レイヤ 3 スイッチングの機能概要
ここではレイヤ 3 スイッチングについて説明します。
• 「ハードウェア レイヤ 3 スイッチングの概要」
• 「レイヤ 3 スイッチド パケットの書き換え」
ハードウェア レイヤ 3 スイッチングの概要
ハードウェア レイヤ 3 スイッチングを使用すると、サブネット間における IP ユニキャスト トラフィックの転送を、MSFC ではなく PFC および DFC で行うことができます。ハードウェア レイヤ 3 スイッチングは、MSFC 上のソフトウェアを使用せずに、PFC および DFC 上でワイヤ速度による転送機能を提供します。ハードウェア レイヤ 3 スイッチングの実行には、MSFC からの最低限のサポートが必要です。ハードウェア レイヤ 3 スイッチングが不可能なトラフィックは、MSFC がルーティングします。
ハードウェア レイヤ 3 スイッチングは、MSFC に設定されているルーティング プロトコルをサポートします。ハードウェア レイヤ 3 スイッチングは、MSFC に設定されているルーティング プロトコルに代わるものではありません。
各モジュールに IP ユニキャスト レイヤ 3 スイッチングをローカルで提供するために、ハードウェア レイヤ 3 スイッチングは、PFC および DFC 上で等しく稼働します。ハードウェア レイヤ 3 スイッチングでは、次の機能を提供します。
• Policy-based Routing(PBR; ポリシー ベース ルーティング)用のハードウェア アクセス コントロール リスト(ACL)スイッチング
• TCP インターセプトのハードウェア NetFlow スイッチング、再帰 ACL 転送判断
• その他のすべての IP ユニキャスト トラフィック用のハードウェア Cisco Express Forwarding(CEF; シスコ エクスプレス フォワーディング)スイッチング
PFC 上のハードウェア レイヤ 3 スイッチングは、DFC を装備していないモジュールをサポートします。レイヤ 3 スイッチングが不可能なトラフィックは、MSFC が転送します。
トラフィックはアクセス リストおよび Quality of Service(QoS)によって処理されたあとで、ハードウェア レイヤ 3 スイッチングされます。
ハードウェア レイヤ 3 スイッチングは、入力ポート モジュール上でローカルに各パケットの転送先を決定し、出力ポートに各パケットの書き換え情報を送信します。パケットがCisco 7600 シリーズ ルータから送信されるときに、出力ポート上で書き換えが行われます。
ハードウェア レイヤ 3 スイッチングにより、レイヤ 3 スイッチド トラフィックのフロー統計情報が生成されます。ハードウェア レイヤ 3 フロー統計情報は NetFlow Data Export(NDE; NetFlow データ エクスポート)に使用できます ( を参照)。
レイヤ 3 スイッチド パケットの書き換え
サブネット上の送信元から別のサブネット上の宛先へパケットをレイヤ 3 スイッチングするとき、Cisco 7600 シリーズ ルータは MSFC から学習した情報に基づいて、出力ポートでパケットの書き換えを行います。この書き換えにより、パケットは MSFC がルーティングしたような形になります。
パケットの書き換えによって変更されるフィールドは、次の 5 つです。
• レイヤ 2(MAC)宛先アドレス
• レイヤ 2(MAC)送信元アドレス
• レイヤ 3 IP Time To Live(TTL)
• レイヤ 3 チェックサム
• レイヤ 2(MAC)チェックサム(別名フレーム チェックサムまたは FCS)
(注) パケットは、ネクスト ホップのサブネットに適したカプセル化を使用して書き換えられます。
送信元 A と宛先 B が異なるサブネットに属し、送信元 A が MSFC にパケットを送信して宛先 B へルーティングさせる場合、ルータはそのパケットが MSFC のレイヤ 2(MAC)アドレスに送信されたことを認識します。
レイヤ 3 スイッチングを実行するため、ルータはレイヤ 2 フレーム ヘッダーを書き換え、レイヤ 2 宛先アドレスを宛先 B のレイヤ 2 アドレスに変更し、レイヤ 2 送信元アドレスを MSFC のレイヤ 2 アドレスに変更します。レイヤ 3 アドレスは変更されません。
IP ユニキャストおよび IP マルチキャスト トラフィックの場合、ルータはレイヤ 3 TTL 値を 1 減らし、レイヤ 3 パケット チェックサムを再計算します。ルータはレイヤ 2 フレーム チェックサムを再計算し、書き換えたパケットを宛先 B のサブネットに転送します(または、マルチキャスト パケットの場合、必要に応じて複製します)。
受信 IP ユニキャスト パケットは次のようにフォーマットされます(概念上)。
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宛先 |
送信元 |
宛先 |
送信元 |
TTL |
チェックサム |
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MSFC MAC |
Source A MAC |
Destination B IP |
Source A IP |
n |
calculation1 |
ルータが IP ユニキャスト パケットの書き換えを行ったあとの形式は(概念的には)、次のとおりです。
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宛先 |
送信元 |
宛先 |
送信元 |
TTL |
チェックサム |
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Destination B MAC |
MSFC MAC |
Destination B IP |
Source A IP |
n-1 |
calculation2 |
ハードウェア レイヤ 3 スイッチングの例
図 29-1に、単純なネットワーク トポロジーを示します。この例では、ホスト A は販売部門の VLAN(IP サブネット 171.59.1.0)、ホスト B はマーケティング部門の VLAN(IP サブネット 171.59.3.0)、ホスト C はエンジニアリング部門の VLAN(IP サブネット 171.59.2.0)にあります。
ホスト A がホスト C に対して HTTP ファイル転送を開始すると、ハードウェア レイヤ 3 スイッチングはローカル Forwarding Information Base(FIB; 転送情報ベース)および隣接テーブルの情報を使用して、ホスト A からホスト C にパケットを転送します。
図 29-1 ハードウェア レイヤ 3 スイッチングのトポロジー例
ハードウェア レイヤ 3 スイッチングのデフォルト設定
表 29-1 に、ハードウェア レイヤ 3 スイッチングのデフォルト設定を示します。
表 29-1 ハードウェア レイヤ 3 スイッチングのデフォルト設定
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ハードウェア レイヤ 3 スイッチングのイネーブル ステート |
イネーブル(ディセーブルにはできません) |
MSFC 上の Cisco IOS CEF イネーブル ステート |
イネーブル(ディセーブルにはできません) |
MSFC 上の Cisco IOS dCEF イネーブル ステート |
イネーブル(ディセーブルにはできません) |
設定時の注意事項および制約事項
ハードウェア レイヤ 3 スイッチングを設定する際、次の注意事項および制約事項に注意してください。
• ハードウェア レイヤ 3 スイッチングは、次の入力および出力カプセル化をサポートします。
– イーサネット V2.0(ARPA)
– 1 バイト制御を使用する 802.2 対応の 802.3(SAP1)
– 802.2 対応の 802.3 および SNAP
ハードウェア レイヤ 3 スイッチングの設定
(注) MSFC 上のユニキャスト ルーティングの設定手順については、 を参照してください。
ハードウェア レイヤ 3 スイッチングは、永続的にイネーブルになります。設定は必要ありません。
レイヤ 3 スイッチド トラフィックに関する情報を表示するには、次の作業を行います。
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Router# show interface {{ type slot/port } | { port-channel number }} | begin L3 |
レイヤ 3 スイッチド トラフィックの要約を表示します。 |
次に、ファスト イーサネット ポート 3/3 上のハードウェア レイヤ 3 スイッチド トラフィックに関する情報を表示する例を示します。
Router# show interface fastethernet 3/3 | begin L3
L3 in Switched: ucast: 0 pkt, 0 bytes - mcast: 12 pkt, 778 bytes mcast
L3 out Switched: ucast: 0 pkt, 0 bytes - mcast: 0 pkt, 0 bytes
4046399 packets input, 349370039 bytes, 0 no buffer
Received 3795255 broadcasts, 2 runts, 0 giants, 0 throttles
(注) レイヤ 3 スイッチング パケット カウントは、約 5 秒間隔で更新されます。
Cisco IOS CEF および dCEF は、永続的にイネーブルになります。ハードウェア レイヤ 3 スイッチングをサポートするための設定作業は不要です。
PFC を(存在する場合は DFC も)利用して、ハードウェア レイヤ 3 スイッチングは、フローごとのロードバランスを IP の送信元および宛先のアドレスに基づいて使用します。フローごとのロードバランスは、パケットごとのロードバランスでは必要となるパケットの再配列を行いません。どのようなフローに対しても、PFC や DFC を装備したすべてのスイッチが、まったく同じロードバランスの判断を行うので、結果としてロードバランスがランダムにならない場合があります。
Cisco IOS CEF ip load-sharing per-packet 、 ip cef accounting per-prefix 、および ip cef accounting non-recursive コマンドは C7600 シリーズ ルータではサポートされません。
MSFC 上の Cisco IOS CEF および dCEF の詳細については、次の資料を参照してください。
• 次の URL の「Cisco Express Forwarding」の項
http://www.cisco.com/univercd/cc/td/doc/product/software/ios122/122cgcr/fswtch_c/swprt1/index.htm
• 次の URL の『 Cisco IOS Switching Services Command Reference 』
http://www.cisco.com/en/US/docs/ios/12_2/switch/command/reference/fswtch_r.html
ハードウェア レイヤ 3 スイッチング統計情報の表示
ハードウェア レイヤ 3 スイッチング統計情報は、VLAN 単位で収集されます。
ハードウェア レイヤ 3 スイッチング統計情報を表示するには、次の作業を行います。
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Router# show interfaces {{ type slot/port } | { port-channel number }} |
ハードウェア レイヤ 3 スイッチング統計情報を表示します。 |
次に、ハードウェア レイヤ 3 スイッチング統計情報を表示する例を示します。
Router# show interfaces gigabitethernet 9/5 | include Switched
L2 Switched: ucast: 8199 pkt, 1362060 bytes - mcast: 6980 pkt, 371952 bytes
L3 in Switched: ucast: 0 pkt, 0 bytes - mcast: 0 pkt, 0 bytes mcast
L3 out Switched: ucast: 0 pkt, 0 bytes - mcast: 0 pkt, 0 bytes
隣接テーブルの情報を表示するには、次の作業を行います。
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Router# show adjacency [{{ type slot/port } | { port-channel number }} | detail | internal | summary ] |
隣接テーブルの情報を表示します。オプションの detail キーワードを指定すると、レイヤ 2 情報を含む詳細な隣接情報が表示されます。 |
次に、隣接統計情報を表示する例を示します。
Router# show adjacency gigabitethernet 9/5 detail
Protocol Interface Address
IP GigabitEthernet9/5 172.20.53.206(11)
(注) 隣接統計情報は、約 60 秒間隔で更新されます。