指定する必要があります。

• インターフェイスが standby track コマンドによって設定されている場合、ルータ上の別のインターフェイスがダウンすると、装置のプライオリティがダイナミックに変更されることがあります。

• standby track インターフェイス コンフィギュレーション コマンドを実行すると、ルータのホットスタンバイ プライオリティとインターフェイスのアベイラビリティが関連付けられます。このコマンドは、HSRP 用に設定されていないインターフェイスを追跡する場合に有効です。追跡対象のインターフェイスが故障すると、追跡が設定されている装置のホットスタンバイ プライオリティが 10 だけ減少します。インターフェイスが追跡対象でない場合は、インターフェイスのステートが変わっても、設定済み装置のホットスタンバイ プライオリティは変わりません。ホットスタンバイ用に設定されたインターフェイスごとに、追跡するインターフェイスのリストを個別に設定できます。

• standby track interface-priority インターフェイス コンフィギュレーション コマンドでは、追跡対象のインターフェイスがダウンした場合のホットスタンバイ プライオリティの減少幅を指定します。インターフェイスが回復すると、プライオリティは同じ分だけ増加します。

• interface-priority 値が設定されている場合に複数の追跡対象インターフェイスがダウンすると、設定済みプライオリティの減少幅が累積されます。プライオリティ値が設定されていない追跡対象インターフェイスが故障した場合、デフォルトの減少幅は 10 です。この値は累積されません。

• 最初にインターフェイスでルーティングをイネーブルにしたときには、インターフェイスに完全なルーティング テーブルがありません。このインターフェイスは、プリエンプトに設定されている場合はアクティブ ルータになりますが、適切なルーティング サービスは提供できません。この問題を解決するには、ルータがルーティング テーブルを更新できるように遅延時間を設定します。

インターフェイスに HSRP プライオリティ特性を設定するには、特権 EXEC モードで次の 1 つまたは複数の手順を実行します。

プライオリティ、プリエンプト、および遅延をデフォルト値に戻すには、 no standby [ group-number ] priority priority [ preempt [ delay delay ]] and no standby [ group-number ] [ priority priority ] preempt [ delay delay ] インターフェイス コンフィギュレーション コマンドを使用します。

追跡を解除するには、 no standby [ group-number ] track type number [ interface-priority ] インターフェイス コンフィギュレーション コマンドを使用します。

次に、ポートをアクティブにし、IP アドレスとプライオリティ 120（デフォルト値よりも高いプライオリティ）を設定して、アクティブ ルータになるまで 300 秒（5 分間）待機する例を示します。

MHSRP の設定

MHSRP およびロード バランシングをイネーブルにするには、2 台のルータをグループのアクティブ ルータとして設定し、仮想ルータをスタンバイ ルータとして設定します。次に、図 45-2 の MHSRP 設定をイネーブルにする例を示します。故障したルータが回復した場合にプリエンプションが発生してロード バランシングが復元されるように、各 HSRP インターフェイスで standby preempt インターフェイスコンフィギュレーション コマンドを入力する必要があります。

ルータ A はグループ 1 のアクティブ ルータとして、ルータ B はグループ 2 のアクティブ ルータとして設定されています。ルータ A の HSRP インターフェイスは、IP アドレスが 10.0.0.1 で、グループ 1 のスタンバイ プライオリティが 110（デフォルトは 100）です。ルータ B の HSRP インターフェイスは、IP アドレスが 10.0.0.2 で、グループ 2 のスタンバイ プライオリティが 110 です。

グループ 1 は仮想 IP アドレス 10.0.0.3 を使用し、グループ 2 は仮想 IP アドレス 10.0.0.4 を使用します。

ルータ A の設定

ルータ B の設定

HSRP の認証およびタイマーの設定

オプションで HSRP 認証ストリングを設定したり、hello タイムのインターバルやホールドタイムを変更することができます。

これらの属性を設定するときには、次の注意事項に従ってください。

• 認証ストリングはすべての HSRP メッセージで暗号化されずに送信されます。ケーブル上のすべてのルータとアクセス サーバに同じ認証ストリングを設定して、相互運用性を確保する必要があります。認証が一致しない場合、装置は指定されたホットスタンバイ IP アドレスとタイマー値を、HSRP が設定された他のルータから学習できません。

• スタンバイ タイマー値が設定されていないルータまたはアクセス サーバは、アクティブ ルータまたはスタンバイ ルータからタイマー値を学習できます。アクティブ ルータに設定されたタイマーは、他のタイマー設定よりも常に優先されます。

• ホットスタンバイ グループのすべてのルータで同じタイマー値を使用する必要があります。通常、 holdtime は hellotime の 3 倍以上です。

インターフェイスに HSRP の認証とタイマーを設定するには、特権 EXEC モードで次の 1 つまたは複数の手順を実行します。

認証ストリングを削除するには、 no standby [ group-number ] authentication string インターフェイス コンフィギュレーション コマンドを使用します。タイマーをデフォルト値に戻すには、 no sta ndby [ group-number ] timers hellotime holdtime インターフェイス コンフィギュレーション コマンドを使用します。

次に、グループ 1 のホットスタンバイ ルータを相互運用させるために必要な認証ストリングとして、 word を設定する例を示します。

次に、hello パケットのインターバルが 5 秒、ルータがダウンしたと見なされるまでの時間が 15 秒となるように、スタンバイ グループ 1 のタイマーを設定する例を示します。

ICMP リダイレクト メッセージの HSRP サポートのイネーブル化

Internet Control Message Protocol（ICMP; インターネット制御メッセージ プロトコル）は、エラーをレポートするためのメッセージ パケットや IP 処理に関連する他の情報を提供する、ネットワーク レイヤ インターネット プロトコルです。ICMP には、ホストヘのエラー パケットの送信や方向付けなどの診断機能があります。

スイッチで HSRP が稼動している場合は、ホストが HSRP グループ内のルータのインターフェイス（または実際の）MAC アドレスを検出しないことを確認してください。ICMP によってホストがルータの実際の MAC アドレスへリダイレクトされ、そのルータがあとで故障した場合、ホストからのパケットは消失します。

Internet Control Message Protocol（ICMP; インターネット制御メッセージ プロトコル）は、エラーをレポートするためのメッセージ パケットや IP 処理に関連する他の情報を提供する、ネットワーク レイヤ インターネット プロトコルです。ICMP には、ホストヘのエラー パケットの送信や方向付けなどの診断機能があります。

HSRP が設定されたインターフェイスでは、ICMP リダイレクト メッセージが自動的にイネーブルになります。この機能は、HSRP を介した発信 ICMP リダイレクト メッセージをフィルタリングします。このときに、ネクストホップ IP アドレスが HSRP 仮想 IP アドレスに変更される可能性があります。詳細については、『 Cisco IOS IP Configuration Guide, Release 12.2 』を参照してください。

HSRP グループおよびクラスタリングの設定

装置が HSRP スタンバイ ルーティングに参加していて、クラスタリングがイネーブルになっている場合は、同じスタンバイ グループを使用してコマンド スイッチと HSRP の冗長性を確保できます。同じ HSRP スタンバイ グループをイネーブルにして、コマンド スイッチとルーティングの冗長性を確保するために使用するには、 cluster standby-group HSRP-group-name [ routing-redundancy ] グローバル コンフィギュレーション コマンドを使用します。 routing-redundancy キーワードを指定せずに同じ HSRP スタンバイ グループ名でクラスタを作成すると、そのグループの HSRP スタンバイルーティングがディセーブルになります。

次に、スタンバイ グループ my_hsrp をクラスタにバインドし、同じ HSRP グループをイネーブルにして、コマンド スイッチとルータの冗長性を確保するために使用する例を示します。このコマンドは、クラスタ コマンド スイッチだけで実行できます。スタンバイ グループの名前または番号が存在しないか、スイッチがクラスタ メンバー スイッチである場合は、エラー メッセージが表示されます。

HSRP のトラブルシューティング

表 45-2 に示すいずれかの状況が発生した場合は、次のエラー メッセージが表示されます。