VSAN の概要
VSAN は仮想 Storage Area Network(SAN; ストレージ エリア ネットワーク)です。SANは、主に SCSI トラフィックを交換するためにホストとストレージデバイスを相互接続する専用ネットワークです。SAN では、この相互接続を行うために物理リンクを使用します。一連のプロトコルは SAN 上で実行され、ルーティング、ネーミングおよびゾーン分割を処理します。異なるトポロジで複数の SAN を設計できます。
ここでは VSAN について、次の内容を説明します。
• 「VSAN トポロジ」
• 「VSAN の利点」
• 「VSAN とゾーン」
VSAN トポロジ
VSAN を導入すると、ネットワーク管理者はスイッチ、リンク、および 1 つまたは複数の VSAN を含む単一のトポロジを構築できます。このトポロジの各 VSAN では、SAN の動作およびプロパティが同じです。VSAN には次の特性もあります。
• 複数の VSAN で同じ物理トポロジを共有できます。
• 同じ FC ID を別の VSAN 内のホストに割り当てて、VSAN のスケーラビリティを高めることができます。
• VSAN の各インスタンスは、FSPF などの必須プロトコル、ドメイン マネージャ、およびゾーン分割をすべて実行します。
• VSAN 内のファブリック関連の設定は、別の VSAN 内の関連トラフィックに影響しません。
• ある VSAN 内のトラフィック中断を引き起こしたイベントはその VSAN 内にとどまり、他の VSAN に伝搬されません。
図15-1 に、各階にスイッチが 1 つある合計 3 つのスイッチによるファブリックを示します。スイッチと接続されたデバイスの地理的な配置は、論理 VSAN のセグメンテーションには依存しません。VSAN 間では、通信が行えません。各 VSAN 内で、すべてのメンバーが相互に対話できます。
図15-1 論理 VSAN のセグメンテーション
図15-2 に、VSAN 2(点線)と VSAN 7(実線)の 2 つの定義された VSAN による物理ファイバ チャネル スイッチングのインフラストラクチャを示します。VSAN 2 には、ホスト H1 および H2、アプリケーション サーバ AS2 および AS3、およびストレージ アレイ SA1 および SA4 が含まれます。VSAN 7 は、H3、AS1、SA2、および SA3 と接続します。
アプリケーション サーバまたはストレージ アレイは、ファイバ チャネルまたは仮想ファイバ チャネル インターフェイスを使用するスイッチに接続できます。VSAN にはファイバ チャネルおよび仮想ファイバ チャネル インターフェイスを混在させることができます。
図15-2 2 つの VSAN の例
このネットワーク内の 4 つのスイッチは、VSAN 2 と VSAN 7 の両方のトラフィックを伝送する VSAN トランク リンクによって相互接続されます。各 VSAN に異なるスイッチ間トポロジを設定できます。図15-2 では、VSAN 2 および VSAN 7 のスイッチ間トポロジは同じです。
VSAN がなければ、ネットワーク管理者は、別個の SAN に対して別個のスイッチとリンクが必要になります。VSAN をイネーブルにすることによって、同一のスイッチとリンクが複数の VSAN で共有できます。VSAN では、スイッチ精度ではなく、ポート精度で SAN を作成できます。図15-2 に、VSAN が物理 SAN で定義された仮想トポロジを使用して相互に通信を行うホストまたはストレージ デバイスのグループであることを示します。
このようなグループを作成する基準は、VSAN トポロジに基づいて異なります。
• VSAN は、次の要件に基づいてトラフィックを分離できます。
–ストレージ プロバイダー データ センタの異なるお客様
–企業ネットワークの業務またはテスト
–ロー セキュリティおよびハイ セキュリティの要件
–別個の VSAN によるバックアップ トラフィック
–ユーザ トラフィックからのデータの複製
• VSAN は、特定の部門またはアプリケーションのニーズを満たすことができます。
VSAN の利点
VSAN には、次のような利点があります。
• トラフィックの分離 ― 必要に応じて、トラフィックを VSAN 境界内に含み、1 つの VSAN 内だけにデバイスを常駐させることによって、ユーザ グループ間での絶対的な分離を確保します。
• スケーラビリティ ― VSAN は、1 つの物理ファブリックの上でオーバーレイされます。複数の論理 VSAN 層を作成することによって、SAN のスケーラビリティが拡張します。
• VSAN 単位のファブリック サービス ― VSAN 単位のファブリック サービスの複製は、拡張されたスケーラビリティとアベイラビリティを提供します。
• 冗長性 ― 同一の物理 SAN で作成された複数の VSAN は、冗長性を保証します。1 つの VSAN に障害が発生した場合、ホストとデバイスの間にあるバックアップ パスによって(同一の物理 SAN の別の VSAN)に冗長保護が設定されます。
• 設定の容易さ ― SAN の物理構造を変更することなく、VSAN 間でユーザを追加、移動、または変更できます。ある VSAN から別の VSAN へデバイスを移動する場合は、物理的な設定ではなく、ポート レベルの設定だけが必要となります。
最大 256 の VSANを 1 つのスイッチに設定できます。これらの VSAN の 1つがデフォルト VSAN(VSAN 1)、もう 1 つが分離 VSAN(VSAN 4094)です。ユーザ指定の VSAN ID 範囲は 2 ~ 4093 です。
VSAN とゾーン
ゾーンは VSAN 内に常に含まれます。VSAN に複数のゾーンを定義できます。
2 つの VSAN は未接続の 2 つの SAN に相当するので、VSAN 1 のゾーン A は、VSAN 2 のゾーン A とは異なり、別個のものです。 表15-1 に、VSAN とゾーンとの相違点を示します。
表15-1 VSAN とゾーンの比較
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VSAN は、SAN とルーティング、ネーミング、およびゾーン分割プロトコルが同じです。 |
ルーティング、ネーミング、およびゾーン分割プロトコルは、ゾーン単位で利用できません。 |
VSAN は、ユニキャスト、マルチキャスト、およびブロードキャスト トラフィックを制限します。 |
ゾーンは、ユニキャスト トラフィックを制限します。 |
メンバシップは、通常 VSAN ID を使用して F ポートに定義されます。 |
メンバシップは、通常 pWWN によって定義されます。 |
HBA またはストレージ デバイスは、1 つの VSAN(F ポートに対応付けられた VSAN)だけに所属できます。 |
HBA またはストレージ デバイスは、複数のゾーンに所属できます。 |
VSAN は、各 E ポート、発信元ポート、および宛先ポートでメンバシップを実行します。 |
ゾーンは、発信元ポートおよび宛先ポートだけでメンバシップを実行します。 |
VSAN は、規模が大きい環境(ストレージ サービス プロバイダー)で定義されます。 |
ゾーンは、ゾーンの外部に表示されない発信側およびターゲットのセットで定義されます。 |
VSAN は、ファブリック全体を網羅します。 |
ゾーンは、ファブリック エッジで設定されます。 |
図15-3 に、VSAN とゾーンの可能な組み合わせを示します。VSAN 2では、ゾーン A、ゾーン B、ゾーン C の 3 つのゾーンが定義されます。ゾーン Cは、ファイバ チャネル標準に準拠してゾーン A とゾーン B にオーバーラップします。VSAN 7では、ゾーン A とゾーン D の 2 つのゾーンが定義されます。VSAN 境界を越えるゾーンはありません。VSAN 2 に定義されたゾーン A は、VSAN 7 に定義されたゾーン A と異なり、別個のものです。
図15-3 VSAN とゾーン分割
VSAN の設定
VSAN には次の属性があります。
• VSAN ID ― VSAN ID は、デフォルト VSAN(VSAN 1)、ユーザ定義の VSAN(VSAN 2 ~ 4093)、および分離された VSAN(VSAN 4094)で VSAN を識別します。
• ステート ― VSAN の管理ステートを active (デフォルト)または suspended ステートに設定できます。VSAN が作成されると、VSAN はさまざまな条件またはステートに置かれます。
–VSAN の active ステートは、VSAN が設定され、イネーブルであることを示します。VSAN をイネーブルにすることによって、VSAN のサービスをアクティブにします。
–VSAN の suspended ステートは、VSAN が設定されていて、イネーブルにされていないことを示します。この VSAN にポートが設定されている場合、ポートはディセーブルの状態です。このステートを使用して、VSAN の設定を失うことなく VSAN を非アクティブにします。suspended ステートの VSAN のすべてのポートは、ディセーブルの状態です。VSAN を suspended ステートにすることによって、ファブリック全体のすべての VSAN パラメータを事前設定し、VSAN をただちにアクティブにできます。
• VSAN 名 ― このテキスト ストリングは、管理目的で VSAN を識別します。名前は、1 ~ 32 までの文字が可能で、すべての VSAN で一意である必要があります。デフォルトでは、VSAN 名は VSAN と 4 桁ストリングの連結で VSAN ID を表します。たとえば、VSAN 3 のデフォルト名は VSAN0003 です。
(注) VSAN 名は一意のものである必要があります。
• ロード バランシング属性 ― これらの属性は、ロード バランシング パス選択に対する発信元/宛先 ID(src-dst-id)または Originator Exchange ID(OX ID)(デフォルトでは、src-dst-ox-id)の使用を示します。
ここでは、VSAN の作成および設定方法について、次の内容を説明します。
• 「VSAN 作成の概要」
• 「VSAN の静的な作成」
• 「ポート VSAN メンバシップの概要」
• 「スタティック ポート VSAN メンバシップの概要」
• 「デフォルト VSAN の概要」
• 「分離された VSAN の概要」
• 「分離された VSAN メンバシップの概要」
• 「VSAN の動作ステート」
• 「スタティック VSAN の削除の概要」
• 「スタティック VSAN の削除」
• 「ロード バランシングの概要」
• 「ロード バランシングの設定」
• 「Interop モードの概要」
VSAN 作成の概要
VSAN がアクティブで、最低 1 つのポートが起動していれば、VSAN は動作ステートにあります。このステートは、トラフィックがこの VSAN を通過できることを示します。このステートを設定することはできません。
VSAN の静的な作成
VSAN を作成する前に、VSAN に対してアプリケーション特有のパラメータを設定することはできません。
Fabric Manager を使用して VSAN を作成して設定する手順は、次のとおりです。
ステップ 1 Create VSAN アイコンをクリックします(図15-4 を参照)。
図15-4 Create VSAN アイコン
Create VSAN ダイアログボックスが表示されます(図15-5 を参照)。
図15-5 Create VSAN ダイアログボックス
(注) Static Domain Ids チェックボックスをオンにすると Fabric Manager が中断モードの VSAN を作成し、自動的に VSAN をアクティブにします。
ステップ 2 この VSAN で必要なスイッチをオンにします。
ステップ 3 VSAN Name と VSAN ID フィールドに入力します。
ステップ 4 LoadBalancing 値と InterOperValue を設定します。
ステップ 5 Admin Stateを active または suspended に設定します。
ステップ 6 Static Domain Ids チェックボックスをオンにして、未使用の静的ドメイン ID を VSAN に割り当てます。
ステップ 7 (任意)この機能をイネーブルにする場合は、 Enable Fabric Binding for Selected Switches オプションをオンにします。
詳細については 第 25 章「ファブリック バインディングの設定」 を参照してください。
ステップ 8 このダイアログボックスのフィールドへの入力が完了したら、Create をクリックして VSAN を追加するか、 Close をクリックします。
ポート VSAN メンバシップの概要
スイッチのポート VSAN メンバシップはポート単位で割り当てられます。デフォルトでは、各ポートはデフォルト VSAN に属します。2 つの方式のいずれかを使用して、ポートに VSAN メンバシップを割り当てることができます。
• スタティック ― ポートに VSAN を割り当てます。
「スタティック ポート VSAN メンバシップの概要」を参照してください。
• ダイナミック ― デバイス WWN に基づいて VSAN を割り当てます。この方法は Dynamic Port VSAN Membership(DPVM)機能といいます。Nexus 5000 シリーズ スイッチは DPVM をサポートしていません。
VSAN トランキング ポートは、許可リストの一部である VSAN の対応リストを持ちます( 第 13 章「VSAN トランキングの設定」 を参照)。
スタティック ポート VSAN メンバシップの概要
Fabric Manager を使用してインターフェイスの VSAN メンバシップを静的に割り当てる手順は、次のとおりです。
ステップ 1 Physical Attributes ペインで、 Switches > Interfaces を展開して、FC Physical を選択します。
Information ペインにインターフェイス設定が表示されます。
ステップ 2 General タブを選択します。
ファイバ チャネルの一般的物理情報が表示されます。PortVSAN フィールドに新しい VSAN を入力します。
ステップ 3 これらの変更を保存する場合は Apply Changes をクリックします。保存されていない変更を廃棄する場合は Undo Changes をクリックします。
デフォルト VSAN の概要
Nexus 5000 シリーズ スイッチの出荷時の設定値では、デフォルト VSAN 1 だけがイネーブルにされています。製造環境 VSAN として VSAN 1 を使用しないことを推奨します。VSAN が設定されていない場合、ファブリック内のすべてのデバイスはデフォルト VSAN に含まれているとみなされます。デフォルトでは、デフォルト VSAN にすべてのポートが割り当てられています。
(注) VSAN 1 は削除できませんが、中断できます。
(注) 最大 256 の VSANを 1 つのスイッチに設定できます。これらの VSAN の 1つがデフォルト VSAN(VSAN 1)、もう 1 つが分離 VSAN(VSAN 4094)です。ユーザ指定の VSAN ID 範囲は 2 ~ 4093 です。
分離された VSAN の概要
VSAN 4094 は分離された VSAN です。VSAN を削除すると、すべての非トランキング ポートが分離された VSAN に移動されます。これは、デフォルト VSAN または別の設定済み VSAN にポートが暗黙的に移動されるのを防ぎます。これにより、削除された VSAN のすべてのポートが確実に分離されます(ディセーブルにされます)。
(注) VSAN 4094 内のポートを設定するか、ポートを VSAN 4094 に移動すると、このポートがすぐに分離されます。
注意 分離された VSAN を使用してポートを設定しないでください。
(注) 最大 256 の VSANを 1 つのスイッチに設定できます。これらの VSAN の 1つがデフォルト VSAN(VSAN 1)、もう 1 つが分離 VSAN(VSAN 4094)です。ユーザ指定の VSAN ID 範囲は 2 ~ 4093 です。
分離された VSAN メンバシップの概要
Fabric Manager を使用して分離された VSAN に存在するインターフェイスを表示する手順は、次のとおりです。
ステップ 1 Fabricxx を展開し、Logical Domains ペインで All VSANs を選択します。
Information ペインに VSAN 設定が表示されます。
ステップ 2 Isolated Interfaces タブをクリックします。
分離された VSAN のインターフェイスが表示されます。
VSAN の動作ステート
VSAN がアクティブで、最低 1 つのポートが起動していれば、VSAN は動作ステートにあります。このステートは、トラフィックがこの VSAN を通過できることを示します。このステートを設定することはできません。
スタティック VSAN の削除の概要
アクティブな VSAN が削除されると、その属性が実行コンフィギュレーションからすべて削除されます。VSAN 関連情報は、次のようにシステム ソフトウェアによって保持されます。
• VSAN 属性およびポート メンバシップの詳細は、VSAN マネージャによって保持されます。コンフィギュレーションから VSAN を削除すると、この機能が影響を受けます。VSAN が削除されると、VSAN 内のすべてのポートが非アクティブになり、ポートは分離された VSAN に移動されます。同一の VSAN が再作成されると、ポートはその VSAN に自動的に割り当てられません。明示的にポート VSAN メンバシップを再設定する必要があります(図15-6 を参照)。
図15-6 VSAN ポート メンバシップの詳細
• VSAN ベースのランタイム(ネーム サーバ)、ゾーン分割、および設定(スタティック ルート)情報は、VSAN が削除されると削除されます。
• 設定された VSAN インターフェイス情報は、VSAN が削除されると削除されます。
(注) 許可 VSAN リストは、VSAN が削除されても影響を受けません(第 13 章「VSAN トランキングの設定」を参照)。
設定されていない VSAN のコマンドは拒否されます。たとえば、VSAN 10 がシステムに設定されていない場合、ポートを VSAN 10 に移動するコマンド要求が拒否されます。
スタティック VSAN の削除
Fabric Manager を使用して VSAN とその属性を削除する手順は、次のとおりです。
ステップ 1 Logical Domains ペインで All VSANs をクリックします。
Information ペインにファブリック内の VSAN が表示されます。
ステップ 2 削除する VSAN を右クリックしてから、ドロップダウン メニューで Delete Row をクリックします(図15-7 を参照)。
図15-7 VSAN の削除
確認ダイアログボックスが表示されます。
ステップ 3 削除を確認する場合は、 Yes をクリックします。VSAN を削除しないでダイアログボックスを閉じる場合は、 No をクリックします。
ロード バランシングの概要
ロード バランシング属性は、ロード バランシング パス選択に対する 発信元/宛先 ID(src-dst-id)または Originator Exchange ID(OX ID)(デフォルトでは、src-dst-ox-id)の使用を示します。
ロード バランシングの設定
Fabric Manager を使用して既存の VSAN にロード バランシングを設定する手順は、次のとおりです。
ステップ 1 Logical Domains ペインで Fabricxx > All VSANs を選択します。
Information ペインに VSAN 設定が表示されます(図15-8 を参照)。
図15-8 すべての VSAN の属性
ステップ 2 VSAN をクリックして、LoadBalancing フィールドに入力します。
ステップ 3 これらの変更を保存する場合は、 Apply Changes をクリックします。保存されていない変更を廃棄する場合は、 Undo Changes をクリックします。
Interop モードの概要
相互運用性を使用すると、複数ベンダーによる製品の間で相互に接続することができます。ファイバ チャネル標準規格では、ベンダーに対して共通の外部ファイバ チャネル インターフェイスを作成することを推奨しています。詳細については、「スイッチの相互運用性」を参照してください。